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向井刑事三日月に死す

榊原心療病院に戻って来た滝川は、自分の部屋で煙草をふかしていた。しかし、その目は天井の一点を”ジッ”と見つめて物思いにふけっている。

”加島礼子は氷のような心をもった生徒だった。まさか、彼女が・・・・・。”

その時、内線が鳴った。

「はい、滝川です。」 内線は婦長からで、加島と名乗る女性が面会を希望しているとの事を告げた。

しばらくして入って来たのは、美しい女性に変身した加島礼子だった。

「久し振りだね、びっくりしたよ!」そう言って滝川は礼子をソファに案内した。しばらく二人は、昔話しに熱中していた。

「先程刑事と会っていてね、心療療法の事について熱心に聞いてたよ、悪いと思ったが君の名前も出さして貰った。そうしたら、今度は君の訪問だ・・・ほんとに、驚いたよ。」

加島礼子は思わずソファから立ち上がった。その時、五階にあるこの部屋の窓から、病院を伺っている向井刑事の姿が見えた。

「先生、急用を思い出しました・・・また来ます。」

「気分でも悪いのか?顔が真っ青だぞ・・。」 

加島礼子は滝川の言葉には答えず、白いドレスを翻して逃げるように、部屋を出て行った。


枡園は暴行死事件の被害者の男からは特別新しいネタは得られなかった。

捜査一課に戻り、カップメンをすすっているところへ電話が鳴った!枡園が出てみると、それは自殺した ”かすみ” の父親からのものだった。

父親は”かすみ”の死が自殺として処理されたが、枡園の計らいで向井が捜査を続けている事を向井からの電話で知った。そのお礼を兼ねての電話であった。

父親は受話器の向こうで何度もお礼の言葉を述べたあと「娘の荷物の中から携帯電話が出てきまして・・・・・ロックがかかっていたため、携帯ショップで事情を話して解除してもらい、内容を調べていたのです。残念ながらたわいもない会話を交わしたメールが残されてたくらいで特に自殺の理由につながるような内容のものはありませんでした。」 と告げた。

枡園は 「そうですか、彼女は携帯電話を2つ持ってたんですねぇ!たぶんそちらのほうは普段使ってなかったのでしょう。普段使ってたと思われる携帯電話は飛び降りたさいに粉々になってました。」

父親は 「でもそのメールの中の一つに添付されていた音楽があるのです。・・・が私はたぶん”かすみ”が好きだった曲なのだろうと思い、詳しい人に頼んでその曲を”CD”にしてもらいました。そして”かすみ”の霊前で聞かせてるのですが、それが、なんとも妙なんです!!」

”かすみ” の父親の言葉に受話器を握る枡園の手に力が入る。

「妙・・!?妙といいますと、ただの音楽ではないのですか?」

父親は 「いえ、ただの音楽です!私が不思議に思ったのは、うちには老犬が一匹います。普段は寝るばかりで声さえ上げないのですが、その曲が聞こえると決まって落ち着きがなくなり狂ったようにほえるのです。」

枡園は生唾を飲むように ”ゴクリ”と喉を鳴らすと「おとうさん!そのCDと携帯を大至急こちらに郵送してください!それと、絶対に複製を作らないでください。私の読みが正しければ、あなた方家族は持っていないほうがいい!!」

父親はそれが捜査の役に立つならばと承諾し電話を切った。

枡園は父親からの電話を切ると ”メールに音楽・・・か・・”と呟いた。 そのとき枡園の脳裏に滝川医師から聞かされたメロディーがよみがえった。 ”まてよ・・・あの曲以前どこかで聞いた気がするぞ!” もみあげを触りながら考え込む枡園警部補 食べかけのカップメンはすでに冷めてしまっていた。 枡園のもみあげを触る手の動きがピタリと止まる。 ”そうだ!かすみが出ていたDVDだ。 三人が絡み合うその後ろで小さな音で流れていた・・・あの曲だ!”



「おいおい君、何処に行くんだ。もう、この時間は立ち入り禁止だぞ。」

高層ビルに入って行こうとしている男に、警備員は声をかけた。

男は胸ポケットから、警察手帳を取り出し「捜査で屋上まで。」と言ってにっこり笑った。

向井は屋上に出た。

子供の頃、特撮番組の再放送をTVで見てファンになり、悪い怪獣をやっつける為、彼は刑事に成ろうと子供心に誓った。

もう、秋も深まり風は冷たかった。

”俺は、悪い奴は許さない” 向井は深夜の屋上で心に誓った。

向井は、目の前にある金網をいとも簡単に乗り越えた。

もう、向井の前に障害物はない。夜空には、三日月が美しく輝いていた。

”奇麗だ・・・。” 向井は呟いた。

(何をしているんだ、向井!)向井の頭の中に、枡園警部補の声がこだました。

”俺は、超人に成って悪い奴を遣っ付けてやるんだ!”

向井は枡園の声を打ち消した。

胸の内ポケットに手をやり携帯電話を取り出し、頭上に掲げ。

向井は思いっ切り、高層ビルの屋上から宙に舞った・・・。

”俺は、正義の超人だ・・・・・・!!”


枡園は夢を見ていた。

凶悪犯を向井と追いかけていた。

相手は、一家4人を皆殺しにして金を奪って逃走した強盗殺人犯だ。

その犯人を、高層ビルの屋上に追い詰めていた。

「俺にまかして下さい」そう言って向井は犯人の前に立った。


「危ない!奴は拳銃ハジキを持っているぞ・・・!!」枡園は絶叫した。

向井は胸ポケットから何かを取り出し頭上にかかげた。

その瞬間!向井は宇宙人に変身して、あっという間に犯人を失神させていた。

枡園はその光景を唖然として見ていた。向井の宇宙人は枡園に敬礼をして、宇宙に飛び去って行った。

「向井は宇宙人だったのか?!」

その時、枡園の携帯が鳴った・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・♪♪・・・・・・。

携帯が鳴っている、枡園は寝ぼけ眼で携帯を取った。

「ハイ・・枡園・・。あっ本部長ですか?! えっ、向井があの高層ビルから飛び降りて・・・・?!」

「宇宙に還った・・?!」枡園はまだ寝ぼけていた。

「何を訳の分からない事を言っている、向井があの高層ビルから飛び降りて死んだんだ!」

枡園は飛び起きて携帯に向かって大声で叫んだ。

「今すぐに行きます!!」

時計の針は午前二時を少し過ぎたところを、指していた。

枡園が現場の高層ビルに到着したのは、午前三時を少しまわっていた。

もう向井の遺体は警察病院に運ばれたみたいで、忙しく警官たちが動き回っている。

野次馬をかき分け、佐古田警部を見つけた枡園は声をかけた。

「警部・・・いったいどう云う事ですか?!」

枡園まっさんか、・・向井がこのビルから飛び降りた!警備員の話ではどうやら自殺らしい。」

「そんな馬鹿な!奴に限って自殺などあり得ない・・・。」

かみつかんばかりの枡園に、佐古田は薄笑いを浮かべながら言った。

「警備員がすべてを見ていたんだ。」そこで、佐古田は一度言葉を切り、次のように続けた。

「深夜に刑事だと言って屋上に上がった若い男を不審に思い、後をつけて一部始終を見ていたそうだ。・・・枡園まっさん残念ながら向井は自殺だ。」

”違う・・向井は何かをつかんでいた。これは、巧妙に仕組まれた殺人だ。俺がいずれ真相を暴いてやる。”

そこで、枡園は天空を見つめて呟いた。  

「向井、これからも一緒だ・・。」

佐古田警部は不思議そうに、枡園の横顔を凝視し続けていた・・・。


並木 恵が朝起きて歯磨きをしながら、時計代わりにダイニングキッチンのテレビをつけると、「また同じビルから飛び降り自殺か・・・?!」と言うニュースが入って来た。

「最近は良くあるわね!・・」

声だけ背中で聞きながら歯を磨いていると・・。

「飛び降りたのは警視庁捜査一課の向井直哉巡査(29)で、搬送された病院で死亡が確認されました・・・。」

”ガッチャーン!”

恵の手からコップが落ち、派手な音をたてて粉々に砕け散った。

まさかと思ってテレビの画面を見ると顔写真が映ってる。

恵は朝食どころではないと、急いで身支度を済ませるとタクシーを呼んで警察病院へと急いだ。

場所は本庁所属の警察病院の霊安室。

「直・・嘘だ!目を・・目をあけてよ直哉!・・・何故?どうして?・・・。」

言葉にならず恥も外聞もなく遺体にすがって泣き叫ぶ並木 恵。

「・・恵さん・・・」

枡園警部補が後ろから優しく恵の肩に手を置いた。

”ビクッ”と恵の体が震え、その場に並木 恵は崩れ落ちた。

霊安室で嗚咽する並木 恵を、枡園はどうする事も出来ずに、ただ呆然と眺めているだけであった。


     ”直哉、子供何人欲しい・・?”

     ”そうだな、三人くらいかな・・”

     ”・・・私、しあわせよ・・・”

     ”・・愛してるよ、めぐ・・”






             第二章 向井刑事三日月に死す!!


                    (終)


















ストーリーには全然関係ないのに、Tプロからクレームが入り、一部表現を変えました。子供の頃の夢が敗れた感じです。

・・・サイテ~!

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