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第36話 皆んなで婚前旅行

「新太、忘れ物はない?」


「大丈夫だよお母さん、ガスや戸締りは?」


「見たよ行くか!」


「あっ!待って帽子忘れた!」


「これだろ、無くすんでないよ」


 新太のお気に入りのドジャースの野球帽だ子供用のユニホームも着ている。

勿論、背番号は17番一択だ。


「は〜い、分かった」


 愛猫グレ子さんは大家さんにお願いした産まれた家だからね。



 今、僕達は空の上だ。羽田から新千歳空港への便に乗っているのだ。


「あっ!大谷選手だ!俺ファンなんですサインして下さい!」


 中田が新太君に向かってメモ帳とボールペンを渡す。


 周りの人が一瞬キョトンとしたが直ぐに事情を理解して微笑ましい表情を浮かべていた。


「ほら、大谷選手ファンサービスだよサインしてあげなさい」


 母親の良子さんに言われて新太君は眩しい笑顔でメモ帳を受け取っりサラサラと書いて中田に渡した。


「ありがとうございます!大谷選手!

あれ?大合選手?」


「新太アンタ漢字間違えているよ」


「えっ!」


「大合じゃなくて大谷だよ」


「あっ本当だ」


「欲しかったよね、でも殆ど正解だね」


 頭を撫でてやりたい中田だが、間に良子さんがいるので、出来なかった。


「中田君、嘘を教えたら駄目だよ」


「でも、新太君は小一なんでしょう凄いよね」


「将来は新しいお父さん(仮)と同じ学校に行くんだと張り切っているわ」


 新しいお父さんって誰?中田は見当も付かなかった。


「おじさんありがとう!僕もっと勉強するからね」


「おう、応援してるからな新太君……

おじさんって……俺?」


「もうじき、アラサーでしょう」


「メグミさんまで……神島もそうだろう!」


「あら、私の旦那様(仮)はもう歳を取らないのよ!」


「何処のラノベだよ!魔力無限かよ!」


「もう!私のサトルさんだからね!」


 ほっぺを膨らませる三和子さんは可愛いと思った。


 僕は三列シートの真ん中に座ってるので会社と同じ雰囲気になっている。


 とうとう僕は流されてここ迄来たのかと自分でも感心してる。


 僕は、彼女達の夫候補で旦那様(仮)候補で新しいお父さん(仮)候補らしい

僕の意見は完全無視されている。

怒っていいよね!


 一時間半チョットのフライトで北海道新千歳空港に到着した。そこからはJRに乗って札幌駅に向かう、これは四十分だ。結構近いか。


 ホテルは駅側にある新しく出来た所だった。


「うへ〜!北海道だから涼しいと思っていたが、結構暑いじゃん」


「この時期は平気で三十度超えて来るからな。湿気が少ないから多少は過ごし易い筈だと思うが……暑いな」


 ホテルにチェックインしてそれぞれの部屋に向かった。


 ツインが二つシングルが一つ、成り行きで部屋が変わる事もあると思うが、僕がシングルなんて事もありそうだ。



「うぇ〜!汗かいたから、シャワー浴びてから行くよ、三和子さん」


「じゃ私も一緒に入ります」


「あ、はいです」


 勿論、洗いっこだけで済ましたと言っておこう。


「それじゃ僕達は実家に行って来るよ」


「気をつけてね。遠いいの?」


「いんや、北大の近くだよ」


「北大って北海道大学?」


「そう、札幌駅北口から歩いてもそんなに掛からないよ」


「まさか神島、お前家から近いからそこに入ったのか?」


「そうだけど、態々遠くに行かないよ、面倒だからね。だけど大学構内に入ったら中メッチャ広いから結構歩かされたな」


「中田達はどうする?」


「なんか大通り公園でイベントやってるみたいだから行ってみるよ」


「買い食いと冷えたビールだな」


「その通り!」


「美人さん二人とお子様も居るから変な所に行くなよ」


「昼間から行くかよ!」


「ちゃう、変なのに絡まれるなって事だよ、夕方前に連絡すっから」


「おう!」



 そして僕と三和子さんはタクシーを呼んで貰い実家に向かった。


「ここがサトルさんのご実家」


「ああ、普通の一軒家だろ」


「庭付き二階建て……マイホーム……

うふっ!」


僕達はタクシー料金を払い車を降りた。


 チョット近かったかな?暑い中歩くよりましだろう。



 僕はチャイムを鳴らしズガズガと家の中に入っていった。

 

 その後ろを三和子さんが不安気について来る。


 リビングのドアを開けるとひんやりとした風が心地良い。


「お、やっとエヤコンを入れたのか母さん」


「去年暑過ぎて、お父さんがキレまくってたんだよ、頼んでも直ぐに来ないしやっとエヤコン取り付けに来たら涼しくなって一、二回しか使わなかったわ」


「まあ、そんなもんだな」


「その人がアンタのお嫁さんになる人かい?」


 振り向いた母さんが呆然として冷蔵庫から取り出したばかりの麦茶を床にバチャ、バチャと溢し出した。


「母さん!まかれてる!」


「えっ?あーー!何するんのよサトル!」


「俺じゃねぇだろ!」



「何、帰って早々に騒いでるサトル!」


「あ、親父か」


「お邪魔しております。美和と申します」


バチャ、バチャ、バチャ


「親父!ビールまかしてる!」


「えっ?あっ!冷てぇーー!」


「お父さん!お客さんの前で短パンを脱いだら、いけません!」


「あっ!すみません」


親父は脱衣所に駆け込んだ。




「いやはや、これ程の別嬪さんだとは思いもしなかったよ」


「サトル本当にレンタルさんじゃないのね」


「母さんくどいぞ、彼女に失礼だろう」


「そうね、ごめんね美和子さん私達舞い上がっていたわ」


「お義母様、私気にしていませんので」


「親父、昼どうする?」


「それな、何も決めてなかったべや」


「じゃ、宅配寿司にしよう、特上セット四人前と、のり巻きセット一人前注文して

代金は俺が出すからな」


「おお、悪いなサトル」


「気にすんな親父」


「サトルさん美紅ちゃんだけが、のり巻きセットなんて可哀想だよ」


「そうだよ、食べ物よ恨みは根が深いと言うよサトル」


「分かったよ、特上セット一つ追加で、のり巻きセットはそのままで、奴の絶望する顔が見たいからな」


「……サトルさん……」





「毎度ありがとうございました」


「ご苦労様です」


「おお、流石特上だな美味そうだ!

母さんビール頂戴」


「お父さんがさっき、こぼした飲み掛けを空けてからですよ」


「えっーー!!温くなってるよ」


「冷蔵庫に入れて置きましたから、大丈夫です」


「そんなぁ〜〜〜!」


 ニッコリと微笑む母の顔が本当に恐ろしかった。親父も何も言い返せなかった。


 テーブルの真ん中に置かれたのり巻きセットがどこか、シュールに見えた。


「うんうん、脂が乗っていてどれも美味しいわ!特上選んで正解だな」


「サトルさん、どれも美味しいです」


「それは良かった」




「たっだいま〜!

ふう、暑い暑い暑過ぎじゃー!!」


「お、バカが帰って来た」


「美紅ちゃんお行儀が悪いですよ」


「スンマソン、あっ糞兄貴来ていたのか」


バチャ、バチャ、バチャ、バチャ


「美紅ちゃん!ペットボトルの水こぼれている!」


「えっ?あーー!何すんだよ糞兄貴!」


「俺じゃ、ねぇだろ!」




「あー!びっくりしたよ!だって目の前に

テレビで見る女優やアイドルなんて屁だよ、って言う人がいたんですもの」


そんな事、一つも言ってませんが……


「いや、本当メッチャ美人なんだから、糞兄貴にいくらで頼まれたんですか?」


「え?」


「ああ、もういいわ!信じて無い奴は呼ばない事にした。今決めた」


「美紅ちゃんお腹空いたでしょうのり巻きセットがあるよ」


「あー!本当だ、ありがとうお母さん!」


「まず、手を洗って来なさい」


「あーい!」



「うひょー!のり巻きサイコー!」


そこでやっと周りに気づく愚妹美紅。


 残りわずかになった各自のオヒツの中にウニさんやマグロさんやカニさんがいたからだ。


「なんで皆んな握り寿司なの……私だけがのり巻きセット……」


「お前、のり巻き大好きだろ」


「そりゃ好きだけど、こんな差別は許され無いよ!」


 おおー、目にいっぱい涙を溜めて睨んでいるわ!


「ガッハハハハ!今日は気分がよい、特別に貴様にも我の慈悲を与えてやろうぞ!我に感謝の心を持ってこれからも生きていくと良いぞ!ガッハハハハ!」


「母さん愚者にも恵んであげなさい」


「もう、アンタ達はいつもそうなんだから」


「「アイツが悪い!」」


「うっひょーー!!うめぇよー!こんな寿司なんて何年振りだー!」


「ファハハハ!そうだろう!そうだろう!

優しい兄が特別に特上寿司のガリを恵んでやろう!」


 適当にガリを箸で掴み取り美紅のオヒツに投げ入れてやったサトル。


「遠慮すんなよ旨いんだからな」


「糞っ!兄貴め!」


 その時三和子さんが何かを見つけてしまったようだ。



「げっ!メグミ!」


「三和子さんどうした?」


「サトルさんテレビを見て下さい」


ん?……ブッホーー!!


 サトルは飲んでいた麦茶を吹き出してしまった。


「うぇー!、汚ねぇぞ糞ニィ!!」


 そこには、ビアガーデンで騒ぐ三人と子供が一人いた。


「あの二人何で素顔を晒してんの?

あのバカは何やってんの?」


僕は一瞬、理解が出来なかった。


「サトルさん不味いですよ!エテ公が集まって来ます」


「あー!糞が!テレビで晒しやがって!」


「サトルなんじゃ!あのお二人は……

美しい過ぎる……」(個人の感想です)


「あの人達が、一緒に北海道旅行に来た。サトルの会社の人?」


「ねぇ、糞ニィの会社、容姿だけで採用してんの?なら私も入れるね」


「なっ訳ねぇーだろ!よし!僕が車で迎えに行く!

親父車借りるぞ!」


「車のキーは電話の横だサトル」


「三和子さんはアイツらに連絡を入れて置いて下さい」


「分かりました。サトルさん気をつけて!」


 エンジン始動音が聞こえると直ぐに走り出して行った。


「母さん……久しぶりに外でバーベキューにすっか」


「そうですね、サトルが帰って来たら買い出しに行って来ます。美紅はお父さんの手伝いね」


「分かった。お母さん」


「あの、私は何をすれば……」


「三和子さんは……その都度ね」
















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