第296話 社畜と勇者の痕跡
リンデさんから聞いた『勇者の伝説』は、小話も含め、これまで聞いたことのある内容とあまり変わり映えのするものではなかった。
つまりはこうだ。
——今から十数年前に勇者が『異郷』から召喚された。
勇者は王国で選び抜かれた聖女2人と一緒に魔界に旅立ち、それ以降、魔族や魔物が王国に攻めてくることはなくなった。
しかし勇者と聖女らは帰ってくることがなかった。
以上。
唯一あった新情報(小話)によれば、勇者は凄腕の剣士だったらしいとのことだった。
リンデさんによれば、勇者は召喚された直後に王国一と呼ばれる騎士を眼光だけで『参った』と言わせたらしい。
なんだそれ。
……と思ったが、以前聞いた話では、勇者は召喚された時に強力なスキルを授かると聞いた気がする。
剣術が得意ならば、多分『剣豪』とか『剣聖』とかそういうやつだ。
だったら、そういうこともあるだろう。
あとは、勇者が召喚されたのが『異郷』であり『異世界』とは伝わっていないことが分かったくらいだろうか。
リンデさんは、この世界のどこか遠い国から召喚されたものだと思っているようだった。
まあ、『異世界』の存在を信じられるかと言われたら、普通はノーだからな。
「そういえば、勇者って何歳くらいの人だったんですかね」
エールを飲みつつ、リンデさんに聞いてみる。
勇者は少年だった、とは聞いている。
普通に考えたら、魔王を討伐するような危険な任務に子供を向かわせるのは躊躇するものだが……それは現代人の感覚か。
「さあー? でも、かなり若い男の子だったらしいよ。でも、魔王討伐に向かった時には成人はしていたんじゃない?」
「確かにそうですね」
この世界の成人は15歳だ。
さすがに、それより若いということはなさそうではある。
だとすれば、高校生から大学生くらいだろうか。
日本人は若く見られがちだから、社会人の可能性もあるが。
「ていうか、アラタさんはなんでそんなに勇者のお話にご執心なわけ?」
「さっき言った通りですよ。仕事で必要になって、話を集めているんです」
「ふーん?」
リンデさんはそう言いつつも、話題を深掘りしたそうに俺をじっと見ている。
うーむ……秘密主義で通すのもあまりよろしくないか。
リンデさんとは今後も仲良くしたいし、話して問題なさそうなことは話してしまおうか。
「実をいうと、私の知り合いに勇者にゆかりのある方がいらっしゃいまして。その方自身は地元を離れられないので、私が代わりに勇者の逸話を蒐集したり、足跡をたどっているのです」
「へえ、勇者様の知り合いが!」
がぜん、色めき立つリンデさん。
確かに有名人の関係者が知人にいると聞かされたらテンション上がるわな。
まあ、その人記憶ほとんどないし、なんなら本当に関係者だったかどうかも分からないんだけど……
「そういえばアラタさんと勇者様って、生きていたら年も同じくらいじゃない? その『ゆかりの人』って勇者様と同郷の人? もしかして勇者様のご両親とかお嫁さんとか幼馴染だったりとか?」
「ちょ、顔近いですって!」
あと酒臭ぇ!
興奮してテーブルから身を乗り出してくるリンデさんは、さらにエールを自分で2杯おかわりしていた。
解毒魔法で酔いを醒ましても、さらに追いアルコールしたら意味なくないか!?
「で? で? で? 勇者様の知り合いの人ってどんな人なの!?」
「いや、そんな大したものじゃないですって。単に、昔の勇者を知っている程度の人です」
「なんだー。それじゃ普通に他人じゃん」
ぶーっ、と口をとがらせるリンデさん。
正確には前世で一緒だったらしいのだが、そこは話して理解できるものでもなく。
「とにかく、その方のために情報を集めることで私の仕事になるんですよ」
「そっかー……あ、そうだ」
「何か思い出しました?」
「うん。実はジェントにも、勇者様の史跡が残ってたんだった」
「そういうの、先に言ってほしかったですね……」
小話の前に。
いやまあ、小話も重要な情報だけども。
「それってどこにあるんですか?」
「それがね、ちょっと目立たないところにあるんだよね。小教会の裏手に雑貨屋があるんだけど……って分かる?」
うーん、とリンデさんが小首を傾げつつ聞いてくる。
そこなら分かる。
「なるほど、冒険者ギルドの近くですね。坂の上の方の。小教会っていうか、修道院ですよね。あの近くですか」
「そうそう! ただ、一応道端に碑みたいなのがあるけど地味だからあんまり目立たなくて。私も今思い出したくらいだし」
「小さな碑、ですか」
一応、勇者って救国の英雄だよな。
いや、単に立ち寄っただけとかならそんなものか。
日本でもあちこちに高貴な方や有名な戦国武将が休憩した場所なんかが残っているけど、地元民しか知らなかったり小さな看板とか石碑がひとつ建っているだけだったりするし。
「あー、ジェントは単純に物資の補給で立ち寄っただけらしくて。昔そこにあった雑貨屋で買い物したっていう、地味~な逸話だから」
俺の表情で察したのか、リンデさんが苦笑しつつ付け加えてくれる。
やっぱりか。
「それに、この街は別に国境近くにあるわけじゃないし、魔王軍の侵略を受けたわけでもないからね。さすがに王都だと広場に像が建っていたりするって聞いたけど。なんかごめんねー」
さすがに王都には行けないな。
機会があれば行ってみたいけど。
……ひとまずは、こんなものか。
「いえいえ、碑の場所が分かったのは大きな収穫です。ありがとうございます」
「そう? ならよかったー」
俺が礼を言うと、リンデさんはほんわかした笑みを返してくれた。
酔っぱらってウザ絡みしてくる以外は、本当にいい人だし美人なんだよなぁ……
とりあえず明日は帰る前に、そこに立ち寄ってみるか。
すいません!
次話は諸般の事情により9/26の更新となります。
よろしくお願いします!




