怪異・トイレの花男くん~僕のお嫁さぁん~♩
大学とアパートの往復に慣れ始めた頃、大学内では妙な噂が流れていた。
旧校舎の女子トイレに何かが居る。怪談のような噂が出回っていた。
「へ?旧校舎のトイレに?」
お昼休み、亜美ちゃんと一緒に食堂でお昼のランチを楽しんでいる時に、その話が出た。
「うん。なんかね、夕方になると声がするんだって。ね、水無瀬さん…カイちゃんって呼んでもいい?」
ニコッと、亜美ちゃんが笑う。
(可愛い…)
「え…あ、うん。じゃあ、私も亜美ちゃんって、呼ぼうかな」
なんだか、照れ臭かった。
初めて、親元を離れまともなお友達と親しく出来る日々が尊い。
ミズチが面白く無さそうに赤い瞳を半眼にして私の谷間で頭を出していた。
こんこんと、余計なことをしないように教えた結果、ここのところはおとなしい(大学限定で)。
「亜美ちゃん、まさか見たいとか言わないよね?」
旧校舎のトイレの噂。
「( ,,`・ω・´)ンンン?見てみたい気持ちはあるよ~」
んふふと、亜美ちゃんが瞳をキラキラさせる。
「そんなの、たいてい嘘だと思うよ?それに夕方まで…いたら、危なくない?旧校舎、ものすごく年季入っちゃってるし」
私は行きたくない、初日に感じた禍々し気配に自分から進んで飛び込みたくない。
「それ、佐藤君にも言われたよ」
つまらないと、亜美ちゃんが悲しそうな顔をするが、可愛い。
「まぁ、変な噂に流されないでね?」
あははと、笑って私はその場をやり過ごした。
でも、噂が本当か確かめなければならない。やっと入った大学が、怪異、妖の巣窟なら、お祓いが必要になる。
その日の夕方、学生が少なくなったころ私は、ミズチを連れて、人気のない古い廊下を進んでいた。進むにつれて、空気の温度がじわじわと下がっていくのが肌で分かる。
陰鬱とした雰囲気を纏う、漂わせるトイレに私は足を踏み入れた。
トイレの中は薄暗く陰気な雰囲気をこれでもかと全面に押し出していた。気乗りはしないが、私の穏便で平和大学生活を送るためにこれは必要なの。
自分に言い聞かせるように、私は足音を立てずに静かに歩いた。
ピチャンと手洗いの水道から水の滴る音が響く。
谷間にいるミズチは頭だけを出して、辺りを見回している。
「女子トイレ」の古びた木製のドアを前に、私は考えるのを中断した。
深呼吸を一つして、ドアノブに手をかける。
ギィィ……ッ。
嫌な音を立てて開いた空間は、夕方の旧校舎は薄暗く、奥の方からジメッとした強烈な「陰気」が漂ってきた。あみちゃんが言っていた通り、ここには完全に“何か”がいる。
私が一歩、タイル張りの床に足を踏み入れた、その時だった。
『お嫁さぁん……いらっしゃぁぁい……。まってたよぉぉ……僕のお嫁さぁん……』
途切れ途切れに聞こえた。
一番奥の個室の隙間から、ドロリとした黒い影が這い出てきた。
現れたのは、ボロボロの古い学生服を着た、顔の半分が影で潰れた男の幽霊ートイレの花子さんならぬ、「花男くん」。
どうやら長い間、この旧校舎のトイレに引きこもり、自分を慰めてくれる「花嫁」を探して通りかかる女子学生を無差別に脅していたタチの悪い怪異らしい。
花男くんの視線がこちらを向いた。
バッチリあいました……。
銀の長い髪に青い瞳の私を凝視していた。
『おお……美しい……。お前が、僕のお嫁さんか……? さあ、こっちへおいで……僕と一緒に、暗いところで、ずっと……っ』
ズリズリと床を這う花男くんの目は、嬉しそうに細められた。
これが、大学で初めて遭遇した怪異・「花男くん」だった。
(誰が花嫁よ!?誰が暗いところに行くって!?)




