我が家の家族たちー各々の過ごし方ー私は屍…よ。
ゴールデンウィークが半ばに差し掛かった頃、ようやく我が家の「怪異お悩み相談窓口」に訪れる怪異の数も激減し、アパートの周りには静けさが戻っていた。
普通なら「やったー! やっと休みを満喫できる!」と跳ね起きるところだけれど、今の私はそんな気力すらなく、ただただベッドの上でリアルな「屍」と化していた。
マジで動けません…。
なぜなら――215cmの巨体人間の姿のままのミズチが、ぴったりと私に重なるようにして、いまだにベッドに居座っているからだ。
(霊力って……あんなことで、あんな風にドロドロに甘く蕩かされながら持っていかれると……)
「死にそう……」
仰向けにひっくり返ったまま、私の口から魂の抜け殻のような呟きが漏れる。青い瞳は、天井の一点を虚ろに見つめることしかできない。
一度「極上の味」を覚えてしまった大蛇を止める術を、私は知らなかった。
一線を越えたあの日以来、ミズチにとって私の霊力は、大好きな唐揚げ(鳥さん)を遥かに凌駕する「最高のご馳走」になってしまったのだ。
『……ん、カイ。死んじゃだめぇ……。ほら、ミズチがまた、あったかくしてあげるからね?』
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ミズチが長い手足を器用に絡めて、私の身体を完全にベッドへ縫い付ける。
人間の姿とはいえ、215cmの雄の質量と体温は凄まじい。私の無駄に大きいたゆんたゆんの胸の間にその綺麗な顔を埋め、ふーっ、ふーっと、熱い吐息を吹きかけてくる。
それだけで、私の身体の奥からジワジワと、高純度の霊力が彼へと吸い上げられていくのが分かった。
「ちょっと、ミズチ……もうやめてってば……。私、本当に連休明けに大学に行けなくなる……」
『やだぁ。カイの霊力、すっごく甘くて、美味しくて、ミズチこれがないともう生きていけないのぉ……。頭のなかが、カイの匂いで、いっぱいになっちゃうんだもん……』
潤んだ赤い瞳で見上げてくるミズチの顔は、おそろしく退廃的で、妖艶で、それでいて子供のように純粋だった。まさに「中毒」のそれである。
ギザギザの歯が、私の胸元の柔らかい肌にチロチロと割り舌を這わせ、そのまま優しく吸い上げる。
「う、あ……っ」
脳が痺れるような感覚と共に、また少し魂(霊力)を持っていかれ、私の豊かな胸がぷるんと切なく跳ねた。
(ダメだ……。この大蛇、完全に私の身体を『自家発電の霊力供給機』だと思ってやがる……!)
実家のヤンデレお父さん(神威)にバレたら、それこそ
『我が娘の純潔を奪った上に生霊を吸い尽くすとは何事かぁぁぁ!!』
と、今度こそ、日本全土を巻き込む神罰の嵐が吹き荒れるに違いない。
「お、仕置き……する元気が、あったら……っ」
『えへへ、お仕置きなら、ベッドのなかでミズチがいくらでも受けてあげるよぉ? カイ、もういっかい、しよ……?』
「だから、加減を知りなさいって言ってるのよぉぉぉ……(涙)」
怪異の窓口が閉まった103号室。
しかし、我が家のベッドの上の「大蛇のハレンチ捕食タイム」は、連休が終わるまでノンストップで営業を続けるのだった。
私のライフはもうマイナスよ……トホホ。
◇
東京で私が大蛇の「自家発電の霊力供給機」と化して屍になっている頃。
私の実家である山奥の「水無瀬神社」もまた、大型連休の怒濤の渦の中にあった。
「はーい、お守りはこちらになりますよ〜。どうぞ神様のご加護がありますように!」
新緑が美しい境内で、多くの参拝客を相手に鈴の鳴るような声で愛想良く対応しているのは、私のお母さん――百合子(通称:ユリア、フランス人なんで…愛称だと思って)。
普段は私を甘やかしてくれる優しいお母さんだけど、実は実家の裏の支配者(最強)であり、このGWのクソ忙しい繁忙期も、巫女服を完璧に着こなして一人でサクサクと捌いている。
一方。
「……」
父親の神威はというと、相も変わらず「不在」である。
おそらくどこかの山奥でヤバい大怪異をボコボコにしているか、あるいは本部組織からの依頼で出張しているのだろう。
神主兼・最強の祓い屋が不在でも、お母さんの圧倒的な手際の良さのおかげで、我が家は今日も平和そのものだった。
――だが、その時。
お守りを手渡していたお母さんの手が、ふと止まった。
その美しい瞳が、はるか遠く、私が暮らす東京の方向へと向けられる。
「あら……? なんだか、カイの霊力の波長が、いつもと違ってとっても『甘く』蕩けているような気がするわ……?」
神職の最高峰としての勘が、一瞬にして娘の「一大イベント(開拓済み)」を察知しかける。
お母さんはしばらくフム、と顎に手を当てて考えていたが、すぐにいつものおっとりとした笑顔に戻った。
「まぁ、若いん(?)だものね。きっと、楽しく連休を過ごしているんだわ。カイ、ちゃんとご飯食べてるかしら?」
お母さん、楽しく過ごすどころか、私は今、ベッドの上で215cmのジャンキー大蛇に骨の髄まで吸い尽くされてるのよ!! 誰かタフケテ……っ(´ཀ`」 ∠):
お母さんののんきな勘違いと、お父さんの謎の不在によって、実家の平和(?)は保たれていたけれど、私の腰のライフと乙女のプライドは完全に風前の灯火。
「……ハッ!!」
その頃、遠く離れたどこかの霊山で、怪異の首を締め上げていたお父さんが、突如として凄まじい悪寒を感じて振り返った。
「いま、我が愛しきカイの純潔に、何か得体の知れない『不届き者』の影が完全にのしかかったような気が……っ! カイィィィ! 今すぐパパがそっちへ行くからなァァァ!!」
娘への異常な執着センサーがようやく起動しかけているお父さんだったが、手元の怪異がまだ片付いていないため、東京へ進撃してくるのはもう少し先のお話。
実家がそんな「嵐の前の静けさ」を迎えているとは露知らず、私は今日も東京のボロアパートで、満足げに喉を鳴らすミズチの腕の中で白目を剥き続けるのだった。




