王国崩壊の日 その2
(…期待外れだったか)
ヴァイスはどこか悲しそうに、寂しそうに呟く。
その感情が兵器を失ったことで来たものなのか、はたまた一人の父親としての感情なのか。
「あれは…」
そんな中、舞う煙から人影を見える。
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
「ははっ、結構無茶するんだな」
(あの魔法を受けて、生きているのか!)
姿を現したのはテスターとピュア。
「スターが死んだら、私嫌だ」
一か八かではあったが、結界を張ることで爆発の範囲を狭めた。
とは言っても、2人が助かる程度で他の者を救うことは出来なかったが。
「…そうか、使えたのか」
「……」
ヴァイスの問いに、ピュアは答えない。
答えたくないのもあるが、答えるだけのものを持っていないと言うのもある。
自分でも無意識に近い感覚、けれど使えない訳でも無い。
故にピュアは答えない。
「何の魔法を使った、あれを防ぐのなら相応のものだと思うが」
ヴァイスの使用した魔法は、一人の白人が持っていた魔法。
「父さんには教える気は無いってよ」
「ならば、力尽くで暴くまでだ!」
(また同じ魔法!つーか、何で詠唱してないんだよ!)
通常、魔法は詠唱をするものだ。威力を上げることや、発動しやすくしたり、イメージが湧きやすくなり、より具体的に行使出来るからだ。
初心者であればある程、それを重要視するが例え上級者でも無詠唱は相当の場数をこなさないといけない。
それこそ、国同士の戦争を何度も体験していない限りは。
「スター!」
「…っ、任せるぞ!ピュア!」
コクリと頷き再び結界魔法で防ごうとするが。
「無駄ですよ」
「魔法が!」
「発動しな―――ぐわああああっ!?」
「ああああっ!?」
魔法が不発に終わり、2人は爆発をモロに受けてしまう。
(ち、違う、不発じゃなかった…!)
(今、誰かが…!)
「遅いではないか、大臣よ」
「…!」
「王よ、遅くなりましたがウォー・スキーマー。只今戻りました」
「悪いが儂らの最高傑作が駄作になった、壊すのを手伝え」
「御意に」
(まさか今、魔法が発動しなかったのは)
「あの人、魔法を無効化した」
「…やっぱり、そうか」
傷を負い、動けないテスター達の横を通り過ぎてヴァイスの横に立つウォー。
これでハッキリした、王も大臣も黒であると。
「どうやら私が黒だと気が付いていたようですね、テスター」
「……大臣は、何で父さんの味方をするんだ」
何かに縋るように、ウォーにも同じ問いを投げかける。
「何故、ですか」
「大臣だって、俺に色々教えてくれた。俺に正しいと言ったくれた言葉は、嘘だったのか…?」
「嘘ではない、だが私がそれを行使する側ではない」
「…!」
「正しいことも、悪いことも知っている」
「だったら、何で」
「それでも私は、悪と成り王と共に世界征服の道を選んだ」
「…そうか」
「聞きたいことは他にないか?」
「ない、それが聞ければ充分だ…」
「ならば剣を構えろ、それぐらいの間は許してやる」
「……戦う必要はあるのか」
「何も聞くことは無いんじゃなかったのか?」
「それとこれとは別だ、俺は父さん達と戦いたくて真実を確かめに来た訳じゃない」
「儂はお前を殺す為に、わざわざ秘密を教えた」
「我々は気付かれない為に、善人を演じてきました」
「だが軍に戻る気も無く儂らの邪魔をするのならば、お前はもう要らぬ」
戦争の為に作り出した実験体が、その役目を全うしないと言うのならヴァイスとウォーにとってテスターは自分達を脅かす存在以外の何者でも無い。
「…っ!」
「スター…」
「本気、なのかよ…!」
「本気ですよ、我々の目的は戦争をすることなのだから!」
(速いっ!大臣は、中遠距離が得意の魔法使いじゃなかったのかよ!)
「老人だからと、甘く見てもらっては困ります!」
「ぐっ…!」
「スター!」
「まずは、貴様からだ!白人の娘!」
「っ!」
「させるかよ!」
「ぐっ!?」
「ようやく、やる気になったか!」
「やめねぇって言うなら、無理矢理止めるだけだ!」
2対2、とは言え魔法を無効化し肉弾戦も戦えるウォーと身体能力でテスターと良い勝負が出来、広範囲で高威力の爆発魔法を扱うヴァイス。
一方で、こちら側はテスターしか戦えない。
逃げたり隠れたりはしていないものの、ピュアは怯えて常にテスターの横にいる。
戦うには圧倒的な不利な状況。
「策無くして、儂らを止めることなど出来ぬぞ!テスター!」
(分かってる、そんなことは分かってる、けど…!)
「俺が止めねぇと、父さん達はピュアを殺すんだろ!?」
「白人だけではない、お前もだ!テスター!」
「っ、だったら意地でも止めてやるよ!」
(力が上がった!やはり、まだ上があるようだな!)
「ピュア、魔法だ!」
「でも無効化される、意味が無い」
「大丈夫だ、俺を信じろ!」
「……!分かった、信じる!」
「無駄なことを!」
「魔法、使ったな」
ピュアが魔法を行使するのなら何でも良かった、白人が魔法を使うと言うことに意味があった。
無効化出来るのなら、強力な魔法を使うと分かって止めに入らないはずがない。
「なっ!?テスター、貴様!」
「避けるんじゃ、ウォー!」
「突風よ吹き荒れろ!」
(中位魔法!?何故、使え―――)
「ぐわあああっ!」
その隙を突き、ウォーを吹っ飛ばす。
「……流石、と言ったところか」
「これで、2対1だ」
「だからと言って、お前の勝ちが決まった訳では無かろう!」
広範囲の爆発魔法、逃げ場はないが。
「ううん、私達の勝ち」
「やはり防ぐか、だが儂には勝てぬよ」
ピュアが結界魔法で爆発を封じる。
「えっ…?」
「ピュア!」
「消えよ!白人の娘よ!」
しかし、それを見越されていたのか、ヴァイスは既にピュアの目の前まで接近していた。
「させねぇよ!」
「ちっ!この距離で間に合うか!」
(あっぶねぇ、予測して動いていて正解だったぜ…)
自分が狙われるのなら対処出来るが、いざと言う時にピュアが狙われては対処が出来ない。
それを分かっていたテスターは、予めピュアの方に目を移していた。
おかげで防ぐことは出来たが、あまりにも速い。
確かにヴァイスは強い、それはテスターも知っていることだ。
何せ、城内の人間が口を揃えて言うのだ。嫌と言う程、聞いてきた。
テスターはヴァイスが戦っている姿を見たことが無いが、それでもこの速さには違和感を覚えている。
(何かが引っ掛かる、父さんの強さは生来のものなのか…?)
そもそも、ここまでの力があるのなら何故、自分を生み出したのか。
戦争に勝つ為と言っていたが、それならヴァイス自身の力だけで充分ではないのか。
ここでブレイズのことを思い出す。
(…あいつは改造をされていたって、言ってたよな)
気付けば隣にいた白人が死んでいたと言っていた。
「スター、あの人」
「ピュア、もしかして」
「あの王様から、私と同じ白人の魔力を感じる」
「…やっぱりか」
「何じゃ、今更気が付いたのか」
そう、ヴァイスは白人の魔法を手にし異常な身体能力を手に入れていた。
「だから、こんなに強いのか…!」
実験の末にテスターを生み出したが、今こうして処分しようとしているのは己が力を手にしたから。
「爆発魔法と身体強化魔法を合わせることで、全距離で最強と成った儂に死角は無い!」
自身の近くで爆発すれば巻き込まれる可能性があるが、中遠をメインとすれば問題は無い。
足りない近距離は身体強化で補えば良い。武器を扱う相手でも、身体能力で上回れば対処の仕方は増やせる。
それは魔法で中遠を対応し、高い身体能力で近距離も強いテスターと同じだと言うことだ。
(父さんを、このまま野放しには出来ない…)
ウォーは気絶させた、ヴァイスを止めるには今しか無い。
「ピュア、魔法を使えるか」
「…分からない、でもスターの為なら頑張れると思う」
「本当か!」
「うん、何とかやってみる…」
「頼む、父さんに勝つにはお前が必要だ」
先、交えて分かった。ヴァイスは格上だ。
ブレイズも手強かったが、明らかにそれよりも上にいる。
覚悟を決めて握った拳は震え、覚悟を決めた瞳は悲しそうにしている。
「…!うん、私頑張る」
そんなテスターの心情を読み取り、自分も覚悟を決める為に集中する。
詠唱も無ければ魔法を明かしてはくれないが、それでも掛かった魔法を何となく理解出来る。
「ありがとうピュア、勝ってくる」
「帰ったら、ご飯」
「ああ、いっぱい食わせてやるよ」
約束を交わし、ヴァイスを見つめる。
準備は出来た、後は勝利するのみ。
「来い、完膚亡きまでに叩きのめしてやろう!」
思う存分、力が振るえることに喜ぶ。
一個人相手に、この力を振るうことは生涯無いだろう。
戦争ならまだしも、この緊迫感は二度と味わえない。
「行くぞ、父さん!」
互いに武器は使わず、拳と蹴りのみで戦う。
お互いに戦争を経験しているからか、どれだけ殴られようとも折れることは無く、パフォーマンスも下がらない。
合間合間に轟く爆発で距離を離されたり、逆に距離を詰められたりもする。
素早い離脱と素早い接近に戸惑いつつも、徐々に慣れていく。
(こいつ、身体強化の魔法を掛けられておるな)
(ピュアが掛けてくれた魔法のおかげで、父さんと互角に渡り合えてる!)
結界魔法、ある程度の制限はあるものの結界内の人物を指定し身体強化することも出来る。
飛躍的に上がる訳ではないものの、テスターとヴァイスの力の差を埋めるには充分。
(ならば、更なる上を見せてやるとするか!)
(急にスピードが…!)
しかし、ヴァイスはまだ本気ではない。
段々と上がるギアに、テスターは追い付けない。
「どうじゃテスター!これが儂の力だ!」
「っ…!」
(このままじゃ、やられちまう…!)
「どうした、隙だらけになってきたぞ!」
「ぐはっ…!」
「スター!」
腹に一発、重いものを貰ってしまった。
大量の血を吐き出し、膝から崩れ落ちてしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「何じゃ、この程度だったのか」
退屈で、つまらないものを見る目でテスターを見下ろす。
加速し続けるギアを止める術を持たない。
(お、俺じゃ父さんには勝てないのか…?)
「まぁ良い白人の娘共々、あの世で後悔しろ」
近くの剣を持ち出し、テスターの首を刎ねようとする。
「っ、!やめて!」
「ぴゅ、ピュア…?」
その時、傷で動けないテスターを庇う為にピュアがヴァイスの前に立ちはだかる。
「何じゃ、お前から殺して欲しいのか」
獲物が自分から近付いてくるのならと、剣をピュアに向ける。
「や、やめろ!」
傷が深く、動けないテスターは声を発するしか出来ない。
「情など要らぬ、儂らの安寧を妨げる者は全て排除する」
止めろと鳴く声を無視し、爆発魔法をブースターのように使いながら剣をピュアの首を刎ねにかかる。
「やめろ、やめろおおおおおっ!」
その時、テスターの中に眠る力が目を覚ます。
「ぬぐぅっ!?き、貴様!」
「ピュアに、手を出すんじゃねぇ!」
剣を撥ねて何とかピュアを助けることに成功する。
「邪魔を、するでない!」
再び始まる殴り合い、より強く、より速いヴァイスが有利。
(何故、何故だ…!)
しかし、状況は互角。互いに一歩も退かない。
「突風よ吹き荒れろ!」
「ぬわっ!?」
(まずい、空中で身動きが…!)
飛ばされたヴァイスは身動きが取れなくなる。
「うおおおっ!」
「がはっ…!?」
(こ、この儂が…!)
風魔法で勢いよく飛び、速度を付けたテスターの拳はヴァイスの喉元に届く。
「これで全部、終わりにする!」
(急いで脱出を、いや間に合わない…!)
決着を付ける為、テスターはトドメを刺す。
「ぐはあっ……!」
「はぁ、はぁ、これでもう立ち上がれねぇ筈だ」
「ゲホッ、ゲホッ…!」
血反吐を吐き、ヴァイスは満身創痍だ。
「悪いことは言わねぇから、今すぐ」
「つ、捕まれと…?」
「…嫌なら、無理矢理俺が牢屋にぶち込む」
「貴方には悪いですが、両方とも却下させて貰いましょう」
「その声!」
「まさか、不意を突かれるとは思いませんでしたよテスター」
「大臣、あれを使うぞ…」
「ですが、あれはまだ」
「い、良いから寄越せ…!」
「…仕方がありません、これだけは使いたくありませんでしたが」
死に際のヴァイスの目は、とても死に掛けの人間の目とは思えぬ気迫。
「これだけ?一体、何の話を―――」
ウォーの手に握られていたのは、ブレイズが持っていたカプセルだ。
あれを使い、ブレイズは急激に強くなった。
「これを、こうするのですよ!」
「っ!嘘だろ、まだ強くなるのかよ!」
カプセルを飲み込み、ウォーの魔力が大幅に上昇する。
そして同時にヴァイスの魔力も上がり、驚くことに傷も治ってきた。
「ふははっ!これで、まだ戦えるぞ!」
「くそっ、何で、何でこうなるんだ…!」
本調子では無いにしろ、明らかに厄介だ。
「す、スター…!」
「お前は下がってろ、援護は出来たらで良い」
「ご、ごめん…」
「謝んな」
恐怖で震えるピュアを後ろに下げる。
「実質2対1、ですか」
(ピュアは魔法が使えるが、戦える訳じゃねぇ)
状況は不利だが、やるしかない。
誰かの為に、誰かを殺すなど許してはいけない。
(守るんだ、ピュアや皆を!)
「突風よ吹き荒れ、洪水を起こせ!」
「水と風の中位魔法の合わせ技!」
「台風か!」
ヴァイスとウォーにだけ、風速70Kmと降水量200mmが降り注ぐ。
「しかし、私の前には無力!」
一瞬で台風は消え、2人にはダメージすら与えられない。
「もう一度、気絶しててくれ!」
だが狙いはそれではなく、魔法を無効化するウォーを倒すこと。
「甘い、二度も同じ手が通じると!」
魔法を無効化されたと同時に、殴り掛かるが避けられてしまう。
「思ってねぇよ!」
「何っ!?ぐっ…!」
避けられるのを前提でニ撃目を仕込んでおいたことで、気絶とまでは行かずとも態勢を崩すことに成功した。
「隙だらけじゃ!」
「ぐはっ…!」
その隙を逃さずにヴァイスが爆発魔法でテスターを吹き飛ばす。
「申し訳ありません、王」
「次は無いと思え」
「はっ」
「まだだ!洪水を起こせ!」
大木のように太く、蛇のように水がうねりながらヴァイスとウォーを襲う。
「無駄だと、何度言えば!」
「これもダメなのかよ…!」
やはりと言うか、再度魔法を無効化されてしまう。
どうにかして穴を見つけようとしているが、ウォーの使う魔法は元々は白人の魔法。
当然のように穴は無い。魔法は大小関係なく、無効化されてしまうのだ。
「呆けてる暇は無いぞ!」
「っ!?」
ヴァイスが超スピードと超パワーで隙間なく仕掛けてくる。
「どうした、こんなものか?」
「くっ、そっ…!」
明らかに先よりも強くなっており、テスターは徐々に押され始める。
「王に固執してて良いのですか、テスター!」
「がっ…!?だ、大臣…!」
「これで終わりじゃ、死ねテスター」
「ぐわああああっ!?」
爆発を直で受けてしまい、黒焦げにされてしまう。
(ち、ちくしょう…)
圧倒的な力を前に、テスターは倒れてしまう。
「ふんっ、やはりこの程度だったか」
「王よ、早くせねば副作用が」
「おお、そうじゃった。テスターが死んだ今、もうこの力は必要無い」
体内からカプセルを取り出し、力を抑える。
白人の魔法を取り込めるカプセルは、確かに強力だが長く服用していると、体に合わない魔力が暴走を始め爆発してしまう。
その為、これはまだ未完成。完成すればデメリット無しに、常に行使出来るようになる。
「ま、待て…」
「…!」
「あれを食らって、まだ息が」
「じゃが、もう虫の息だ。このままでも充分にトドメは刺せる」
「そうですね、いくら我が国の最高傑作と言えど死の淵からは蘇れませんからね」
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
静かに歩み寄るヴァイスとウォー、立つのもやっとで睨みつけることしか出来ないテスター。
(俺が、守らねぇと…!)
闘志を燃やすが、既に何も出来ない。あとはもう、命を刈り取られるの待つだけ。
「思ったよりも、呆気ない終わり方でしたね」
「まぁ良い、これで反乱分子は全て―――」
「燃やし尽くせ!煉獄の焔」
「何っ!?」
「ちっ、誰だ!」
「お、お前は…」
「王様達には悪いが、謀反させて貰うぜ」
そこに現れたのは、3人が知っている人物だった。
一応、その3で終わる予定




