俺達は『ひだまり』に場所を移してジンコに説明の続きをした…ジンコは死霊の餌食になりつつあった。
テーブルに深々と突き刺さったバトルアクスを見て嘆きの声を上げる俺をよそに四郎と真鈴は壁に飛び散ったりテーブルに流れた四郎の血を掃除し始めた。
「やれやれ、ジンコさん、ちょっと待っていてくださいね。」
「ごめんねジンコ、顔大丈夫?
後でシャワー浴びて着替えて。
ちょっと掃除するから待っててね。
このニンジン、血がついちゃったけど大丈夫かな?」
「われは洗えば大丈夫だと思うぞ。」
そんな真鈴と四郎のやり取りを聞きながら、ジンコは今目の前で起きた出来事を必死に頭の中で整理しようとしているように黙って頷いた。
そして、鼻血が出る方と別の穴を指で押さえながら、手鼻を噛むように息を吹いて鼻の穴の血を広げたティッシュの上に吹き出した。
「ごめんねジンコ。
思い切り強くビンタしろと言うから…あんなに派手に吹き飛ぶと思わなかったんだ。
あ!大変!はなちゃんにもすごく血がついてる!
彩斗、泣いてる暇ないよ!
はなちゃんを着替えさせるからクマのぬいぐるみを脱がせて!」
「あ、うん、判った。」
あのテーブルの傷はあとでパテで奇麗に埋めよう。
俺は気を取り直して、はなちゃんのクマのぬいぐるみの中の綿を血で汚れないようにテーブルに端に置きながら、クマのぬいぐるみを脱がせた。
裸になったはなちゃんの体を目の前にして、気を取り直したジンコがちょっと良いですか?と言いながらはなちゃんを手に取って調べ始めた。
「ウキャキャキャキャ!
ジンコとやら、くすぐったいじゃの!」
はなちゃんがくすぐったがって手足をじたばたさせた。
「はなちゃん、ジンコが調べたいようだから少し我慢して。
今着替えを持ってくるからね。」
「ジンコとやらの疑いを晴らすためじゃの。
仕方ないじゃの。」
真鈴が壁の血を拭き終わり、血で汚れたはなちゃんのぬいぐるみを洗濯に持って行き、着替えを持って戻って来た。
「ジンコ、もう良いかしら?
はなちゃんにはなんの細工もしていないわよ。」
「…、確かに…ごく普通のビクスドールね…髪の中まで見たけど何も仕込まれていない…でも…動くし話すのね…」
ジンコがはなちゃんを真鈴に差し出しはなちゃんを受け取った真鈴ははなちゃんに本来のエレガントな服を着せた。
「これで良しっと、あ、ジンコの服にも血がついてる!
洗濯するから脱いで!」
ジンコはまだショックを受けて判断能力が落ちているのかいきなり着ているシャツを両手でめくり上げた。
ジンコのブブブブラジャーが丸見えになった。
「きゃああ!ジンコ!
あっち!あっちで着替えようね!」
「ああ、そうか、ごめんなさい。」
真鈴が少し呆然としているジンコを真鈴の部屋に連れて行った。
色白の体に、エロチックなブラと不似合いなイチゴ柄…俺の方が鼻血が出そうになってしまった。
あれは…真鈴とお揃いで買ったのか…。
テーブルを拭き終わった四郎が腰を下ろしてラッキーストライクを取り出してルージュスコルピオのジッポーライターで火を点けた.
「やれやれ、これでわれの左腕に2本の線がついたぞ。
この跡は暫く消えないかもな。」
四郎の腕には明石に斬られた細い線がうっすらと残る横に一廻り太い赤い線が付いていた。
「しかし。ジンコさんは偉い別嬪さんだな。
そしてあの可愛らしいが非常に色っぽいブラジャーだ。
彩斗、お前鼻血出なかったか?」
「…うん、ちょっと出そうになった…。」
「やれやれ、しかしジンコさんには彼氏がいるものな。
彩斗、変な気は起こすなよ。」
そう、あんなに物事を理性的に考え、多少の事では動じない彼女、そして凄い美人の彼女なのに足がとんでもなく臭い彼氏がいるのだ。
きっと彼氏はもう彼女でもう10回野郎はもうとっくに突破しているだろう。
もうもうもう…なんて格差に満ち溢れた世の中であろうか…。
服を着替え、顔と髪の血を洗い落としたジンコが真鈴とダイニングに戻って来た。
「おまたせ。
後ジンコはあの『ひだまり』に行きたいんだって。
これから行こうよ。」
「そうだな、買い込んだ食材は死霊屋敷に行った時に料理すれば良いから夕食も『ひだまり』でとるとするか。」
俺はじんこの短めのスカートをちらりと見た。
『ひだまり』の死霊の事が頭によぎったのだ。
「あの、ジンコさん。
そのスカ-ト…」
四郎が俺の脇を肘でつついて咳払いをした。
「なんですか吉岡さん?」
「あ、いや、彩斗は心配症でな、ジンコさんのスカートにわれの血が付いていないか心配しておるのだ。」
「あら、彩斗さん、心配してくれてありがとう。」
四郎は言うと、ジンコはここに来て初めて素敵な笑顔を浮かべた。
やはり美人の笑顔はとてつもない破壊力がある。
「そ、そうなんです!
見たところ血で汚れていないようですね!
じゃあ、『ひだまり』に行きますか。
あそこは料理も旨いしデザートもとても美味しいんですよ。」
真鈴とジンコが玄関に向かい、俺とはなちゃんを抱いた四郎が後に続いた。
「彩斗、お前見えるようになってから『ひだまり』に言ったんだよな。
加奈の足元に巣くっている奴らを見たんだろうが、どうやらジンコは死霊は見えないらしいから心配するな。」
「そうじゃの。
それに夕方から夜にかけてならあいつらも別のどこかに行ってるかも知れんじゃの。」
四郎とはなちゃんが小声で俺に言った。
「そうだね、そうかもね。
まぁ、ジンコは見えないし大丈夫かな?」
俺達がランドクルーザーで『ひだまり』に向かう途中で、明石との出会いについてジンコに話した。
初めはここ数日のうちに人を殺した悪鬼で討伐の対象として見ていた明石を四郎がカラスやコウモリに変化して偵察しているうちに…
「ちょっと待ってください!
いくら何でも四郎さんがコウモリやカラスに変化できるなんて!
それは物理学的に全く不可能な事でしょ!
大体、質量だって体の大きさが変化する時の体温の変化だって…。」
「やれやれ、ジンコさんも彩斗や真鈴が初めにしたような反応をする物だな。
科学的かどうかはわれは知らん。
マンションに帰ったら見せてあげよう。
ところでどこまで話したかな?」
「あのう、非情な殺人をした悪鬼の明石さんが実は、と言う所までです。」
「おお、そうだったな、もうそろそろ『ひだまり』だそこに着いてから話そう。」
ランドクルーザーは『ひだまり』の駐車場に着いた。
明石と共同で解決したあの子供の大量殺人をした外道の件を話すかどうかで俺達は少し悩んでいたが、やはり隠し事をしていると後で厄介な事になると言う事でジンコには全て包み隠さず話すという事に決めていた。
明石は忙しくて『ひだまり』に来れないが、喜朗おじと加奈には事情を話しておくから協力してくれるとの事だった。
俺が先頭に店に入ると加奈の元気な声が聞こえて来た。
「いらっしゃいませ~!
あら、彩斗達来たのね!
奥の個室にどうぞ!」
俺は加奈の足元を見て息を呑んだ。
俺だけでは無く、四郎も、そしてはなちゃんも驚いていたはずだ。
「なんと…これは…」
「おぞましいのう…」
この前来た時は7~8人程度の死霊が加奈の足元にたむろして加奈のスカートを覗いていたが、今は優に10人を超える、いや、15~16人の死霊が加奈の足元に四つん這いに這いつくばりスカートの中を覗き、中には顔を近づけて加奈の臭いをかぐものや遠慮がちに加奈の足に触るものがいて、この前よりも数倍おぞましい光景だった。
「どうしたの彩斗達、早く入ろうよ。」
全く死霊が見えない真鈴に促されて俺達は奥の個室に向かった。
ジンコは物珍しそうに店内を見ている。
彼女にも死霊が見えないようで俺は安心していたのもつかの間、俺は恐ろしい物を目撃してしまった。
加奈の足元にたむろしていた死霊達の何人かが真鈴とジンコに気が付いてかさこそとゴキブリのように床を這いつくばって真鈴とジンコの足元に寄って来た。
俺は思わず足をとめてゴキブリスケベ死霊を手で払おうとした。
「あら、彩斗何かあった?」
加奈が不思議そうな顔で尋ねた。
「いや、ちょっと埃が舞っててね。」
「え~!加奈、こまめに掃除してるんだけどね!
ショックだよ~!
ごめんね~!」
「いやいや、ほんのちょっとだから大丈夫だよ。」
俺達は個室に入り席に着き、夕食の注文をした。
おすすめはハンバーグやグラタン、オムライス、様々なパスタなどの中からそれぞれが頼んだ。
四郎がハンバーグとエビグラタン、そしてペペロンチーノパスタと、さらに悩んだ末にオムライスも頼んでジンコを驚かせた。
「なに、先ほど腕を斬ったからな、栄養を付けなければ。」
そして、俺達はジンコを加奈に紹介した。
「ふわぁ~!美人さんですぅ~!
凛とした美人さんですぅ~!
ただの美人さんと言うよりも、知的でかっこ良い感じの人ですね!
クールビューティーと言う感じの人ですね!
私、凄い憧れちゃいますぅ~!
私、加奈って言いますぅ!
よろしくお願いしますぅ!」
真鈴が紹介された時よりも数行多い誉め言葉を言った加奈が顔を赤くしながら両手でジンコの手を握って挨拶した。
ジンコもなぜか顔を真っ赤にして加奈の手を両手で握ってよろしくお願いしますと小声で言った。
俺はそんなやり取りよりも加奈や真鈴に興味を失った死霊達がジンコの足元に群がり、もはや床も椅子も見えないほどにジンコに群がって小山のようになっているのを見ていた。
四郎もはなちゃんもその有様を見て固まっていたと思う。
スケベ死霊達が離れてすっかり身軽になった感じの加奈が個室を出て行き、しばらく顔を赤らめて加奈の後ろ姿を見ていた、下半身がスケベ死霊の群れで埋まっているシュール極まりない姿のジンコが俺達に顔を向けて話の続きを聞き始めた。
俺達は明石のマンションに乗り込んでとても強くて狂暴な明石との遭遇、その時にも四郎が腕を切り落とされた事や…そしてあのいたいけな子供をさらって来て大量惨殺した外道の件が発覚して明石と話し合い、共同で解決する事を決めたところまで話すとジンコはとても驚いて飲んでいた水を吹いてしまった。
テーブルにこぼれたジンコが吹いた水に死霊達が群がり顔を擦り付けたり舐めたりするのを完全に無視してジンコが目を見開いて俺達を見た。
おそらく、ジンコがやって来て驚いた反応を見せたのはこの件についてだった。
続く




