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誘導自己暗示

”俺は何で此処にいるのだろう・・” 秋葉は思った。


 高層ビルの屋上に、今自分は立っている。金網を登って・・・向こう側に出る。もう、秋葉の前には障害物はない。


 ”何かがおかしい・・!” 秋葉は自問自答をする。


 少し欠けた、月が美しかった。


 ”月が美しい・・・??”なぜ俺が、そんな事を思うのだ。


 「お前・・・死ね!」 どこかで聞いたような言葉が、秋葉の頭の中で響いた。


 秋葉は両手を広げ、ビルの屋上から思い切りダイブした・・・。


 光の線をひいて、終電車が通過していた。





加島礼子はアパートに籠ったままであった。

 ”かすみが自殺した・・” 礼子には信じられなかった。確かにノイローゼ気味だったが・・・

 しかし、死んだ日の朝仕事に行く私に向かって、「もう、吹っ切れたから大丈夫よ。」そう言って、かすみはニッコリほほ笑んだ。

 昨日来た刑事たちの話では覚悟の自殺らしい、私はどうしても信じれないから、来栖の事を話した。

 一瞬2人の刑事の目が輝いたのを、私は見逃さなかった。

 私は、有ること無いこと2人の刑事に喋った。刑事たちは、礼を言って帰って行った。

 しかし、来栖が犯人でない事は、私が一番良く知っていた。かすみが死んだ時間には、来栖と私は一緒の電車に乗っていた・・・この事は刑事たちには、言っていない。

 かすみが自殺だとしても、来栖が殺したようなものだ。

 今、彼女は司法解剖されて、警察病院の霊安室の中にいる。明日朝早くに、両親が引き取りに来るそうだ。

”来栖のアリバイの証明など、絶対にしてやるものか・・・!!” 礼子は心に固く誓った。

 礼子の両目から、大粒の涙が頬を伝って流れおちた・・・。

次の日の朝。

加島礼子は、かすみの遺体をひきとりに来ていた両親と会っていた。

手続きを済ませ署から出てきた両親に「あの日、私がそばにいられなかったばっかりに・・・こんなことに」と、頭を下げる礼子に、母親は左右に首を振りながら「加島礼子さんですね!?かすみはあなたと友達になれたことを大変喜んでました、あの子からの手紙にはかならず礼子さんの名前が出てきていたくらいです。」と手を握った!

かすみの父親は「礼子さん!かすみが自殺だなんて・・・私には信じられません!」

礼子は二人の手を交互に握ると「私も信じていません!お父さん、お母さん、とにかく今は かすみ を早く皆さんのところへつれて帰ってあげてください。」と、深々と頭を下げるばかりであった。

向井は大あくびをした。昨夜遅く加島礼子のアパートに枡園と向かった。

しかし寝ているのか、いくら呼び鈴を鳴らしても、出てくる気配はなかった。

向井が、顔を洗っていると携帯が鳴っている、枡園からだった。

「昨日遅かったのに、オジンは朝が早いなぁ」向井は笑いながら携帯を取った

「向井・・・! 秋葉が飛び降りて死んだ。・・殺しかもしれん」

向井はしばらく携帯を手に持ったまま動かなかった・・・・・。


来栖は目が覚めた。目覚まし時計は午前9時を告げている。

”しまった・・寝過した。”もう、今日の仕事には、いくら急いでも間に合わないのは明白な事実であった。

来栖は、TVのスイッチを入れ、顔を洗うため立ち上がった。

ズキズキ頭が痛んだ。 ”昨夜、飲み過ぎたかな”

テレビに目をやると、興奮した口調で女リポーターが、喋っている。

「昨夜、高層ビルから男性が飛び降り死亡しました。死亡したとみられるのは、持っていた免許証から、秋葉 剛さん(45)と見られています。尚、このビルからは数日前、ほぼ同時刻に若い女性が飛び降りて亡くなっております・・・。」

「ほぼ同時刻に、二人の男女が飛び降りたのですか?!二人には、何か接点があるのですか?」

ワイドショーの司会者が口を挟んだ。

「数日前に飛び降りて亡くなった向坂かすみさんと、秋葉 剛さんとの関係は、今のところ分かっていません・・・・・。」

テレビ画面に映し出された二人の写真を見て、「あっ!」と来栖は叫んだ。

その時、激しい頭痛が襲った・・・しばらくして、頭を抱えていた両手を放し、来栖はニヤッと笑った・・・。

その夜。

「ふ~っ!」来栖はいつもの屋台で、コップ酒をあおっていた。

 来栖の頭の中は、今日の仕事にあぶれたことより、かすみとの思いが駆け巡ってい

る。

 「お客さん、どうしました。 今日は元気ないですよ。」と、屋台のおやじが聞いた。

 来栖は黙って首を振ると、金を置いてふらふらと、駅に向かって歩きだした。

「かすみ・・何故自殺したんだ!もう一人の俺が、おまえに何かしたのか・・・?!」

来栖は大都会の街並みに向かって大声で叫んだ。



警視庁捜査一課の片隅で、しきりともみ上げを触りながら考え込む枡園警部補のもとに、向井刑事が携帯端末を持ち近づいてきた。

「警部補!向坂かすみが通っていた精神科の医者に会ってきました!彼女は何かの暗示にかかっていたのではないでしょうか?!。」

普段は感情の現れない枡園の目が鋭く変わった「何かの暗示・・・どういうことだ?」

向井は枡園に椅子を勧めると「彼女の担当医は”クーエの自己暗示法”という治療法に力を入れていたそうです!」

向井はつづけた。

「”クーエの自己暗示法”とは、フランス北東部にエミール・クーエという薬剤師が、期限を過ぎ色も褪せた薬を売った。クーエは成分的にも効力もなく効く訳がないと考えていた!しかし後日薬を買った男が”あの薬をのんだら病気が治った”とお礼を述べてきた。そこでクーエは、薬の効果には薬という物質の他に、’必ず治るという‘思い’が働くのではないかと考え、薬剤師をやめ、”クーエの自己暗示療法”という治療法を始め、世界的に有名になりました。

そのクーエの自己暗示療法の中で「誘導自己暗示」というのがあります。

誘導自己暗示というのは、他人が本人の持つ「潜在意識」に外部からアクセスすることであり、暗示は潜在意識へインプットするためのプログラムであるわけです!この鍵である暗示を適切に潜在意識へインプットできれば、潜在意識はそのプログラムにしたがって、全力をあげて動き出すのです・・・つまり、他人をコントロールすることも不可能ではないのです。」

向井は説明を終え携帯端末をパチンと閉じた!

枡園警部補は「君の言わんとする事がよく分からん!!”潜在意識”に外部からアクセス・・・そりゃ、どういうことだ?」

向井は枡園の座る正面の椅子に腰を下ろした。

「分かりやすく言うと”催眠術”のようなものです!

鋭く尖っていた枡園の目に普段の色が戻り、やがて苦笑へと代わって行った。「なんだぁ~っ!”催眠術”だぁ~!・・・・二人の人間の自殺の原因が催眠術・・・・それが君の推理かね?」

向井は「何が可笑しんですか・・・!!エミール・クーエは実際にたくさんの人を救ってるんですよ! その逆だって・・・!」と口を尖らせる。

枡園は立ち上がり窓の方へ歩きながら「まあいい、だがこの件は終わりだ。本部で二人は単なる自殺だという意見がまとまった」

向井もあとを追うように立ち上がった。向井が勢いよく立ったため、座っていた椅子が ”ガタン”と大きな音をたてた。「終わりって・・じゃあ捜査は打ち切りですか?!」

枡園は倒れた椅子を起こす向井のほうに振り返り「”表向き”はな・・・だが、君も知っているとおり、二か月前に起きた○×公園の浮浪者暴行死事件は解決していない!しかも来栖健二らしき男と向坂かすみが関わっている・・・来栖健二と富士見会とのつながり、また 向坂かすみも富士見会の秋葉 剛と一緒にビデオに写っていた。私は、君の推理は別にしても、たんに自殺でかたをつけられないと思っている・・・私は派手な動きはできんが、君は浮浪者暴行死事件の捜査を名目にこのまま続けてくれ!」

窓から差し込む光りを背に、もみ上げを触る枡園の姿がシルエットとなり、輝きを増した向井の目に映っていた!

枡園は昔堅気の刑事だ。今まではコツコツと歩きまわって、事件を解決してきた。 部下の向井の言う事は自分には理解できないことが多い。

しかし、秋葉の自殺だけは自分でも理解できない。

他人ひとを自殺に追いやっても、自ら命を絶つ人間ではない。その秋葉がどう考えても自殺としか思えない方法で死んだのだ。

枡園は、もみ上げをいじる手を止めて、頭を抱えた・・・・・。

「俺はもう、過去の刑事なのか!?」

枡園は向井の、若さ・知識・行動力に嫉妬している自分を感じていた。



「直哉~!待ったぁ・・。」向井の婚約者である並木 恵が、息を切らしながら走ってきた。

「遅いぞメグ!」 向井は公園のベンチから立ち上がり、少しすねて見せた。

二人は、一か月後に、都内にある小さな教会で結婚式を控えていた。

「さあ、映画でも見るか・・・それとも、少し早いが飯でも食べるか?!」

「まだお腹すいてないから、映画観ましょうよ。私、観たい映画があるの。」

恵は、向井の腕に手をまわして悪戯っぽく笑った。

しかし、向井の目は何所か遠くを見ている。

その視線の先に、白いドレスの女が歩いていた。この公園は広い、2人の居るところからはかなり離れている。

「知ってる人なの?」恵は不安そうに聞いた。

向井はそれには答えず、「あの女が歩いて行っている先の、公園の向こうにある大きな建物は?」と、逆に聞いた。

「榊原心療病院よ。都内では有名な病院だよ。」

「クーエの自己暗示療法・・・。」

恵は向井の顔をまじまじ見つめて、「よく知っているじゃない、その、何とか療法の第一人者がいるそうよ・・・そんな事より早く映画行こうよ。」恵は甘えた口調で促した。

白いドレスの女は、公園を横切って榊原心療病院に行ったように向井には思えた。

”あの女は、確かに加島礼子だった。何か、偶然ではない気がする。”

「ごめんメグ、この埋め合わせは、きっとするから・・・。」そう言うと向井は、白いドレスの女が歩いて行った方向、榊原心療病院に向かって走り出していた。

唖然としてその後ろ姿を見送っていた恵は、「刑事の妻は大変ね」と呟き、向井の姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。

それが、向井直哉を見た最後になろうとは、恵は夢にも思わなかった。


向井に単独行動をさせた枡園だったが、彼もまた密かに捜査を続けていた。

枡園は喫茶店の一角で精神科医 滝川秀治 と会った。

滝川は自殺した向坂かすみの担当医で、主にカウンセリングと彼独自の治療法”誘導自己暗示”を行っている。

枡園はホットコーヒーを二つ注文すると、滝川に”誘導自己暗示”について詳しく聞いた。

滝川は出されたコーヒを一口啜ると話し始めた。

「自己暗示というのは、たとえば誰かにチーズを食べさせたとします。その後”そのチーズは腐っていた”と告げます、するとその人は吐き気や腹痛を訴える・・・でもチーズは腐ってなどいないのです!痛んだ食べ物を口にした不安がその人の持つ”潜在意識”へ働きかけるのです。その”潜在意識”へ外部から刺激を与える・・・それが”誘導自己暗示”なのです。」

黙って頷き”もみあげ”をさわる枡園に滝川は話しつづける!

「私の治療に薬品は使いません!私が患者に与える薬はこれです」と、CDウォークマンを差し出した!

枡園は受け取るとヘッドホンを耳に・・・しばらく聞いていたが 「これが治療になるのですか?私にはただゆったりとした音楽しか聞こえませんが」

滝川は再び頷くと「そのとおりです。ただの音楽です!でもそこには音楽のほかに人間の耳で聞き取れない音域で私の声が入ってるのです・・・たとえば犬の怖い人には”犬はかわいい 犬は怖くない”というぐあいに音楽とともに繰り返してるのです。耳で聞き取れない音域でも、それが音として認識できないだけで人間の鼓膜には届いています。それが繰り返すことで本人の意思に関係なく、少しずつ潜在意識に働きかけるのです。」

枡園は、もみ上げを触っていた手をコーヒカップへと移しながら 「”誘導自己暗示”・・・それは、たとえば治療ではなく、逆にも利用できますか?」とたずねた。

枡園の問いに滝川は「逆といいますと?たとえば”誘導自己暗示”を使ったその人物に犯罪を犯させるとか・・・ですか?」

枡園は「まあ・・そういったたぐいです!」

滝川は考えることなく、すぐに「可能だと思います!」と答えた。

枡園はさらに質問をつづける。

「あなたのほかに”誘導自己暗示”を行える人物をご存知ありませんか?」

滝川は首を軽くかしげ 「さあ!いるとは思いますが私の知る限りではありません・・・・・あっ! そういえば、私が大学の講師時代”誘導自己暗示”を研究していたころのことですが、一人の女子生徒が非常に興味を持ち助手を名乗り出た・・・彼女ならできるかも知れません。」

枡園はコーヒーカップを口元に運びながら 「その女子生徒の名前は覚えていますか?」

滝川はすぐしばらく考えるように下を向いていたが、やがて顔を上げると 「確か・・・かしま・・・加島礼子だったと思います。」

枡園の持つコーヒーカップが小刻みに揺れていた。


(それは可能です・・・確か・・加島礼子です。)枡園の頭の中を、先程の滝川医師の言葉が駆け巡っていた。

”もしかしたら、向坂かすみと秋葉 剛は、我々の常識を域を超えた方法で殺されたのかもしれない。”

滝川医師の話を聞いて、加島礼子をもう一度あたってみようと思うのであった。しかし、捜査本部は”自殺”ということで、解散している。

その時、枡園の携帯が鳴った。昔堅気の枡園も仕方なく、署で支給された携帯を持っていた。

「向井か?どうした・・恋人と喧嘩でもしたのか!?」 電話は、今日は非番の向井刑事からであった。

「枡園さん!大変なことが分かりました。もう少し、調べないことにははっきり言えませんが、あの二人は自殺ではないかも知れません。」

「何を言っているんだ、お前は今日デートだろう・・・。」

「いや途中で加島礼子を見付けて後を付けたんです・・・。とにかく、もう少し調べてみます。明日朝、署で報告しますから。」

「俺の方も、今日滝がわ・・・・・」 枡園が喋っている途中で携帯が切られた。

「せっかちな奴だなぁ。しかし、何がわかったのだろう・・・?!。」

枡園は呟き苦笑いをして携帯をポケットにしまった。

それが、枡園が聞いた向井の最期の声に成ろうとは、流石の老刑事にも分ろうはずもなかった。

携帯をポケットにしまった枡園は、ある建築現場へと足を向けていた。

そこには来栖健二を日雇いとして雇っていた現場監督で、田村という50半ばの、いかにもガサツそうな小柄の男が待っていた。

枡園は簡単に挨拶を済ませると、来栖健二について聞きたいことがあると告げた。

田村は「来栖ねぇ・・・あいつにはここのところ仕事を与えてないですよ。あいつは仕事もできる真面目なんだが、なんか気持ちが悪くてなぁ!」

枡園は手帳を開きながら「気持ちが悪いとはどういう意味なんでしょう?」

田村は枡園に手招きし、小さな仮設事務所へと案内した。

「本当は来栖もこの現場に入れるつもりだったんだが、あいつはねぇ、突然意味もなく切れやがるんですよ!俺のところへ来るようになった最初のころはそんなそぶりさえなかったんだけどな・・・・それさえなけりゃなぁ、とにかく今人手がたらねぇからな・・・○×公園の浮浪者暴行死事件、刑事さんも知ってるでしょう!やられた浮浪者ってのは俺のところで世話してた奴らですよ、ねぐらこそ持たない連中でしたが現場ではまじめで信頼できる連中でした・・・・」

枡園は「あの浮浪者たちがこちらで・・・・ということは、あの6人と来栖は顔なじみだったわけですね?」

田村は「いや、それはどうかな?現場に入れば誰と誰が・・・・てのはわからないですねぇ!道中のバスの中も、ろくに口を聞く者はいませんから。」

枡園はそこまで聞くと、たわいもない世間話に話題を移し10分ほどでその場を後にしたのだった。

建築現場を出ると枡園は、浮浪者暴行死事件の被害者6人のうち、今は四人が入院する国立病院へと向かった。意識不明だった6人のうち2人が死亡。後の四人は意識も戻り、ICUから一般病室に移っていた。

四人のうちの一人が面会に応じてくれた。

病院の受付で話を通し、ロビーで男を待つ枡園警部補・・・やがて車椅子に座った無精ひげの男が現れた。

枡園は立ち上がり、男に頭を下げ「また、当時の事を聞かせてもらいに伺いました。」と警察手帳を見せた。

無精ひげの男は「あんたが警察の人だってことはさっき看護婦さんから聞いた・・・意識が戻って、これで刑事さんに話すのは三度目だ。それより俺達をこんな目に合わせた奴はまだつかまってないんだろう?」

枡園はもみ上げを触りながら「そのことなんですが・・・あなたはその犯人のを知ってるんじゃないですか?」

無精ひげの男の眉がピクリと動いたように見えた。 「なんだと、あんたもか・・・犯人は見てねえよ!前に来た刑事さんにも話したとおりだよ、あの日公園でアベックを見つけたのさ、・・・きれいな姉ちゃんとあの公園でいちゃついてやがったから、ちょっとからかうつもりがついついやりすぎて奴はのびちまった! ”やばい”てんで逃げ出そうとしたところを後ろから・・・・でこのザマよ!!たぶん仲間が居やがったんだ。」

「では、貴方達が襲ったアベックは、この男女ですか?」

枡園は栗栖健二と向坂かすみの写真を見せた。

「何べんも言わせるんじゃねぇ、そうだと何回も言っているじゃねえか・・・!」

無精ひげの男はひきつった表情で大声を出した。

病院内が一瞬水を打ったかのように静まり帰り、枡園の言葉だけがロビーに響いた。

「・・・何を、怖がっているんだ・・・?!。」


二か月前の浮浪者暴行死事件とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


その日暮しの日雇い生活を続けている来栖健二は、昨日から仕事にありつけず公園のベンチに腰を下ろしていた。

そこに元カノの向坂かすみが紙袋を抱えてやって来た。

「こんなことだろうと思った!”はい”これ食べて!どうせ何も食べてないんでしょう?」と、紙袋の中から取り出したサンドイッチを差し出した。

来栖は申し訳なさそうに受け取るとかじりついた。

「俺が、怖いんだろう・・・?!。」

かすみはお茶のペットボトルのキャップを開けながら「私、貴方が分からない。今日これから病院に行くの」

その言葉に来栖は「病院・・・?」かすみの顔を見て周囲の異変に気づいた!

かすみの目線は自分ではなく、公園の隅に向いていた。

公衆トイレの裏からガサガサと枯れ葉を踏み鳴らし6人の浮浪者らしき男たちが現れたのだ。

「な・・何か・・?」来栖が 言った。

「見せつけてくれるねぇ。」と、浮浪者の一人が言って、かすみをジロリと睨んだ。

「逃げるんだ・・!」来栖は、かすみの手を取って走った。

しかし、浮浪者たちの動きの方が少し早かった。

来栖とかすみは、6人の男たちに囲まれてしまった。

「逃がさないぜ!」 浮浪者のうちの一人が凄んだ。

来栖は覚悟をきめ、かすみに「俺が何とかしている間に隙を見て逃げろ」とささやいた。

来栖は奇声をあげ、6人の男たちに向かって行った。

かすみは、来栖が浮浪者達に一方的にやられているのを茫然と見ていた。

「に・・逃げろ・・・かす・・み・・・。」

かすみは、我に返ると一目散に走り出した。

しかし、すぐに浮浪者達に取り押さえられてしまった。かすみは来栖に助けを求めた。

来栖は、二人の男たちに無抵抗で殴られている。その男たちも、気を失った来栖を地面に叩きつけ、かすみの方にやってくる。

”もう駄目だ ”かすみは観念した。と、その時。

「その、女から離れてください。」 まるで、その場に相応ふさわしくない口調だった。

浮浪者達は、その声のほうに振り向いた。来栖が倒れているだけだ。

「汚い手で触らないでください。」倒れていた来栖が、上半身を起こしながら言った。

「その女は、私の獲物です・・・。」


それから一般市民の通報で警察官が駆け付けた時には、6人の浮浪者らしき男たちが半死半生で倒れているだけで、襲われていた男女の姿は見当たらなかった。

6人全員が意識不明の状態であったが、そのうち二人が死亡。4人は意識も戻り、現在に至っている。

尚、4人とも犯人については、”知らない”のいってん張りである。



      第一章  誘導自己暗示


                  (終)



























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