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奴隷商の男  作者: ねこのけ
第二章
37/49

第37話 盤上の駒


 巨躯の銀翼龍が頭を垂れ、その少女に撫でられる。

 その場面だけ見れば絵画のような、1つの完成された光景と言ってもいいものだった。


「……アリシアちゃんの意識が戻ったのか」


 途中何度もラウラを助けようとしたコンラート。それを何度も押さえつけ邪魔をさせないようにしていた奴隷商。

 

 2人はその光景を見てやっと事態が収束に向かったと安心する。そして奴隷商は肩の力を抜き、ふとコンラートの足元を見る。


「お前靴は?」


 するとコンラートは忘れていたのか、思い出したかのように振り返ってくる。


「あぁ、売った。花束を貰うために」


 奴隷商は全く理解出来なかった。一応借り物だというのを伝えていたはずだが、この男にどういう所に罪悪感のラインがあるか分からない。


「相変わらずだな。お前は……」


 久々にこの手の会話をした気がする。ただやっとこの騒ぎも落ち着きを取り戻せると思うと、不思議と不快にはならない。


 そう奴隷商も油断をしてしまっていたせいなのだろう。ふと何かが空を切る音がする。


「……?」


 奴隷商はその音がした瓦礫の方を見る。するとそこには見覚えのある汚らしい緑髪の男。それを視界に入れると同時に聞こえる、何かが噴き出す音に倒れる音。


 そして耳元で聞こえる叫び声。


「ラウラちゃんッ!!!」


 奴隷商がラウラ達を見る頃には、既にコンラートが走り出していた。奴隷商もそれを追いかけるが、ぞろぞろと現れる兵士と、その力なく倒れたラウラをジッと見て固まる龍。


 舌打ちと共に奴隷商は、ラウラへと駆け寄り赤い血しぶきを上げる首元を抑える。それはとめどなく溢れ、みるみる内に顔を白くさせてしまう。奴隷商は咄嗟に治癒魔法をかけようとするのだが、耳もとで聞こえるその龍の雄たけび。


「コンラートッ!!」


 暴風と遜色のないその雄たけびの中奴隷商は声を張り、ラウラを抱きかかえる。そして明らかに怒りの色の濃いコンラートはナイフを抜き返事をする。


「止めても行くからな」


 コンラートの視線は既にクレートへと向いていた。地面にはクレートの投げた血で汚れたナイフが落ちていている。


 そして奴隷商もコンラートと同じ感情を共有しており、一言残し駆け出す。


「任せる」


 ラウラの首元に治癒魔法をかけとにかく出血を防ぐ。だが、すでにかなりの血が失われてしまったのか、ラウラの意識は無く呼吸も浅い。


「んでこうなるんだよ」


 そうして道路脇の倒壊した建物の影にラウラを運ぶ。そしてそれと同時にアリシアこと龍が、ラウラを探すように暴れまわり、その足元ではクレートら、というよりプレヴァル侯爵の所の人間が龍へと攻撃を開始する。


「……任せるぞ。騎士」


 コンラートがアリシアへの攻撃を止めに入る様立ち向かう。多勢に無勢だが、今は任せる事しか出来ない。クラリスは既に負傷兵を回収し撤退を始めてしまっている。


 そう辺りを気にしながら治癒魔法をかけるが、ラウラの反応は見えない。


「おい!起きろ!」


 治癒魔法はかけ終り傷口はもう塞いだ。だがどうにも意識は戻らず、ラウラの呼吸が消えてしまう。奴隷商にドッと冷や汗があふれ出、そっとラウラの首元に指を当てても何も感じない。


「……」

 

 背後では建物が崩れる音に雄たけびが聞こえる。そんな背後で聞こえる戦闘音など耳に入らず、両掌を合わせラウラの胸に合わせる。


「こんなの何十年ぶりだよッ!!」


 不慣れな手つきながらも奴隷商はラウラの心臓を再び動き出させようと、手のひらを一定のリズムで押し付ける。だが奴隷商自身も骨が折れ、あちこちから出血をしている。


 そんな動作を繰り返せば、奴隷商の意識も痛みに飛びそうになる。


「……ッ」


 唇を噛みどうにか意識を保つ。そして血が足りないのならと、魔力でラウラの血を複製するが、どうにも効率が悪く量を作り出せない。だが着実に苦戦しながらも、空中には赤い水球が浮かび上がる。


「もっと血液が無いと……」


 自分の血液を使う訳にもいかない。ラウラの失った血液を無理やり魔力で増やして新鮮な状態にしているだけ。異常に魔力を使う上、素人が素人知識でこんな医療行為をするなど、リスクが多いのも承知。


「ただ死んだら元も子もない」


 文字通り糸を通すように細く伸びた血液を、ラウラの静脈に開けた僅かな隙間へと通す。時間はゆっくりでも段々と浮かぶ赤い水球は小さくなり、奴隷商の中にあったアリシアの魔力も湯水のように消えていく。


「これであともう一回ッ」


 水球が無くなったのを確認し、開けた穴を治癒魔法で閉じる。そしてもう一回心臓マッサージを試みる。


 するとそんな奴隷商の肩を叩く翡翠色のボロボロになったドレス。ディアナは明らかに治療を受ける側な風貌の奴隷商を心配そうに見る。


「あんたそんなケガでなにを……」


 奴隷商の行動を理解出来ないと、見下ろしてくるディアナ。ラウラがもう呼吸を止めている事に気付いていて、当たり前の事を言う。


「あんたが死んじゃうよそれじゃあ。早く治癒魔法を……」


 ディアナは奴隷商の肩を揺らす。だがその奴隷商は振り返る事すらせず、自身の流れる血を無視しひたすらに、目の前で動かなくなった少女へと手のひらを押し付ける。


「コンラートがまずそうなら回収して逃げろ」


 奴隷商のそんな態度にディアナは苛立ちを覚えながらも、間近で起こる戦闘の余波を避けるよう頭を下げる。


「いつもそうやって自分をッ!!」


 ディアナは奴隷商の腕を無理やりに引っ張る。それで奴隷商の体勢は崩れてしまうが、その眼は冷たくディアナを睨む。


「すまない。分かってくれ」


 それだけ伝えると、奴隷商はすぐにラウラへと向き直る。そしてまた同じ動作を繰り返し、ディアナはどうする事も出来ない。


 だがそこでやっと奴隷商の行いが報われる。ふと、ラウラは咳き込みその脈は動き出す。それを非現実のように実感はないが、首元にあてた僅かな脈は確かにあった。


「よし……良かった」


 未だラウラの意識は戻らないが生命活動が戻った事に、奴隷商はとにかく安堵してしまう。だがディアナの焦りは、ひたすらに外の景色へと向く。


「早く逃げないと……」


 ラウラへと自身のジャケットを被せる奴隷商。一瞬ためらいつつもディアナはその肩を叩き、しきりに外を見る。そこには着実に銀龍の血を流させ、そしてその一部は奴隷商らを捕まえようとこちらへと向かってきている。


 奴隷商もやっとそこで、その現状に気付く。ジャケットを脱ぎ下の白シャツだけになっていたが、身軽。そしてその足は逃げる訳でも無く、瓦礫を踏みしめる。


「俺は行く。コンラートだけを置いて行くわけにいかん」


 またかと、ディアナは思ってしまう。いつもいつもこういう時は私が何を言っても聞く耳を持ってくれない。


「……」


 黙って睨む事しか出来ない。そんなディアナに奴隷商は振り返り、ナイフを抜き出す。


「お前は逃げろ。借金はチャラにしてもらって構わない」


 奴隷商はそう言って走りだし、外の眩しい日光に消えて行ってしまう。そして取り残され、魔力も無いディアナは俯く。


「……ずるいじゃん。そういうの」


 抜いたナイフがキラリと反射する。そしてその足は、少し大きい足跡を追うように、地面を踏みしめるのだった。


ーーーー


 奴隷商に任され、と言うより任されずともそのつもりだったコンラート。その足と緑眼は、一直線にその仇へと向いていた。


「殺すッ」


 その緑髪の長髪の男は、ナイフを片手にその騎士に応えるよう正面に捉える。


「おぉ怖い。男にモテてもなんだけどなァ」


 コンラートは慣れないナイフをクレートの首目掛け切りつける。だが流石に本職相手。クレートもあっさりとそれを避けてしまう。


「そんなもんかァ?」


 ナイフを煌めかせクレートはニヤつく。それを視界にしつつも、コンラートも逸れたナイフの軌道を直し、再び腕をしならせる。


「まだまだァッ!」

 

 金属同士の激しくぶつかり合う高い音。それに加え一瞬火花が散り、その反動で互いに一瞬距離が生まれる。


 するとすぐ頭上を掠る風圧と、一瞬の影。それは銀翼の龍の尾が振り回されているらしく、コンラートの先にあった建物が音を立てて崩れる。


「アリシアちゃん……」


 コンラートは一瞬だけ意識を龍へと向ける。先ほど少しの間だけアリシアとして戻ってきたはずなのに、今では怒り狂ったように龍として暴れる。


 だがそんな心配コンラートしかしておらず、クレートはこれを機にと突っ込んでくる。


「他の女に目移りかァ?姫様が泣いてるぜぇ?」


 迫るナイフをコンラートは体を逸らし避ける。そして更に来る追撃を、なんとか体勢を整えながらもナイフで受ける。そして互いの顔の距離は一気に近づく。


 そこで力業で一気に押し返し、コンラートは強く言い返す。


「俺はいつまでも姫様の騎士だ」


 だが、クレートは嫌に笑い、ニタニタとそれを言う。


「姫様ねぇ……今どうなってるか知りたいかァ?」


 コンラートは息を呑む。これまで全く情報の無かった主の事。それが一番嫌いな男が知っているという事実。どうにも嫌な予感を感じる。


「知りたいよねぇ?お前が守れなかった姫様の惨状をねェ!?」


 明らか動揺し迷うコンラートを面白がるようにクレートは唾を飛ばす。その眼はむき出しにコンラートを覗き込む。


「教えな~い。あーあ今頃死んじゃってるかもねェ!?」


 コンラートは怒りよりも早く、反射でクレートの腹を蹴り飛ばす。言葉を脳が理解する前に、その忌まわしい悪臭を放つ男を、瓦礫の山へと押しやる。

 

 だがそのクレートはなんてことのない様に、土煙の中パラパラと肩に掛かる小さな瓦礫を払い、すぐに立ち上がる。そしてナイフを再び抱え、ケタケタと笑う。


「あ~オモロぉ」


 どこまで言っても邪悪。腹が立つというよりただただ殺意。それがコンラートの中に浮かび上がり、他の敵兵を無視し、クレートただ一人を捉える。


「その顔二度と笑えなくしてやる」


 腰を落としコンラートは駆ける。周囲からは敵兵がコンラートを止めようとするが、それを掻い潜り、クレートの懐へと潜り込む。


 だがそのクレートはニヤニヤと笑ったまま。

 

「簡単に挑発のってぇ。犬でも2回目は引っかからないぜ?」


 クレートの背中にあった瓦礫から敵兵2人が現れる。それが迫るコンラートを抑えようと、長刀を振るうのだが。


「舐めんなッ」


 前のめりになっていた体勢を元に戻し、敵兵の刃を引き込む。逆に敵兵が刃の行き先を無くし、つんのめり体勢を崩してしまう。そこでコンラートは敵兵の手首を握り、その剣の柄を奪ってしまう。


「……え、俺の剣」


 そう動揺する敵兵だが、奴隷商は軽く。


「ごめんね」


 そう言ってその敵兵の腹を蹴り飛ばし、瓦礫へと突っ込ませてしまう。そしてもう一人の敵兵が振り下ろそうとする剣を見て、振り向きざまに受けてしまう。その勢いまま相手の剣を力で押し返し始めてしまう。


 そして敵兵ごと剣を遠くに弾いてしまうと、そのままクレートへと向き直り睨む。


「相変わらず1人じゃなんにも出来ないんだな」


 するとクレートから舌打ちが聞こえる。そしてその眉は釣り上がり、何も言わずにナイフを片手にコンラートに突っ込んでくる。


「━━スゥ」


 コンラートも剣をまっすぐに構えそれを受けて立つ。流石に三度目となれば、クレートの姿を見失う事はない。


 だがクレートの手のひらに握られていたのは瓦礫の小さな破片。それをコンラートへと投げ、剣で受けさせるうちに距離を一気に詰める。


「主も守れねぇような騎士に言われたかねェ~よ」」


 クレートはコンラートの振るう剣を躱し、屈んだままそのがら空きの腹へと到達する。


 そして間髪入れずにコンラートの腹に冷たい刃の感覚と、激しい痛みが走る。そこで決まったとクレートは、どう煽ろうか考えるが、コンラートの腹に刺さったナイフは、その腹筋の固さで抜けない。


 そしてまるで計画通りだと、コンラートはクレートを見下ろす。


「やっと間合いに入ったな?」


 コンラートはクレートの細い腰をがっしりと掴む。そして力を込め、クレートの両足は地面から浮いてしまう。


「ア?いや刺さって……」


 動揺するクレートにざまぁみろとコンラートは痛みに耐え無理に笑う。そしてクレートの首に腕を回し固定すると、そのニヤケ面を地面へと擦りつけようと後ろ向きに体重をかける。


 そこまでされ流石にクレートも、眼前に近づく地面を避ける事が出来ず焦り出す。だが、すでに決まってしまっており、抜け出す事が出来ずクレートは地面と接吻をする。


「ちょちょっと━━ンガュッ」

 

 顔は潰れ歯は砕ける。確かな感触を得たコンラートは、止めだとナイフで着き刺そうとするが、タッタッタとハイテンポな足音が近づく。


「……新手か」


 銀色の長髪を結んだ男。確かアリシアの馬車に同乗していた男だ。

 コンラートはそう認識し、意識を飛ばしたクレートから手を離し、再び剣を構える。相手もどうやら剣らしく、抜刀の構えを見せていた。


「……貴族って事は指揮官だよな」


 明らかに服装が違う。それにあの馬車に乗っていたという事はそれなりの立場。戦場で指揮官をやれれば形勢は大きく覆る。


 そう思っていると、耳元で響く轟音。それは頭上近くで暴れていた龍の頭から昇る煙が鳴らしたものらしかった。


「石火矢か……?」


 香ってくる火薬の匂いでコンラートはそう判断する。そしてちらっと見える、龍の背中をかける男は片手に筒を持っているのが見え、予想は当たったと分かる。


 そしてその石火矢は攻撃というよりは、その爆裂の音で龍を怯ませる目的だったのか。その攻撃で一瞬動きが止まった所に、建物の瓦礫から現れた外套の集団が石魔法を構える。


「頭狙えよッ!!!」


 指揮官らしき男の掛け声と共に、龍の頭へと槍のような攻撃が突き刺さる。龍は悲鳴にも近い雄たけびをあげ、四肢を振り回し暴れる。


 それに踏み潰されそうになり咄嗟に避けるコンラートだが、意識がそちらに向きすぎたせいで、その足音を忘れてしまっていた。


「よお。騎士」


 そう言ってコンラートの死角から刃を伸ばすのはクリスだった。その後ろではクリスの下の兵士がクレートを回収し瓦礫の向こうに消える。


 一気に焦りが湧くコンラートだが、無理にでも体を捻りその切先を避ける。


「アリシアちゃんを守らないといけないのに……ッ」


 次から次へと湧いてくる兵士達。それを捌いても捌いてもコンラート1人ではどうにもできない。それどころか本隊は未だアリシアへの攻撃の為に動いている。


 だがコンラートに逃げる選択肢は無い。アリシアを取り残す事、そしてラウラを殺した事。それが原動力となり、無理な体勢からも片手で剣を振るう。その切先はコンラートの張った胸の上を弧を描き、地面にたたきつけるように振り下ろす。


「筋肉バカかよ」


 クリスは無理に突っ込むことも無いと、その剣の軌道を見て身軽に一歩引いてしまう。そして空ぶるコンラートの剣は、勢い余り地面にぶつかり折れてしまう。


「クソ…ナイフはッ」


 それを許すはずも無くクリスは、再び加速しその剣を最小限の動きで振おうとする。それを見て間に合わないと悟ってしまうコンラート。


「こうなりゃッ」


 どうにでもなれと、膝を上げ肘を立てる。そして向かってくる白刃をアドリブで膝と肘で挟み込み受けようとするのだが。


「こいつまじかよ━━」


 クリスが目を剥くが、コンラートも出来るとは思っていなかった。所謂ハイになっているからかもしれないが、このチャンスを逃す訳も無く、すぐそこにあったクリスの眼鏡目掛け空いた片手の拳を叩きこむ。


「2人目ッ!!」


 正面から拳を食らい土煙を立て地面に転がるクリス。それを追撃しようとするが、その間の地面に龍の尻尾が叩きつけられ、地鳴りのような音と共に壁を作ってしまう。


「……痛がってる」


 コンラートからは龍の背が見え、どうやら何人かは登り至近距離で攻撃しているらしかった。黒煙と石魔法で弾かれた破片で溢れ、一部からは血が噴き出している。それを止めるべく地面に擦りつけられた尾を登り、駆け上がろうとするのだが。


「あいつと言いお前も腹立つ奴だな」


 尾を登った先から現れるクリス。それはどうやら待ち構えていたらしく、剣を今にも振り下ろそうとする。コンラートもなんとかそれを受けようとするが、ここでクレートに刺された傷の痛みを思い出してしまい、一瞬のラグが生まれる。


「あるいはと思ったんだが。期待外れだ」


 クリスの色の無い瞳が見下ろし、白刃は太陽に反射してコンラートの肩に突き刺さる。


「━━クッァ゛」


 それを受けてなお立とうとするが、かなり深く刺さったその白刃。だが、コンラートは龍の背中に見えた影を信じ、その白刃を掴む。


「……勝手に期待して失望するなよ」


 コンラートの言っている意味が分からないとクリスは怪訝そうにする。だが、その駆け降りる足音は、コンラートの期待通りにやってき、その男へと飛び掛かる。


「相変わらずバカしてんな。お前は」


 全身血まみれ、というか片手は腕が反対方向に曲がりぶら下がっているだけ。だがそれでもその片手にはナイフが握られ、クリスの喉元を狙う。


 それを見て思わずコンラートも微笑んでしまう。


「バカはどっちだ」


 そんな戦闘の推移を遠巻きに眺める男。全くの安全圏である遠い城門上からそれを眺め、微笑む。


「案外苦戦してるねぇ」


 配下は軒並み出払い、傍にいるのは雑兵だけ。基本実行部隊に全て任せ、自分は後方から事の顛末を眺めるだけ。それが出来るのは現地に自身の意思を反映して動ける人材がいるからこそ。


「君はもう少しやれる男だ」


 その渋い眼光はジッと成り行きを眺める。だが既に失敗の可能性は無く、あとは上振れを引くかどうかの状況。


 それを見ていた雑兵は思う。ただただぼんやりと、引退した老人が徒然に田園を眺めるよう穏やかな様子だったと。

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