神速神威~新幹線は光になる…(おいおい!)~
私は、玄関のドアを開けたことを秒で後悔した。
(いや……開けなかったら開けなかったで、アパートの壁ごと粉砕されて後悔してたよね……。どっちにしろ詰んでたよね……)
心の中で深く肩を落としながら、私は目の前に立つ、無駄にキラキラとしたオーラを放つ父親を恨めしげに見やった。
「っていうか、どうやったら京都から(さっき、電話でそう言ったばっかりなのに)たったの一時間で来れんのよぉぉぉぉぉぉっ!!!! 物理法則どこ行ったのよぉぉぉ!!」
「そんなの愛しのカイのためなら、神速の縮地法を新幹線に上乗せするなんて朝飯前だよ♡」
爽やかにのたまう、神威・父。
そんな父の手によって、玄関からリビングの床へと、簀巻きの芋虫状態になった靈影暁人が「ドサッッ!!」とゴミのように無造作に放り投げられた。
「むぐぅぅぅーーーッッ!!!(床に激突の音)」
「ちょ……お父さん!!!! なんてことを……っ!!」
(……あ、心の中ではぶっちゃけ『ざまぁみろ三白眼ヤロー、うちのお父さんのヤバさを思い知れ!』って、ちょっとスカッとしてるけどね!)
だけど、私の表面上の表情は、あくまでも「大変な事件が起きてしまった!」と恐怖に青ざめている被害者を装う。
「今、夜の22時よ!? 何時だと思ってんのぉぉぉぉ! 近所迷惑&凶悪な犯罪の香りを我が家に漂わせないで!!」
私のその叫びも虚しく、すでに廊下の向こうからは「ガチャリ……」と、隣の部屋の住人が深夜の騒音に耐えかねて、外の様子を伺うためにドアを開ける不穏な音が響いてきていた。
(終わった…。明日、大家さんに呼び出されて強制退去させられたらどうしよう…。うちの戦闘狂の家系を呪う! ガチで呪ってやるわ…!!)
そんな私の絶望なんて一切お構いなしに、愛しの娘との再会を果たしたパパは、その美しい瞳を感動でウルウルと潤ませた。
「ああ、カイ! パパに会いたかっただろう! 寂しかっただろう!!」
両手を大きく広げたパパは、まるで一歩前に踏み出すための『足場』にするかのように、床に転がっているみかげクンの背中の上に、思いっ切り全体重をかけてドスッッとローファーのまま踏みつけた。
「ぶ、ふぇっっっ!!??(肺の空気が全部出た音)」
みかげクンが本日二度目の、気の毒すぎる限界の悲鳴(肋骨にヒビ入ってます)をあげるのをBGMにしながら、パパはそのまま勢いよく私に飛びつき、ギューーーッと力任せに抱き着いてきた。
(ひ、ひぇぇぇぇぇ!!! お父さんストーーーップ!!! 今私の胸には、あんたが世界でいちばん大嫌いな『大怪異』が、文字通りむぎゅっと挟まってるのよぉぉぉぉぉ!!!)
『ふ、ふぎゃぁぁぁ……っ、ミズチ、お星様が見えるぉ……潰れて平べったい紐ヘビになっちゃうぉ……っ』
父の鋼のような胸板と、私の胸の間に挟まれたミズチが、父の放つ超ド級の退魔の霊圧と物理的な圧力で
脳内で今にも消え入りそうな瀕死の声を上げている。
父の過剰な愛情表現(物理)のせいで、私の胸の中で大蛇神がペシャンコに圧死しかけるという、文字通り「絶体絶命の修羅場」がリビングのど真ん中で開幕してしまった――!!




