閑話、もしくは少女の危機
テスターが死闘を繰り広げていた時、ピュアはマスターとマダムと食事をしていた。
「あんた、本当によく食べるわね…」
昨日も凄かったが、今日も50人分近い量を一人で平らげてしまう。
お店の量と考えれば安いものだが、流石に驚かざるを得ない。
「マダムの料理、美味しい」
「あらもう、お世辞が上手いんだから」
「おせじ?それも美味しいの?」
「お世辞ってのは、思ってないけど褒めるって意味よ」
「?マダムの料理、本当に美味しい」
「ありがとう、あんたは本当に良い子だね」
どういう意味なのかを理解出来ず、首を傾げるピュアの頭を撫でる。
「にしてもピュア、お前さんは一体どこから来たんだ?」
「ちょっとアンタ、そういうのは!」
「けどよ、気になるじゃねぇか」
マスターとマダムも白人は既に絶滅した人種、と言う認識だ。
それが昨日、突然現れた。
今まで、どこに居たのか。どこに隠れていたのか。
そして他には居ないのか居るのであれば、どこに居るのか。
デリケートな話題だとは思っていても、聞かずにはいられなかった。
「……ピュア、もし嫌なら話さなくて良いからね?」
優しく話し掛け、無理をさせないようにする。
「大丈夫、話せるから」
「聞いておいて何だが、無理しなくて良いぞ?」
「ううん、マスターとマダムは良い人だから」
「そ、そうか?」
「何デレてんだい、だからって聞いて良い話じゃないだろう」
「…すまん」
「マダム、私は大丈夫」
「そ、そうかい?なら良いけどさ…」
「悪いピュア、今の話は忘れてくれ」
マスターは申し訳なさそうに、自室に戻ろうとするが。
「……私は、この国に居た」
その時、ピュアが口を開いた。
「「!」」
二人は思わず、口を開けて驚く。
「そ、そんな訳は―――いや、あんたが言うのならそうなんだろうけど」
信じられない話だが、ピュアが嘘を吐く理由が無い。
この国のことも、二人のことすらも知らないのだから騙すような真似をする意味が無い。
「どこに居たかは分からない、でもスターに連れられて来た時に知っている場所に来たから」
テスターと初めて出会い、連れられて来た門はピュアが二度と来まいと記憶に残した門そのものだった。
それがピュアが出てきた門なのか、違う門なのかは分からないが、ともかく戻って来てしまったのだ。
もしかしたら、同じ場所に行ってしまうのかもしれないと言う恐怖はあった。
「だったら、何で来たんだい…?」
無理にでも引き返せば良い、そうすれば怖い思いをせずに済む。
だがピュアは戻ることを選び、ここに居る。
「皆を、外に出したかった」
「…!」
苦しんでいる仲間が居る、逃がしてくれた仲間がまだ苦しんでいる。
だから戻り、ここに居る。
「……そうかい」
昼間、テスターに付いて行ったのは仲間の居場所を探す為でもあった。
楽しそうにしているのを見て、羨ましくて付いて行ったのが主な理由ではあるが。
「悪いが、俺達は何も知らねぇ…」
「そうさね、せめて思い当たる節があれば良いんだけど…」
「場所なら多分、分かった」
「ほ、本当かい!?」
「分かったって、この国のどこに居るんだ?」
「お城の中」
「城の中!?」
「…うん」
「ピュア、悪いが城の中は無いと思う」
「どうして?」
「この国、ミリタリー王国の王様は博愛主義だ。とてもじゃないが、そんなことをして放っておくような人じゃない」
「はくあいしゅぎ?」
「皆のことが大好きってことさ、うちの王様はかなりのお人好しなのさ」
それがテスターにも受け継がれていると、マダムは語るが。
「あれが…?」
まるで、物語に出てくる怪物を指すような迫真の言い方。
「……!?」
「あれがって、確かに見た目はちょっと怖いかもしれんが…」
あまり顔を動かさないピュアの嫌悪感の強い顔に、思わず気圧される。
二人が知る王様は、そんな顔をされるような人ではないと言う認識。
何が、何を、そんな顔をされるのか疑問を抱く。
「……ねぇピュア」
王様に対し、心当たりは無いがマダムは何かを思い出したかのように話し掛ける。
「?」
「白人は、人の感情が分かるって本当なのかい…?」
高い魔力に加え、特異な能力があることを思い出す。
厳密には感情が分かるのではなく、その人の強い色が見える。
怒りが強ければ赤、悲しみが強ければ青、優しい人は明るい色、悪い人は暗い色が見える。
「うん、分かる」
「……王様に会ったのかい?」
「会った」
「どういうのを感じたのかい?」
「とても、黒かった」
「黒いって、どういう」
「あの王様、とても悪い人」
もっと言えば、大臣にも似た色を感じたと言う。
「……」
「………そう、なのか」
とは言え、これだけでは信じられない。
昨日出会った少女と、今まで国民に尽くしてきてくれていた王様。
どちらが信用出来るかは、言うまでも無い。
例え、それが事実だろうと二人は王様を悪だとは認めたくない。
俯き悲しくなるマスターとマダム、一方で何故そんな顔をしているのか分からないピュア。
「私、悪い子…?」
「…!違う、違うんだ」
「すまないね…」
子供に気を使わせてしまったことを悔い、マダムはピュアを抱きしめる。
不安を感じさせないように、悪いことをしたと謝るように。
その時、玄関のドアを誰かがノックした。
「こんな時間に誰だい」
「俺が出てくる、マダムとピュアは見えない所に居てくれ」
「ありがとうアンタ、こっちに来な」
「うん」
マスターはノック音を聞き、玄関のドアを開ける。
「はいはい、こんな時間にどなた―――って、大臣!?」
(大臣だって!?何で、うちに…?)
「夜分遅くに申し訳ありません、世界一美味亭の店主マスター・アライ殿」
礼儀正しく、良い笑顔で訪ねて来たのは国王の側近であり、大臣でもあるウォー・スキーマーだった。
一番最初のエピソードに、全裸の少女が裸足で駆け回っている目撃情報or噂話があるみたいな文言が欲しかったな、って。




