トイレの花男くんVS嫉妬の大蛇(お願いだから、トイレの壁を壊さないで!!)
目の前に現れたトイレの怪異・花男くん。
「誰があんたのお嫁さんよ!?冗談はよしてよ!」
どうやら長い間、この旧校舎のトイレに引きこもり、自分を慰めてくれる「花嫁」を探して通りかかる女子学生を無差別に脅していたタチの悪い怪異ってこと
花男くんの濁った瞳が、私の長い銀髪と、驚きに一瞬見開かれた青い瞳を捉えた。
『おお……美しい……。お前が、私のお嫁さんか……? さあ、こっちへおいで……私と一緒に、暗いところで、ずっと……っ』
ヒタヒタと、冷たい影を伸ばしながらこちらへ這い寄ってくる花男くん。
「ちょっと待ちなさい。誰がアンタのお嫁さんよ。私には明日の講義も、払わなきゃいけないアパートの家賃もあるの!」
暗くてジメジメしたところで、誰が。
思わず拳を握り霊力を込めたその時ー。
『誰が、誰のお嫁さんだぉ???』
私の服の奥――たゆんたゆんの胸の谷間で、完全に「臨界点」を超えた凄まじい怒りのエネルギーが爆発した。
ボフンッ、いつもより大きめの音と煙が視界を一瞬遮った。
「ミズチィィィー!!アンタねぇぇぇー!」
叫んだ時には、遅かった。
巨体の怪異が本当の姿になっていた。
巨大な大蛇の頭をもたげ黒光りする鱗に覆われ、裂けた口からはギザギザの牙がむき出しになり、舌をチロチロさせて大口を開けてとぐろを巻いて、私と怪異・花男くんとの間に割って現れたのだった。
フシュルルルルと喉を鳴らし、真っ赤な瞳を血走らせ、ミズチは怒りで我を忘れている。
『カイはミズチの…!お前なんかに…あげないぉ!』
突如として、現れた巨大な蛇にビビったのか花男くん。さっきまで偉そうに「お嫁さんどこ?」とか言っていた花男くんは、突如目の前に現れた巨大な大蛇の怪異(しかも嫉妬でブチギレ状態)を見て、完全に腰を抜かした。顔の影が恐怖で真っ白に変わっている。
チカチカ!と女子トイレの古い蛍光灯が激しく明滅し、ミズチの放つ400年物の圧倒的な妖気が、花男くんの陰気を一瞬で押し潰した。
『カイは…ミズチの、お嫁さん(番)だぉ…!! 亜美っていう子にも、訪問販売の男にも、がまんしたのに…こんな薄汚いお化けが、カイを暗いところに連れていこうとするなんて……絶対に、ゆるさないんだからぁぁぁっ!!!』
ミズチは大きな尻尾をご機嫌斜めに一振りし、花男くんに向かって凄まじい妖気の突風を叩きつけた。
バシャァァァン!!!
「ちょっとミズチ! トイレの壁が壊れるぅぅぅっ!!」
大きな音立てて、花男くんの体が女子トイレの壁に見事に激突する。
『ぶっふぉぉぉーーーっ!!』
花男くんの体がくの字に曲がり壁にめり込む。そして、壁には無数の蜘蛛の巣ような亀裂が走った。
ピシッ、ピシッと全方位に向かって。
「やめてぇぇぇぇっ!!ミズチ、ちょっと、壁が壊れたら誰が弁償すると思ってんのよぉぉぉぉ!!」
その場にうずくまり、私は目の前で起きた凄惨な光景から、目を背けた。
(これ、バレたら間違いなく弁済金を払わなきゃいけないよね…それどころか、退学なんてことに!?)
実家にバレたら、きっと連れ戻される。どうしようと、私が慌てていることなど毛の先程にも気にしていないこの、大蛇ミズチはフンスッと鼻を鳴らして、一撃でのした、花男くん見下ろし尻尾でトイレの床を小刻みに叩いていた。
嫉妬に狂う執着の大蛇VS哀れな花嫁探トイレの花男くん。
一方的にのされた花男くん、私の払い屋としての出番はないまま、ミズチという大蛇のワンマンステージと化していくのだった。




