第60話 酢蛾イナミ
私の人生が暗転したのは昼休みだった。
いつもの仲良し三人でお弁当を食べ終わって、パックジュースやペットボトルのお茶など飲みながら、取留めもない話をしていると、急に周りが、ざわつきだしたのだ。
「えっ?どうしたんだろ」
「皆んなスマホを見てるよ」
私達もスマホを取り出してネットニュースに目を通した。
「こ、これって……イナミのお父さん?」
「えっ!パパの事書いてあるの?」
けど二人の表情を見ると、途轍もない不安に胸が押し潰されそうになる。
「何があったのよ!」
言い辛そうに私にスマホを渡してくれるマキは、申し訳なさそうな顔をしていた。
「なっ!パパが捕まった?……なんで?」
身体中から血の気が引いていく。
「あああー、嘘だよね……パパ……」
目の前が真っ暗になった。
周りの音や目の前のマキの声もどこかが篭もり良く聴こえない。
胸の鼓動がやけに、五月蝿い。
私、どうしたんだろう……
「ちょっとアンタしっかりしなさい!」
「イナミ大丈夫なの?」
心配してくれる友達をよそに、ここに居る全ての人が私を嘲笑ってる。
嫌悪している。私の震えが止まらない。
「酢蛾の親父、新婚の部下の妻を騙くらかして、脅かして、強姦したんだってよ!」
「マジかよ相当なクズだよな」
「旦那が三億の金を横領したって迫ったそうだ」
「冤罪掛けて言う事をきかせるか」
「泣き叫ぶ妻を容赦なく犯したって書いてある」
「ひでぇな、人間じゃ無いぞ!」
「その時の音声データがあるんだってよ
それを再現したってあるぞ」
更にスマホをスクロールすると、
「うわー!なんじゃこれ!」
「酢蛾の糞親父、死刑で当然だよな」
「俺もそう思う!絶対死刑だよ」
「早く殺せよ!人々の為に殺すべきだ」
あるグループでは、
「はん、ザマァねイナミいつも優等生ぶって、結局は犯罪者の娘でしょう」
「だなぁ、ミカどうする?」
「ほっとおけば良いよ、もう外も歩けないし学校も退学するんだろ。寧ろ学校に来れる訳ないわ!」
「あたしなら、とてもじゃないが生きていけないね、即自殺するよ」
「犯罪者の娘だ、急に何をするか分からんからあんまし近づくな」
「分かってるって、普段から付き合いないじゃん」
「それもそうか」
「キャハハハハ!うけるぅーー!」
「おい、コウジ見たかこの記事」
「ああ、いつもアイツは、私のパパは超一流会社の部長なのよって自慢こいていたからな」
「お前、酢蛾に告って秒で振られたもんな」
「あん時は笑ったな、お前の唖然とした顔まだハッキリと覚えてるぞ!コウジ」
「クッソ!ただ顔の面が整っているだけの犯罪者が偉そうによ!」
「なあ、コウジよ犯罪者に被害者の気持ちを教えてあげるのはどうだ!」
「被害者の気持ちって」
「身を持って体験させるのよ!今なら誰も気にしないし話も聞かないだろう?それどころか、関わりたくない筈だ」
「お!ナイスアイデアだケンジ!
俺の正義で分からせてやるぜ!」
ああああぁ……うっぷっ!
「イナミ!大丈夫!」
私は口を押さえトイレに駆け込んだ。
「おぇーーーっ!!」
胃の中の物が全て吐き出された。
口や鼻の中が酸っぱい、涙も流れ出す
トイレットペーパーで口を拭き鼻を噛んで水に流して便座に腰掛けた。
私やママにいつも優しいあの男は、裏では泣き叫ぶ女性をレイプしていた……
そして、沢山の女性と家庭を壊し続けていた……家では平気な顔をして私達を騙していた……絶対許さない!私とママの未来も人生も無くした。奴は殺されても当然の事をしたんだ!
私は覚束ない足取りで当てもなく歩いた。教室にはもう戻れない。
眩暈がする耳鳴りもする息も乱れる
私どうなるんだろうか?
「酢蛾さん大丈夫?」
後ろから男子生徒が声を掛けてくれた。
「あ、コウジ君」
「酢蛾さん良かったら、肩を貸すよ辛そうだよ」
「いや一人で平気です……」
少し強がりを言った。
「いや駄目だ僕はそんな君を見ていられない!そうだ近くに、静かな場所があるんだ。そこで暫く休むと良いよ」
半ば少し強引に私の腕を肩に乗せ身体を寄せ支えて、ゆっくりと歩き出した。
「ここは、屋上……」
「そうだよ、もう少しで午後からの授業が始まるから誰も来ない。ここで暫く休むと良いよ」
「ありがとう……コウジ君」
僕はそっと酢蛾さんをベンチに降ろし座らせた。
「何か冷たい物でも買って来るよ!
少し待っていてね」
「ありがとうございます」
何故か涙が流れ出した。いきなりに人の悪意に晒されて心が可笑しくなったんだろう。
でもコウジ君の優しさが嬉しかった。
「どうだケンジ首尾は?」
「おう、万全だぜ!裏の隅にマットを敷いて置いたぞ保険のカメラもバッチしだ
ほら、これを持っていけ隙を見て、後ろから俺が押さえる」
「お前手慣れているよな」
「エロ漫画の受け売りだよ」
「そうか、後は徹底的に教えてやれば良いんだな」
「そうだぜ!俺にもやらせれよ」
「俺が萎えたらな」
「チッ!クッソが!」
爽やかな笑顔で酢蛾に近づくと、俺に笑顔を見せてきた。
「お待たせ!酢蛾さんこれ飲んで気を落ち着かせて」
コウジ君はペットボトルのキャップを緩めて渡してくれた。
「ありがとうコウジ君……」
あの時、私はコウジ君の告白を瞬殺した、多分その時の私の顔は彼を見下していたに違いない。
コウジ君の家は普通のサラリーマンの家庭だ。私とは、つり合わないと思っていた……なんて私は傲慢なんだろう。
「冷たくて、美味しい……」
「そう、良かった……ところでさ……
お前、被害者の気持ち考えた事ある?」
「えっ!何を!」
誰が急に後ろから襲いかかってきて口を塞がれた。凄い力で私ではビクとも出来ない!
「きゃっ!うぐっ!」
「コウジ!はやくパンツを剥ぎ取り口に押し込め!」
「お、おう!」
ぎこちない手つきで酢蛾の下着を力づくで剥ぎ取った。初めて生の女の人を見て
俺はメチャクソ興奮した。
「うぐっ!うぐっ!」
「よし移動する!そっちを持て」
「あいよ、コラ暴れるなグーでメタクソ殴られたいのか!」
「ぐつっ!!」
腹に一発決めてやると大人しくなったのでサッサと裏のマットまで運び込んだ。
「へへっ、ケンジしっかりと押さえていろよ」
「わかってるって!」
コウジは酢蛾の腹の上に座り半袖のブラウスのボタンを外していく。
「ふー!ふんぐっ!ふー!」
「お前の糞親父もこうやって、嫌がる女を無理矢理襲ったんだろ?
なぁ、イナミよお前の親父に犯された人達の気持ち分かってんのか?」
「ふんぐー!ふんー!」
「分かる筈無いよな犯された事ないんだからよ!だから俺が被害者の気持ちを身を持ってお前に教えてやる!それが犯罪者に対しての教育だからな」
コウジは、勝ち誇った正義感に酔いしれていたのだ。
「俺は正義感が強いんだよ!」
イナミの胸があらわになる。
「うっひょー!やっぱデケェや」
「ふんぐっー!ふんぐっー!」
イナミは目にいっぱい涙を溜めて抵抗するが男二人には軽くあしらわれるだけだった。
「酢蛾よ俺の正義で被害者の気持ち、
身を持って体験しろ!」
コウジは己の正義を曝け出した。
「ちっけぇー!」声には出さなかったが、イナミとケンジはそう思ったのだった。
「おお!嫌がる女を無理矢理っていいわ!
お前の糞親父の気持ちが少しだけ理解したけど、決して許される行為ではない」
「行くぞ!酢蛾ーー!!うっ!……」
「はやっ!」口には出さなかったが二人はそう思ったのだ。
「コウジ行ったんだから交代だ」
早過ぎだろ童貞が、二人は同じ事を思っていた。
「……分かった」
「俺は病気が怖いからゴムを着ける。
お前も性犯罪者の娘だ色んな奴とやりまくってんだろ?」
「うぐっあ!(違うやっていない)」
「なっ!」「うんぐ!」
曝け出されたケンジのは、思いの外大きかった。
「うぐっ!(やめて!そんな入らないわ)」
うがっあーーー!!
「酢蛾よこれで、お前も糞親父の卑劣な下衆の行為の残酷さが分かったろ
それに懲りて真っ当に生きるんだな!」
「うぐっ!(私は何もしていないのに)」
「ちなみに、お前の糞親父と同じように動画もあるから余計な事するなよ!」
「ぐっ……」
やっと、私は解放された……被害者の気持ち……下衆なあの男の行為……許さない!……絶対許さない!!
何も考えたくなかった。
何もしたくなかった。
ただ家に帰りたかった。
ふと、目の前を歩く人を見つけた。
あ、青川先輩……
彼はこの学校の生徒会長で四月に私に告白して付き合う事になった人だ。
会う度に彼の事がどんどん好きになって、彼の求めてに応じて私の初めてを捧げた人だった。
彼の父は個人病院の院長で彼もいずれは跡を継ぐ事になっていた。
私は大学卒業後彼の病院を手伝いながらその後に、結婚する事が決まっていたのだった。
私は青川先輩に駆け寄った。
「青川先輩!私……」
しかし、先輩の見透かすような冷たい目に私の足が止まった。
「お前か、ハッキリと言って置く今後僕に声を掛けるな、近づくな、分かったなら即、僕の目の前から消えろゴミ虫!」
「どうしてですか?先輩と私は未来を誓い合ったんですよっ!親も認めてくれているのにっ!」
更に先輩の目が冷たくなる。
「そんな事も分からんのか、犯罪者の娘と縁を結ぶ家が何処にある!
さっさと消えろ僕にまとわり付くな!
気持ち悪い目を向けるな!不愉快だ!」
「のぼるくん……」
「犯罪者の娘の癖に僕の名を口にするな穢れる!」
「のぼる、そんな事言ったら可哀想でしょう仮にも付き合っていたのでしょう?
いくら、身体が目当てでもね
イナミちゃんのお父さん見たいだよ」
「えっ、私の身体が……」
「ちっ!余計な事いうなよ桃華!
ほら行くぞ」
「あ〜ん、待ってよ〜!のぼるっ!
ねぇ今日は何処でするの?
偶にはラブホに行きましょうよ色んな物があって楽しいよ」
のぼるの腕にしがみ付き上目遣いに甘える桃華に、ダラシなくニヤけるのぼるのその姿はとても、この学校の生徒会会長には見えなかった。
私の全てを否定された……
力無く廊下にペタと座り込むと枯れたと思っていた涙がまた溢れ出してきた。
どうやって、家に辿り着いたか覚えていない。でも確かに自分の家だった。




