この国の真実
先日投稿したものの後書きで長いと言いましたが、そんなに長くなりませんでした。
「燃やし尽くせ!煉獄の焔!」
先と同じか、それ以上の大きな炎がテスターに襲い掛かる。
一瞬で50m以上の範囲の家が燃える炎。先手を打たれてしまった以上、並みの魔法使いでは一瞬で消し去る程の水を出すことは出来ない。
「魔法は苦手なんだよ!湧き出る水!」
「はっ!最強の兵士様が聞いて呆れる!下位魔法しか使えないとはな!」
詠唱の短さ、言葉の弱さ、これらが下位魔法であることは明白。
コップ一杯程度の水しか出せない、貧弱で日常生活でしか使えず、戦闘では何の役にも立たない下位魔法。
「ああ、そうだよ!俺は下位魔法しか使えないんだよ!」
戦闘に関して右に出るものはいない。例え下位魔法しか扱えずとも、その事実は変わらない。
「(しめたぜ!これなら魔法の押し合いに持ち込めば―――)は?」
勝てると思った、魔法を使い続ければ疲弊させ、いくら相手が水魔法を使おうとも出力が低いのであれば向こうに勝ち目はない。
魔法は下位・中位・上位で強さが変わり、使用者の魔力量にも応じて変わる。
とは言え、いくら魔力量が多くとも下位が中位に、中位が少し強い中位に変わるだけで影響はあまりない。
大事なのは、どれだけ上位の魔法を詠唱し操れるかで魔力量は基本的にそこまで必要ではない。
勿論あればある程良いし長期戦が出来ると言うのは重宝されるが、戦う場が国同士の戦争ばかりの世界では、大した影響はない。
その筈なのだが、テスターの下位魔法は他者とは違う。
圧倒的な魔力量を持ちながらも簡単な詠唱しか出来ないにも関わらず、下位魔法ですら100m以上の範囲で大雨を降らせる上位魔法を超えた最上位魔法となる。
「な、んだよ、それ…!」
そして一瞬で火消しは完了し、ずぶ濡れになりはしたものの何とか人命を救うことが出来た。
「お前なぁ民間人への影響も考えずに、いきなり上位魔法を使うって軍人としての誇りは無いのかよ!」
「で、デタラメだ…!」
(有り得ねぇ!いくら魔力量が多いからって、下位魔法が上位魔法を上回ることがあんのか…!?)
本来なら有り得ない、だがテスターだけは有り得てしまうのだ。
それだけ異次元な魔力量を誇るのがテスター・サブジェクト。ミリタリー王国最強の兵士と言うことだ。
「おい聞いてんのか!」
「くっ…!だが俺もミリタリー王国軍現最強の魔法使い!こんなものが、俺の本気だと思うなよ!」
「待て、お前!この国の人間なのか!?」
(じゃあ、こいつは!)
ブレイズの言うことを信じるのなら、指示を出せる程の立場はテスターが信用する二人のどちらか。
「気付くのが遅ぇよ!燃え盛るは地獄の業火!全てを燃やし全てを灰と化せ!全焼全灰!」
(い、いや!そんな筈はねぇ!あの人が、こんなことをする訳が!)
しかしテスターが知る二人は、ここまで手荒い真似をするようなタイプじゃない。
「燃えちまいな!テスター・サブジェクト!」
(そうなると誰かに金を積まれたのか…?けど、どこでピュアの正体を漏らされた…!)
轟々と燃える炎は地獄の炎よりも熱く、人は燃えたことすら理解出来ぬまま灰となる。
ブレイズが本気で燃やそうと思えば、100m以上を燃やすことが出来る。
とは言え、自身すら全身火傷の大怪我を負うことにはなるが。
「はぁ、はぁ、はぁ…!流石のお前も、これなら―――」
「だ・か・ら!民間人が居るってのに、こんなとこで魔法を使うなって何回言えば良いんだ!」
「なっ…!?生きて…!」
「ったく、久々にこんだけの魔力を使ったよ。お前、一体何者だよ」
「あ、有り得ない…!俺の炎は全てを燃やし尽くす地獄の炎なのに…!」
「誰だ、お前を仕向けた奴は」
「っ…!」
(まずい、あれが効かなかったんなら俺の敵う相手じゃ…!)
ブレイズは思い出した。自分如きでは敵わない、と言われたことを。
あれは過大評価でも、過小評価でも無く、純然たる事実であることを身を以て知った。
「……話は、出来ないらしいな」
あまりの力の差に、絶望してしまったブレイズにテスターの声は届かない。
「クソッ、クソッ!俺は、俺は!」
(あんまり長引かせて民間人への被害を出したら王様に迷惑掛けちまう、早めに終わらせるか)
得物は無いが、素手でも充分に戦える。
「悪いが、一瞬で終わらせる!」
ピュアのこともあり、全力で倒しに行く。
「俺はブレイズ・パーガトーリィだぁああああ!」
「何だ、この魔力…!」
先とは比べ物にはならない魔力量、感情の昂りか本来持つ力なのか、とにかく問題なのはブレイズがテスターの実力に、追い付いて来たと言うことだ。
(明らかに魔力が跳ね上がった…!魔法を使った感覚もあるが、そんな馬鹿げた魔法があんのか…?)
「全てを燃やす地獄の業火!悪魔王の炎!」
「青い炎が一瞬で―――があああっ!?」
辺り一面が青い炎に包まれ、テスターも魔法が間に合わずに火傷を負ってしまう。
「休んでる暇はねぇぞ!最強さんよぉ!」
「こいつ、いつの間に!」
燃える炎の中から姿を現し、拳の猛攻で畳み掛けられる。
「オラオラァ!どうした、押されてんぞ!?」
魔法だけでなく、武も優れているブレイズ。
一息の間に、五発以上の拳が飛んで来ては流石のテスターも守りを固めざるを得ない。
「ぐっ…!」
(急にパワーアップした理由は分からねぇが、本気を出さねぇとヤバい!)
ガードをして凌いではいるものの、このままではまずいと判断。
「何も出来ねぇなら、そのまま死―――がはっ…!」
先のお返しとばかりに拳を一発、腹に叩き込む。
「はぁ、はぁ、あんまり好き勝手されんのは好きじゃねぇんだ」
「…っ!そうこなくっちゃな!」
(油断するな、こいつはさっきとは別人だ!)
「燃え盛る炎を拳に纏う!炎拳!」
「湧き出る水!」
消火で威力を抑えようとするが。
「そんな水じゃ、俺の熱い炎は消えねぇよ!」
「がはっ…!クソ、こうなったら風の魔法で!」
勢いの点いた炎は、もうテスターの下位魔法では消されることはなく拳を一発貰ってしまう。
「もう遅ぇよ」
「っ…!?」
(時間差で炎の追加攻撃…!?)
噴火の如く噴き出した炎の打撃に吹き飛ばされる。
「まだまだ行くぜぇ!燃え盛る剣は全てを斬り裂き灰にする!炎剣!」
(今度は剣!何てバリエーションの豊富さだよ!けど、俺だって!)
「そよ風よ吹け!」
強風で自分を吹き飛ばし、ロケットのような勢いをつけて頭突く。
「ぐはぁっ…!」
(こいつ、風に乗って自分から突っ込んで来やがった!)
「あいつを、お前の手には渡さねぇ!」
二度と苦しい想いをさせない為に、あの綺麗な笑顔をずっと見ていられるように、拳を乱打し畳み掛ける。
(つ、強ぇ!流石はミリタリー王国最強の兵士様って訳か…!)
ブレイズも何とかガードをして防いではいるが、それでも完全には防ぎ切れてはいない。
大したダメージにはなってはいないものの、このままではテスターのペースのまま決着が付きかねない。
「だが、俺だって負けてねぇ!」
「こいつ…!」
守りを諦めて攻めに転じ、数十発以上の拳と蹴りを繰り返す。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
しかし互いに傷は付かず、吐くのは息のみで状況は動かない。
(こ、こんだけ動いたのは久々だ…!軍にいた時以来だぜ、ちくしょうが!)
(何て強さをしてやがる、大臣から貰った白人の強化魔法カプセルを飲んだって言うのに、これかよ!)
ブレイズは白人から魔法を抽出し、それをカプセルに閉じ込めた魔法の道具のようなものを服用している。
これにより本来の何倍もの力を手に入れることが出来ている。だが、このカプセルは未完成品であり欠点がある。
「悪いけど、手加減してる余裕はねぇ!死んでも文句言うなよ!」
「ははっ!面白れぇ、やれるものならやってみろや!」
「超速度真拳!」
「がはぁっ!?」
(な、何だ、このパンチは…!?)
ぶっ飛ばされたブレイズは、自身の体を駆け巡る痛みと、朦朧とする意識からテスターの拳を貰ってしまったことを理解する。
そして今居る場所が、テスターの家があった場所から数百m程離れた場所だと言うこともすぐに理解。
(体は動くが、骨が何本か折れてやがる…)
強烈な一撃を貰ってしまったのは確かだが、これだけ離れていれば追い付くのは容易ではない。
いくら化け物じみた強さをしているからと言っても、この距離ならすぐには来れないだろう。
「まだ動けるみたいだな」
(この一瞬で、ここまで来たのか…!?ちっ、化け物が…!)
「立てよ、まだ動けるんだろ?」
「だったら、何だよ」
「もう一度、お前を殴る」
「っ……!やってみろよ、化け物が!」
「…!てめぇ!」
「全てを燃やし全ての生命に永遠の終わりを告げる地獄の業火!悪魔王の蒼紅蓮烈火!」
「がああああっ!」
至近距離での超高温に、流石のテスターも防御し切れない。
下位の水魔法では打ち消せない、かと言って避けることは出来ない。
危機的状況に陥ってしまったブレイズだが、まだ力は残っている。
「はは、どうだ!思い知ったかよ!」
先よりも高温にし、完全に燃やすつもりで魔法を放った。
温度にして2500℃、普通の人間なら即死なのだが。
「はぁ、はぁ…!」
「こ、これでダメなのかよ…!」
驚くことに、これでもテスターは火傷を負うだけで済んでいる。
この一撃からブレイズは、あることを考え始める。
(……いや、そもそもこいつは人間なのか?)
何度焼いても燃えない体、有り得ないパワー、有り得ないスピード、有り得ない魔力量に疑念を抱く。
「クソッ、こんなに熱い炎は初めて食らったぜ」
「……俺も初めてだよ、こんな熱い炎を出したのは」
「そうか、んじゃ決着付けようぜ」
「っ…!来いよ、俺はお前を殺して白人のガキも殺す!」
心のどこかで負けると分かっていても、ここで退くことはプライドが許さない。
炎をブースターのように使いながら炎を纏った拳で殴打を繰り返し、合間合間に炎での追加攻撃を組み込みことで相手にガードをする余力を与えない。
一秒に20発近くの攻撃、そして一つ一つの攻撃には2500℃の蒼い炎。
例え己の身が砕けようとも、例え辺り一面が炎の海になろうとも、ただ目の前の強敵を倒すことだけを考える。
炎の昂りも自身の心の高揚に応じて、どんどん高くなる。
拳に乗っている重みは増しながら、拳の軽さは羽毛のように軽くなっていく。
こんな自分は知らない、もっと知りたい。もっと戦いたい。
そんな欲求に体が応え、一秒で繰り出せる拳と蹴りは30発以上になり、炎も4000℃以上になっていく。
(何て猛攻だ、こんな猛攻は初めてだ…!)
流石のテスターも、ここまでされれては身を固めることしか出来ない。
「死ねやテスター・サブジェクト!てめぇは、ここで―――」
だからと言って、ここで諦めてしまえば狙われるのはピュアの命だ。
自分は良い、正直言ってあまり生きる意味を見出せていないからだ。
しかしピュアは別だ、まだまだ幸せを感じて欲しい。
知って欲しいことも、教えたいことも、いっぱいある。
(あいつには、もっと笑っていて欲しいんだ…!)
出会ったばかりとは言え、あの綺麗で美しい笑顔に惹かれたテスターが願うのはピュアの幸せ。
「マジかよ、テメェ…!」
「ここで負ける訳には、いかねぇんだよ!」
ボルテージが上がり切り、一秒に繰り出せる殴打が40発、炎は5000℃にもなったブレイズの攻撃を受け流し始めた。
「だが!俺はまだ、負けてねぇ!」
まだ受け流されているだけ、既に何百発も打ち込み、ダメージはテスターの方が多い。
自分の有利を捨てまいと、抵抗にも似た攻めを展開する。
(守るんだ、あの笑顔を!あの子の未来を!)
「うおおおおっ!」
「なっ…!?」
そして遂にテスターのボルテージも上がり切り、受け流すだけだったのが徐々に攻めも増えて来た。
とは言え、まだ打ち込めてはおらず依然としてブレイズが有利なのは変わらないが。
本人は、そうも行かない。
(な、何なんだ、何なんだよ!こいつは!)
何の魔法も掛けられていないのに、自分と同じステージに上ってくる。
そんなことは有り得ない、有り得てはならないと言うのに。
ブレイズの焦りは、焼けることも熱を感じることも無い体が、水を垂らし始めている。
「俺は、王国最強の魔法使いで!」
「お前は、ここで!」
「白人の魔法で、強化されて!」
「倒れろ!」
(……こんなにも、差があったって言うのかよ)
短くも熱の籠った数分の死闘は、テスターの拳がブレイズに動けない程の一撃が終わりを告げた。
「はぁ、はぁ、はぁ………!」
一方のテスターも肩で息をしながら、片目が閉じかけている。
(こ、こんなに強い奴は初めてだ…)
「て、てめぇ…」
「!お前、まだ気を失ってないのかよ」
(まずいな、ここで動かれた、もう…)
既に力を使い果たし、ミニトマトすら口に運ぶ余力もない。
ここで動かれれば、殺されてしまう。
「一体、何者だよ…」
「それを聞いて、どうする」
「どうもしねぇよ、ただ気になったんだ…」
「気になった…?」
「俺は白人の強化魔法が閉じ込められたカプセルを使った…」
「…!そんなものが、あったのか」
「ああ、だがお前は使っていない…」
「あっても、そんな物は使わねぇよ」
「お前、本当に人間か…?」
「正真正銘、人間だよ」
「嘘だな…」
「は?そんな訳ねぇだろ」
「なら何故、俺の炎に耐えれている…」
「何でって、分かんねぇけど…」
「普通なら死んでるはずだ、俺も焼けそうな熱さだった…」
とは言え、ブレイズは炎魔法の使い手。他人よりは耐性がある。
「何が言いてぇ」
「……俺は、ミリタリー王国で改造を受けた」
「改造?」
ブレイズは特別、高い魔力も無く大した学も無かった。
だが周りよりも優れた身体能力を持って産まれたことは、明白だった。
かけっこも力比べも敵う者はおらず、魔法も同い年の中で一番早く中位魔法を覚えた。
自信のあったブレイズは学校を卒業し、すぐに軍に入隊し、ここでは右に出る者はいるが上を行く者はいなかった。
その時だった、大臣から「もっと強い力を使えるようになりたくないか?」と、誘いを受けたのは。
今よりも更に強くなりたかったブレイズは、この誘いを即答した。
「どんな炎でも扱えるようになり、どんな炎にも耐えうる体になるってな…」
安易に承諾した誘いだったが、手術室には自分と泣き叫ぶ白人が隣に居た。
最初は何をするのか分からず、麻酔を打たれ目を覚ますと、隣に居たはずの白人は死んでおり、代わりに自分の体には信じられない程の魔力が宿っていた。
「そんな話、聞いたことねぇよ。嘘を吐くなら、もっとマシなのを吐けよ」
「嘘じゃねぇ、本当のことだ…」
「…仮に本当だとしてだ、そんなことを王様が許す筈がない」
「その王様が、主犯格だとしたら…?」
「なん、だと…!?」
「国民に見せている優しいミリタリー王国国王ヴァイス・ミリタリーは、偽りの姿だ」
「な、何を言ってんだ…?だって、王様は―――」
テスターが知るのは義理の息子を大切にし、誰よりも国民を、国のことを考える優しい王様。
「信じられねぇなら、それで良い…」
「……」
「だが、お前はいつか必ず後悔する…」
ブレイズの言うことは信じるに値しない、確かにこの国は戦争をよくしている。
しかしヴァイスは、記念日などに演説をする際に必ず国民に対し謝罪や感謝の意を示している。
国民からの信用も厚く、誕生日には国を挙げて祝福する日も存在している程。
無論、テスター自身も無償の愛を注いで貰い育った。
常に人に優しく在れと、人の為に動けと、いつも誰かのことを考えていたヴァイス。
だがブレイズの目は、信用に値する目をしている。
少なくとも、嘘を吐いて騙そうとしているような感じはしない。
命を狙った来た相手を信じるのも可笑しな話ではあるが、命のやり取りをしたからこそ分かるものもある。
(とりあえず、こいつの言うことは忘れるとして)
刺客が一人だとは限らない、確かめたいこともあるが今はピュアが心配だ。
マスターとマダムは普通の人だ、軍の誰かに襲われれば大変なことになる。
(無事でいてくれよ、3人共…)
不安に急かされるように、マスターとマダムの家に急いだ。




