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24時間耐久写経~出来なかったらハリセン炸裂よ♡


過ぎ去った嵐(実母による、実父&三白眼の強制粗大ゴミ回収劇)を見送った後、私はもう何も手がつけられないまま、精神的にも肉体的にもドス黒く重たい身体を引きずり、胸元のミズチと共にベッドに潜り込んだ。


(ねぇ、我が家の水無瀬神社に祀られてる神様……ちょっとだけ、呪っていい……? なんでこんなおかしな血筋に私を生まれ変わらせたのよ……)


神社の娘にあるまじき最大の不敬を心の中で盛大にブチまけていた頃――。

お母様の軽自動車の荷台(もしくは後部座席)に文字通り「回収」された、お父さんと靈影(みかげ)暁人は、車内で揃って `(⊃_ ̫ _)⊃キュウ...` と完全に事切れたように縮こまっていた。


「本当に、困った人たちですねぇ。神威さん……京都に帰ったら、たっぷりお説教と、24時間耐久写経(しゃきょう)をしましょうねぇ♡」


バックミラー越しに、気絶している旦那を見つめてお母様はふんわりと微笑む。

……いや、うちの実家は『神社』なのに写経(お寺の修行)をやらせるの!? と突っ込みたくなるような意味不明な罰を、お母様は平然と、おっとりとした声で宣(のたま)っておりました。神仏習合にも程がある。


一方、その横で簀巻きにされたまま、ようやくカニさんの泡吹きから意識を取り戻しかけていた不憫すぎる祓い屋エリート・靈影暁人(みかげあきと)は、絶望のどん底にいた。


「(む、むぐぐ……。な、何なんだこの女の人は……。霊圧が、あの肘打ち女子(カイ)や、最強の怪物(神威)とはまた違う……まるで底なし沼のような、逆らったら存在ごと消されるようなおっとりとした恐怖を感じる……っ!)」


同じ「民俗学」を専攻する大学の女子たちからは、そのクールな三白眼とミステリアスな雰囲気で「暁人くんカッコいい♡」とキャーキャー言われている彼だが、今や見る影もない。


「あら、靈影(みかげ)の坊っちゃん、お目覚めかしらぁ? うちの神威さんが乱暴に拉致(らち)しちゃってごめんなさいねぇ。お詫びに、水無瀬の家訓に従って、うちのカイちゃんとこのままお見合い、あるいは既成事実(外堀)をしっかり作らせていただきますからねぇ〜。ふふ、責任、取っていただきますよぉ?」


「むぐぅぅぅーーーッッ!?(違う、俺はただの被害者だ!! 助けてくれ!! 警察を呼んでくれ!!)」


お母様のおっとりとした笑顔の裏に隠された「外堀から埋めていく」タイプの最強の策略を前に、暁人は声にならない悲鳴を上げ、再び静かに白目を剥いた。


そんな車内の地獄の片道切符(京都行き)など知る由もない私は、アパートのベッドでミズチを抱きしめる。


「はぁ…お母様、ごめんね。水無瀬の家系にまともな乙女の幸せは訪れないみたい。私の乙女心は、今日の握力とアッパーと一緒に、もう粉々に散っちゃいました……」


『カイ、大丈夫だぉ。人間の男なんてみんな弱っちい紐ヘビだぉ。カイにはミズチがいるぉ。だからお祝言(しゅうげん)――』


「うるさい、寝ろ(瓶ポン)」


『ヒェッ、寝るぉ!!』



◇◇◇



東京の私のアパートから遥か数百キロ。

京都にある我が実家――水無瀬神社の広々とした板張りの道場(稽古場)では、あり得ないほどのピリついた霊圧と、シュールすぎる光景が広がっていた。


道場の正面には、美しい和装に身を包んだお母様(百合子・通称ユリア)が、背筋をピンと伸ばして上品に座っている。その手には、なぜかかなり分厚い厚紙で自作された、ガチ仕様の『愛のハリセン』がパシパシと不穏な音を立てて握られていた。


そして、その前に並べられた二つの小さな机。

そこには、神社なのにどう見ても仏教のそれである「ぶっ太い写経用の紙の束」と、お母様の霊力によって禍々しく墨汁の滴る筆が置かれていた。


「神威さん……。可愛い盛りのお年頃の娘のところに、あんな真夜中、それも他所様(よそさま)の坊っちゃんを簀巻きにして押し入るなんて……。ご近所の皆様のご迷惑になると、お分かりになりませんでしたのぉ? 」


お母様のお顔は終始はんなりとした満面の笑顔。だが、その瞳の奥は1ミリも笑っていない。底なしの暗黒空間が広がっている。


「す、すみませんでした百合子さん……! パパ、カイに会いたくてつい理性が縮地しちゃって……アギャッッ!!!(顎にクリーンヒット)」


「言い訳は聞きませんよぉ〜」


パシィィィン!


お父さんが自作ハリセンで容赦なくぶっ叩かれ、道場の床に綺麗にスライディングしていく。


その横で、いまだに縄縛りを解かれたばかりで身体がバキバキの靈影暁人は、ガタガタと震えながら筆を握りしめていた。


「(な、何なんだこの空間は……! 日本最高の祓い屋が、ただのハリセンで紙のように吹っ飛んでいく……。というか、なぜ霊影家の次期当主である俺まで、水無瀬家の道場で般若心経を書かされているんだ……っ!?)」


「あらぁ、靈影の坊っちゃん。手が止まっていますよぉ?」


「ひっ……! ぃ、いや、俺はただ大学の中庭で怪異を祓おうとしていただけの、通りすがりの被害者でして……!」


「ふふふ、言い訳はいりませんよぉ〜。我が家のカイちゃんの骨を折って、さらにパパと真夜中にお部屋へ連れ込むなんて、もう『外堀』は埋まってますからねぇ。まずは24時間、邪念を捨てるために写経をして……その後は水無瀬家のお婿さんになるための『強制お婿修行(物理)』を始めましょうねぇ〜♡」


「お、お婿……修行……!?(違う、俺はあいつに肘打ちされて肋骨を折られた側だぞ!?)」


理不尽という名の絶対的な暴力(お母様)を前に、女子に大人気の三白眼イケメンエリート・暁人は、涙目で「摩訶般若波羅蜜多……」と猛烈なスピードで写経の筆を走らせるしかなかった。


一方その頃、東京のワンルームアパート。ベッドの中でミズチをクッション代わりにしながら、私は盛大に鳥肌を立てて目を覚ました。


(……なんか実家の方から、もの凄く不吉で可哀想な男たちの絶叫が、幻聴となって耳の奥に響いてくる気がするんだけど…。いや、気のせいよね。うん、知らない。関わりたくないから、二度寝しよう…)


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