おまけ:ミズチにホントの意味で食べられました…〜マジか…〜
帰宅した私は、アパートの前で今か今かと待っていた怪異たちに、大学の旧校舎で起きたことの次第を説明した。
「だから、もう少しすれば回覧板?が回ってくるって。重鎮のおじいさんもそう言ってたから、みんな安心して自分のお家で待ってて。」
『おおお……! さすが水無瀬の御令嬢、そして主様……っ!』
怪異たちは涙を流して感謝すると、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの巣へと帰っていった。静かになった我が家(103号室)の玄関で、私はどっと押し寄せる疲労感に肩を落とす。
(いや、これ……初めから大学のおじいさんに直接聞きに行ってくれてたら、私はわざわざGW初日に不法侵入して祓い屋とバトルしなくて済んだよーな……?)
そんな今更な大前提の矛盾に気づいてしまったけれど、もう考えても遅い。
私は考えるのを放棄し、約束通りミズチに爆弾サイズの唐揚げ山盛り(パックの鶏肉3袋分)を与えると、汗を流すためにすぐにお風呂場へと足を運んだ。
シャワーを浴び、湯船に浸かって、ようやく一息つく。
「はぁ〜……生き返る……」
自分の無駄に大きいたゆんたゆんの胸を見下ろしながら、今日もここに噛みついて離れなかった我が家の大蛇のことを思い出す。神の化身(蛟龍)の姿は本当にかっこよかったけれど、やっぱり中身は甘えん坊のセクハラ蛇だ。
そんなことを思いながら、バスタオル一枚を胸元に巻き付け、濡れた銀髪を拭きながら湯気とともにリビングへと戻った。
「ミズチ〜、唐揚げ全部食べた――っ!?」
部屋に戻った瞬間、私は言葉を失った。
お皿の上の唐揚げは綺麗になくなっていたけれど、そこにいたのは「涙目の大型犬フォーム(スウェット姿)」のミズチではなかった。
『……カイ。おそい。ミズチ、待ちくたびれちゃった……』
部屋の明かりが薄暗く落とされている。
ベッドの端に腰掛けていたのは、昼間の「蛇神」としての妖艶さをそのまま人間の姿に宿した、髪の濡れたミズチだった。なぜか胸元が大きくはだけた黒い着物を緩く羽織っている。
その赤い瞳は、昼間に霊影を睨みつけた時よりも、もっと深く、熱く、獰猛な光を放っていた。部屋中に、脳をドロドロに溶かすような雨上がりの森の甘い香りが、昼間のバトルの影響か、いつもの数倍の濃度で満ちている。
「ミ、ミズチ……? なんでそんな格好……」
『カイの霊力……すっごく美味しかった。ミズチの身体のなかに、まだカイがいっぱいいて、あつくて……もう、がまんできないんだぁ……』
スッ……。
「きゃっ……!?」
215cmの巨体が、信じられない速度で私の目の前に移動した。
気がついた時には、私はベッドの上に押し倒され、ミズチの大きな身体に完全に覆い被されていた。
バスタオル一枚の私の身体に、ミズチの冷ややかで、けれど芯から熱を帯びた大きな手が滑り込んでくる。
「ま、待ってミズチ……! いつものイタズラなら、もうお仕置き……っ」
『イタズラじゃないよ……?』
耳元で、掠れた低音の声が響く。チロリ、と割り舌が私の首筋を、そして鎖骨を、ゆっくりと愛撫するように這い上がっていく。
昼間のバトルでカイちゃんと「霊的契約(深い繋がり)」を交わしてしまったせいで、ミズチの中の「雄としての本能」が完全に限界突破してしまっていたのだ。
『ずーーーーっと、待ったんだもん…ミズチのお嫁さん………』
「ちょっと、誰がお嫁さん……っ、んあッ……!?」
ミズチの大きな手が、私の最大の武器であり弱点でもある、たゆんたゆんの質量をガッツリと鷲掴みにした。いつもみたいな「もみもみ」じゃない。自分の獲物を、番を、二度と離さないと刻み込むような、強烈で、甘美な抱擁。
『だめ……。ミズチ、もう『鳥さん』じゃ満足できないの。……カイを、ホントの意味で、ぜんぶ食べちゃうからね……?』
暗闇の中で、ミズチの赤い瞳が怪しく光り、ギザギザの歯の隙間から甘い吐息が漏れる。
いつもなら実家仕込みのフィジカル(物理)で押し返せるはずなのに、契約のせいで私の霊力がミズチと完全に同調してしまい、身体がじんわりと熱くなって力が入らない。私の青い瞳は、彼の妖艶な色香に完全に「たぶらかされて」しまっていた。
長い黒髪と銀髪がシーツの上でぐちゃぐちゃに絡み合い、2Kの狭いアパートの103号室で、私はついに大蛇の怪異に、身も心も、文字通り「骨まで」食べ尽くされてしまうのだった。
(マジか……私のゴールデンウィーク、こんな意味で終わるなんて聞いてないよぉぉぉ……っ!!)
(おまけ 終)




