第32話 お父様との交渉
「お父様、お母様どこか見たい所がありますか?
今日一日案内をさせて貰います」
「いや、結構だ。三和子の暮らしている所を見て帰るよ」
「え?観光名所は結構ありますよ」
「最初から、そのつもりだったんだ。連れて行ってくれ」
「分かりました」
「お父さん見ても普通の年数の経っているアパートだよ」
「それでいいんだよ。お前達の暮らしが見たかったんだ」
「お母さんもそれでいいの?折角出て来たのに?」
「私が、そうしろとお父さんに言ったのよ」
「そうなんだ」
僕達はフロントで精算後タクシーを呼んで貰った。
「御免、悪かったって中田君」
「いいえ、その事は気にしていません。
会社での制服姿も素敵ですがドレス姿やサマーセーター姿に、やられただけですので、寧ろご褒美だと思っています」
「はぁ、アンタもブレないね……そうだ!お詫びに私が扱いてあげようか?」
「えっ!本当ですか?」
慌ててズボンを脱ごうとする中田を蹴り飛ばす
メグミ。
「痛ってー!僕の両脛弱っていますので直ぐに折れてしまいますよ!」
「ふん!直ぐに調子に乗って!
冗談に決まっているでしょう。
まあアンタの頑張り次第では……してもいいかも……」
「え?」
最後の方、中田は聞こえないふりをした。
☆
「ほ〜!思った以上のボロアパートだな」
「アナタ!思っていても口に出してはいけませんよ」
「あー、それくらい分かっている!」
「築4、50年らしいです。でもペット同伴も良いんですよ!それで離れられないのが理由です。
どうぞ上がって下さい。グレ子ただいま〜」
「ニャァ」
奥の部屋から猫が現れて直ぐに引っ込んでしまった。
「あ、グレ子ちゃん……」
「お邪魔する」
「お父さんお茶淹れるからね」
「ああ、悪い」
「私も手伝うわ」
「お母さんは座っていて」
「神島君年収は?」
「500ぐらいです。まあ、その辺はしっかりとしている会社なもんで……」
「借金とかは有るのかね」
「いえ、全く有りません。そもそも遊びにも呑みにも行きませんから、生活費も殆ど掛かりませんし偶にゲームを買うくらいですか」
何かに気がついたサトル。
「あ、そうだ三和子さんお母様と一緒に何か冷たい物買って来てくれますか?」
「冷たい物ですか?……あ、はい」
「それと、帽子とサングラスと防犯ブザーを忘れない様にね」
「分かっているわ。お母さん行きましょう」
二人は楽しそうに部屋を後にした。
「さて、お父様浮気した事は?」
「浮気?……は無い……」
なんだ今の間はあんのかよ。
「じゃされた事は?」
「……」
有るんかい!三和子さんのお母様だもんな若く見えるし、とても綺麗だ。
「僕はされた方ですけど、結婚を考えてたんですけどね」
「会社のトラブルで一ヶ月半位忙しくて休みも無く何日も会社に寝泊まりしたくらいですよ」
「過労でどうしようも、なくなり早退したんですよ。やっとの思いで部屋に帰ったら、見知らぬ若い男と裸でいたんですよ。その椅子に……」
「えっ!」
「お父様大丈夫ですよキレイにしていますから、自分への戒めの為に置いてあるんですけどね」
「その後、僕なりに考えました。
メスなんていくら結婚の約束をしても
いつも愛してるって言っても、一瞬で考え方も変わるし、裏切る生物だって理解しました」
「君……」
「今だにトラウマですけどね」
「三和子さんはあれ程の美貌です。
男であれば独身、既婚なんて関係なしに寄ってきますよ」
「高スペックで金と権利を持った奴なんて、ごまんといますからね」
「三和子さんの様な女性を連れて歩くのがステータスと思っているのも多いでしょうね」
「まあ物扱いですけど、飽きたらまた変えればいいと考えているでしょう」
「三和子さん本人も金が手に入るから、メリットもあるのでしょうね」
「そんな連中に金も権力もない平凡な男がどう立ち回ればいいのでしょうか?
絶対無理ですよ、時間の無駄だと思います」
「……」
「と言うわけで、この話は白紙にして下さいお願いします」
「ただのお付き合いならその場でお別れすれば済む話しですが、結婚となると中々一筋縄では済みません」
「僕だけの問題では無くなり、両家や仲人、発起人や祝ってくれた人達の事も入ってきます」
「お金も気苦労も半端では無いと思います
ですから、この事は無かった事にして下さい。お願いします!」
「ぐっ……三和子と話してみる……」
やった!と嬉しそうなサトルだった。が態度には出せなかった。
ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!
その時防犯ブザーの音が微かに、開けた窓から聞こえた。
「三和子さん!」
僕はスマホを持ち出し玄関を飛び出した走りながら110番通報をして音を頼りに駆けている。
『こちら警察です!どうなされました?』
「女性が防犯ブザーを鳴らしています!
なにか、良からぬ事が……」
『正確な場所を教えて下さい!』
「はい!〇〇の〇〇で〇〇の近くだと思います!自分も今向かっています!」
『分かりました。すぐにパトカーを向かわせますので、絶対に無理だけはしないで下さい!』
「お願いします!」
ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!
近い!もう直ぐだ!男女の争う声も聞こえる間違い無い三和子さんとお母様だ!
スマホをカメラに切り替えながら僕は奴らの前に割り込んだ。
「何をしている!お前達!女性から手を離せ!」
「なんだ?テメェ死にたくなければ、すっこんでいろ!」
「はん!女も一人で誘えない童貞が、
何をほざいている?」
「糞が!ぶっ殺してやる!」
キレた大学生風のチンピラが殴り掛かってきた。
もう少し罪を重くしてやろうと僕は態と男のパンチを受けた。
「うわー!やられたー!」
チョット態とらしいか?
「キャー!」
三和子さんの悲鳴だ。
男のパンチが当たると同時に顔を背けて重心もずらして衝撃を逃す。そして上手く受け身を取りながら派手にひっくり返る。
完璧だ!やってて良かった古武術。
ファン!ファン!ファン!ファン!
良いタイミングでパトカーが到着した。
二人の男は慌てて逃げ出すが、お母様のナイスな
足掛けで一人の男が盛大にコケて警官に御用となった。
応援のパトカーも何台も来て辺りの捜査と手配をしている。僕達も直ぐにパトカーに乗り込み署に向かい被害届を提出した。
勿論、三和子さんには女性だけで話をして下さいと強く懇願したら考慮してくれた。
感謝だ。
僕は証拠の動画も善意で提出して捜査に協力した。すぐにも逃げた男も捕まるだろう。
帰り道のパトカーの中で三和子さんが抱きついて来た。
「サトルさん!ありがとうございます!」
「何事もなくて良かったですね」
「神島さん本当にありがとう」
「いえ、お母様当たり前の事ですよ」
アハハハハと僕は笑った……
「どうしたの?」
「何か忘れている様な気がして、ならないんだよ」
「私もだよ」
「あら、貴方達も」
「「「あっ!」」」
「お父さん!」様!」




