怪異の集会、え?私にも回覧板が?へ?なんで?
靈影暁人が拉致され、三日が経過した。
梅雨らしい梅雨が年々減る中、川沿いの怪異達は山奥の源泉に避難しているのか、大学近くの川にはその姿さえなかった。
私は、ミズチを胸の指定席にツッコミ、講義が終わって教室を出るところだった。
(あの三白眼がいないだけで、こうも平和とは…。)
平穏無事を私は噛み締めて、廊下を亜美ちゃんと他愛ない話をしながら歩いていた。
(単位も提出物も今のところ問題なし…亜美ちゃんと、佐藤くんのおかげでもあるか…友達っていいなぁ…)
友人の大切さを噛み締めながら、大学の校門をくぐり私と、亜美ちゃんは駅に続く坂道をのんびりと歩いて下っていた。
その時、川沿いに差し掛かった時、川べりからいっぴきの河童がパシャンと水の中から顔を出して、私に手招きしているのが、見えた。
(えっ……私……?)
思わずひくついた顔で、私は立ち止まりそうになった。
「亜美ちゃん、ごめん。私忘れ物してきたかも。先に帰ってて、ごめんね。」
苦しい言い訳を並べ、私は亜美ちゃんと泣く泣く別れた。また、何か私に悩み事の相談ですかぁ?
渋々、私は河童のいる川へと足をくけたのだった。草が茂みになって多い茂っている場所を選び、川沿いに顔を出した。
河童はそれを見つけるとにまぁと薄い笑い顔を浮かべ、私に一直線に、泳いできた。
「姐さん、姐さん。どうも、回覧板でぇす。」
悪びれた様子もなく、河童はベニヤ板に紙切れを挟んだものを私に突き出してきた。
「かいらん……ばん……?」
思わず素の声が出た。
目の前に突き出されたベニヤ板はどことなく湿っぽく、ほのかに川底の苔の匂いが漂っている。挟まれている紙は、どこから拾ってきたのか半紙の裏紙で、達筆すぎる毛筆で何やらびっしりと書かれていた。
「ちょっと待って、河童さん。私、人間だよ? 住民票もちゃんと市役所にある、ごく普通の女子大生だよ? なんで怪異の回覧板が私のところに回ってくるの!?」
ツッコミを入れながら一歩後ずさると、河童は頭の皿の水を揺らしながら、さも当然といった顔で薄い唇を尖らせた。
「なに言ってるんスか姐さん。この川沿いエリアの『締め』姐さんって相場が決まってるじゃあないスか。何せ、あの大怪異のミズチ様の嫁さんなんでから。」
『カイはミズチのお嫁さんだぉ。』
カッパの余計な一言に、ミズチがふんすと小さい鼻息をつく。
「余計なこと、吹き込まないでよぉぉぉ!」
半ば諦め顔で回覧板の内容を確認してみる。そこには、想像以上にしっかりとした(そして物騒な)議題が並んでいた。
【川沿い・山陰地区 第42回 夏の怪異大集会のお知らせ】
日時: 今週末 丑の刻(午前2時頃)
場所: 奥多摩源泉 特設宴会場
【主な議題】
1. 梅雨時期の長雨に伴う山奥への一時避難計画について
2. 人間を驚かす際の下限マナー(心臓の弱い老人は避ける等)の再確認
3. 例の三白眼(靈影暁人)不在に乗じた宴会の開催。
4. 「胸に龍(蛟龍)を抱く人間界の姐さん」への感謝状贈呈について
「……ちょっと待って。最後の議題なに!? 感謝状ってだれのこと!?」
『えへへ、きっとカイとミズチの、ことだぉ。胸張って、誇れるぉ』
「誇れるか! 完全に向こう側の住人扱いじゃないの!」
思わず大声を出してしまい、チラッと堤防の上を気にかけたが、幸い通りかかる人影はなかった。もし見られたら「川に向かって一人で叫ぶ危ない女子大生」として大学の裏掲示板に書かれてしまう。
(一難去って、また一難…開催場所…遠い…あと、なんで休みの日…今週末の土日の連休って…(ヽ´ω`)トホホ・・。)
靈影 暁人がいなくなって静かになったのに。
(今頃、私の実家でお母様からしごかれてるのだろういい気味だ)
24時間耐久写経の他には一体何をやらされているのやら、想像しただけで背筋が凍るわ。
夏はまだ、遠い中ー私は週末に向けて回覧板にサインを泣く泣く入れ、河童に投げ返すのだった。




