大学の講義~隣の佐藤君に、怪異は嫉妬する!?(おとなしくしててよ!!!)
大学の本格的な講義が始まり一週間ほど過ぎた頃、私の生活はミズチを中心に回り始めていた。
ショッピングモールの出来事から少し経つというのに、大学に行くのに留守番を言いつけると、巨体に戻って、私をホールドし、引き留める。そして、泣きわめきアパートを揺らし壁がきしみ、電球チカチカ…怪異の能力を発揮するし…ボロアパートを破壊されるのだけは避けたい(だって弁済できない私の力では)私は、ミズチを連れて、大学に行くしかなかった(ハンカチはちゃんと新品で返しました…)
仕方なく今日も今日とて、私は大きな教室の一番後ろの席の端っこ壁際に座るのがデフォルトになりつつあります。
(視力は良いからいいけど)
シャーペンを持つ手に思わず力が入る。
何故って?
あれから、私の胸の谷間は、ミズチの定位置になりつつあるからですよ…。
私の首元から服の奥へと潜り込み、たゆんたゆんの胸の谷間にすっぽりと収まってえるミズチは、先日の神威(私の父)の恐怖の余韻から、必要以上に私にぎゅうぎゅうと密着して離れようとしない。
(これじゃ、私がただ無駄に胸を強調して座ってるみたいじゃないの…やっぱり、早く祠を修復してもらわないと…)
ノートを開きながら、一人で赤面している私だったが、講義の開始直前、ガラガラと空いていた隣の席に人の気配がる。
「あの、ここ、空いてる?座ってもいいかな?」
声をかけてきたのは爽やかな笑顔を浮かべた同じ学部の男子学生だった。
「え?はい、どうぞ…空いてますので」
私が青い瞳を少し泳がせながら会釈すると男子学生は「ありがとう…」と、これまた爽やかに笑い私の隣の席に座った。
今日は亜美ちゃん以外の、人と同席での講義となると、ミズチが何かやりかねない気がする。
「俺、佐藤 涼太。よろしくね」
さらさらの黒髪に、優しげに笑う青い瞳が印象的だった。
「私は、水無瀬 カイ。よろしくね」
佐藤君が隣に座った瞬間、私の服の奥、胸元の特等席に居たミズチの気配が、一瞬にして凍り付いた。
(ん…ミズチ?静かにしてよ?騒いだら、お仕置きよ)
頭の中で念を送るが、返事はない。代わりにミズチの小さな身体が嫉妬と縄張り意識でピキピキと強張っていくのが伝わってくる。
その間も、講義が始まり教授が黒板に書いていく内容をノートに書き写していると、隣の佐藤君が私に小声で話しかけてきた。
「水瀬さん、今の教授の話、聞き逃しちゃってさ、ノート見せてもらってもいいかな?」
少しだけ私に身体を寄せて佐藤君は申し訳なさそうにしていた。
僅か数センチ、異性の身体が近づいたーそれだけの事なのに、ミズチは面白くなさそうに。
「…カイに近い…シャ~!シャ~!めっだぉ!!」
脳内に直接、いつもより一段低い声でミズチの嫉妬の声が響く。
「ちょ…!」
次の瞬間、服の中でミズチがシュルシュルと激しく動き回り、私のブラの隙間に小さな尻尾を潜り込ませて、意思表示をするようにグイグイと胸を内側から押し上げてきた。(動かないでよ!)
私の胸の質量が、服のパツパツのボタンを押し飛ばさんばかりに大きく揺れ、慌てて私は胸を両手で押さえつけた。(弾き飛んだら、人として終わる…!)
「ん?水瀬さん?どうしたの?」
突然、小さく声を上げて胸を押さえた私を佐藤君は不思議そうに覗き込んでくる
(それ以上、近づかないでぇぇぇぇぇ!!)
「な、何でも…ないです!ちょっと虫が、そう虫が服の中に入っちゃって、あはははは…!」
「ミズチ、虫じゃないぉ!カイはミズチの!あの男、カイをジロジ見てる!」
(ミズチのって何!佐藤君はノート見せて欲しいだけだから!)
私の羞恥心は限界点を突破しそうだった。ミズチは嫉妬のあまり、今度は私の足首の方までズボンの下を這いおりていくとジーンズの裾から佐藤君の方に向かってチロチロと小さな割り舌を出しながら威嚇を始めた。
小心者の怪異のくせに、こういうところは、雄の本能をむき出しにするんかい!
幸い(?)普通の人には視えまいが佐藤君が霊感があって視えるタイプだったら、私の足元から這い出た黒い蛇がギザギザの歯を剥き出しにして睨みつけている、ホラー映像の完成になっている所だ。
「水瀬さん、本当に大丈夫?顔、すごく赤いけど…熱あるんじゃない?」
「だ、だだだだ、大丈夫です!ちょっと、熱いだけです。ノート、どうぞ、どうぞっ!」
私は佐藤君にノートを押し付けると、机の下で自分の足首にきゅっと掴み、ミズチの暴走を必死にホールドした。
足元を伝うミズチのミズチの小さな身体は、冷たいはずなのにこの時は、嫉妬の熱で何処か熱を帯びているようにすら感じた。
「カイはミズチだけを見てて、他の雄見ちゃダメだぉ!!!」
脳内で盛大に怒りと悲しみを吐く、独占欲を吐露し隣の席の佐藤君に、容赦なく嫉妬の炎を燃やすミズチのせいで私の大学の講義時間は別の意味で羞恥の時間へと変わるのだった。
こんなのが、四年も続くの⁉無理!




