四郎は体を張ってジンコに自分が悪鬼である事を証明する…だからそういう時はまな板とか置いてさぁ。
玄関で小声で挨拶を交わした俺達はややぎこちない感じでジンコをダイニングに案内した。
はなちゃんを抱いた俺と四郎が並んで座り、その対面にジンコと真鈴が並んで座った。
俺の正面に座ったジンコを見て、この清楚な感じなのに意志が強そうな美人さんが真鈴とブブブラとパパパンティー姿であられもないポーズを取りながら写真を撮ったなんて…あんなに足が臭い男と付き合っているなんて…そしてまだ高校生の時に一人で証拠集めしてやくざ組織の壊滅に貢献したなんて…そう思いながら俺は流れるようなストレートな黒髪、色白の肌、やや和風で整った上品な顔立ち…四郎が復活してから一番美しい女性を目の前にして俺は見入ってしまった。
真鈴は俺が気を利かせて淹れておいたコーヒーを皆のカップに注いで椅子に戻った。
「ほら皆、ちゃんと自己紹介しなよ。
彩斗、何顔を赤くしてるのよ!
あんたからしっかり自己紹介しなさいよ。」
「え、ああ、ごめん。
初めまして、僕は吉岡彩斗と言います…」
俺が時々口ごもりながら元々はブラック企業で社畜をしていたが、宝くじを当てて退社して現在収益物件経営をしている事を話した。
ジンコは時々相槌を打ちながらも俺の顔や仕草をじっと見ながら、俺の自己紹介を聞いていた。
次に四郎がジンコに自己紹介した。
「ジンコさん、初めまして。
われはマイケル・四郎衛門と申すものだが今は仔細あって北斗拳四郎と言う名になっておる。
彩斗達仲間からは四郎と呼ばれている。」
四郎が頭を下げると俺の膝の上のはなちゃんが手を上げた。
「ジンコとやら、わらわは…」
「あ!はなちゃん彼女がびっくりするから…」
慌ててはなちゃんの口を塞ごうとした俺をジンコは手で制した。
「吉岡さん構いません。
ここに来る途中で真鈴から大体の説明を聞いています。
とにかく私はあなた方の言い分を全て口を挟まず否定せずに全部お伺いしてから色々と考えて、検証しながらあなた達の事を信じるか信じないか、これからどうすべきなのか結論を出す事にしました。
どうぞはなちゃん、自己紹介を続けてください。」
そう言ってジンコはコーヒーを一口飲んだが、さりげなく真鈴とコーヒーカップをすり替えて飲んだのを俺は見逃さなかった。
…なんて女だ、状況次第では周り全て敵になるかもと言う状況に一人乗り込んでこの落ち着き払った態度、そしてさりげなく用心もしている。
俺も四郎も初めて見るジンコの冷静で落ち着いた態度に感心した声を上げた。
「きゃはは!肝が据わったおなごじゃな!
気に入ったじゃの!
そう、わらわははな、藤原はなと言う名前じゃの、わらわは今から1026年間に…」
はなちゃんは俺達に語った今までの生涯を全てジンコに語った。
ジンコは口を挟まずじっとはなちゃんの言葉を聞いていた。
そしてはなちゃんの長い自己紹介が終わるとジンコはおもむろに口を開いた。
「なるほど、皆さんの自己紹介をお伺いしました。
名乗るのが遅れてすみません。
私の名前は神古麗羅と申します。
本名で呼ばれるのに慣れていませんから、どうぞジンコとお呼びください。」
「はい、判りました。」
「ありがとうございます。
今日わたしは親友の真鈴が、何かいかがわしい組織の仲間に入って悪事を働いているのではないかと疑問を持ち、こちらに来ました。
私はその事の真偽を確かめ、真鈴が悪の道に落ちていないかを検証させていただきます。
その為に少し証拠を必要としています。
まず、吉岡彩斗さん、あなたの身分証明書と会社の登記簿を拝見させていただきますが宜しいでしょうか?
検証が済み、あなた方の潔白が晴れた時はあなた方の目の前で証拠を破棄しますので。
ご心配なく。」
「…あ、はい、今持って来ます。」
はぁ、しっかりした女性だなと思いながら俺は運転免許証と会社の登記簿の写しを持って来た。
ジンコはそれを写メに撮った。
「今撮った写真は私の自宅のパソコンに送信しています。
私に何かがあった時、警察の捜査で当然私のパソコンが調べられると思いますよ。
もしもあなた方が私を亡き者にしようとする事は非常に危険なリスクを伴う事をご承知置きください。
言って置きますが、送信先のパソコンの在りかは真鈴でも判らない所に置いてあります。」
「ああ…はい、判りました…変な考えは持っていませんから、ご心配なく…。」
犯しがたい威厳を伴ったジンコの落ち着き払った言葉に俺達はたじたじとなった。
それにしても何て用心深い女性なんだ。
これでは容易に始末は出来ない。
かなりの美人だし上品だし、そんな完璧な女性がなんであんな足が臭い男と…
そして俺達は宝くじを当てて四郎入りの棺を手に入れてメルカリやアマゾンやその他怪しいネット販売を駆使して吸血鬼復活の儀式に必要な物を手に入れてと、四郎を復活させてから真鈴の発案で質の悪い悪鬼と人間の討伐を始める所まで説明した。
ジンコはじっと口を挟まず落ち着いた表情で、しかし、スマホで音声を録音しながら俺達の話をじっと聞いていた。
ジンコの事だからその音声も当然どこかのパソコンに送っているのだろう。
それは、ちょっと本当なの~!とか、嘘そんな話信じられない~!とか色々と言われるよりもずっと不気味だった。
「なるほど、質の悪い悪鬼退治にあなた方が乗り出すところまでは判ったし、真鈴の性格からしたら当然そういう事を言い出すだろうと言う事は親友である私に理解できます。
もしも私が真鈴の立場であったら当然のごとくあなた達に同じ提案をした事でしょう。
今までお伺いしたお話の中で矛盾に感じる部分は有りません。
そしてあなた方のお話した内容は私の生涯の中でも非常に興味深い内容です。」
そう言ってジンコはコーヒーを一口飲んだ。
非常に厳しい検察官の調べを受けているように緊張していた俺達はすこし緊張が緩んでほっとしながらコーヒーを飲んだ。
「あのう、ジンコさん、ちょっとタバコなど吸っても良いかな?」
四郎が尋ねるとジンコはバッグから加熱式たばこを取り出した。
「ああ、私もほんの時々吸いますから構いませんが、ちょっとだけ他人の煙が苦手なので換気扇を付けていただけばよろしいと思います。」
俺はほっとしてキッチンとダイニングの換気扇を付け、煙がジンコの方に漂わないように煙草を吸った。
「ただ一つ非常に重大な大前提に疑問があります。
この事実が真実である事を証明できなければあなた方のお話は虚構のおとぎ話になると言う事です。
それは…」
今の緩んだ空気を再び北極並みに凍り付かせることをジンコが言った。
俺達は緊張してつばを飲み込んだ。
「…ええと…それとは?…。」
「それは…四郎さん、マイケル・四郎衛門であり北斗拳四郎で有るあなたが本当の悪鬼、吸血鬼で160年間棺の中で眠り続け復活したと言う重大な証拠をまだ私に見せていない事です!
その事が証明されない限り、わたしはあなた方の言葉を信じるわけには行きませんよ!」
…だぁああああ!そうだよねそうだよね!
確かにその通りだよね!
四郎!見せてやれ!
今こそ四郎の悪鬼顔を見せる時だぞ!
「言って置きますが四郎さんの顔が瞬時に悪鬼に変化したとしても私は驚きませんよ。
今のテクノロジーではひょっとして高度なプロジェクター技術などで私の目を幻惑させることも可能なのかも知れませんから。」
「えええ!それじゃあ!
どうやって証明すれば良いの?!ジンコ!」
四郎が立ちあがった。
「うむ、われは理解したぞ聡明なお嬢さん。
ちょっと待っておれ。」
そう言うと四郎は寝室に行き、バトルアクスを持って戻って来た。
バトルアクスをテーブルの上にごとりと置いた四郎はキッチンからニンジンをもってその横に置いた。
「さて、ジンコさんの疑いを晴らす為に多少の痛みが伴うが仕方ないな。
きみはわれの、人間では及びもつかない再生能力を見れば納得すると思うのだが。」
ジンコは目の前に置かれたごつい残忍な刃を持つバトルアクスとニンジンを目の前にしても眉一つ動かさずにコーヒーを飲み、加熱式たばこを一息吸った。
「そうですね、その物凄い再生能力を見せていただけば多少私の疑いも晴れると思います。」
「よし、まずこのバトルアクスが本物だと言う事を見せよう。
真鈴、まずのそのニンジンを斬れ。」
「うん。」
真鈴がバトルアクスを手に取り、ニンジンに振り下ろし真っ二つにした。
「良いジンコ?
このバトルアクスは間違い無く本物よ。」
「真鈴、私も切って見て良い?」
真鈴はジンコにバトルアクスを渡し、ジンコが再びニンジンにバトルアクスを振り下ろし真っ二つに切断した。
そしてジンコはバトルアクスの刃を見たり、ニンジンの切り口を見たりしていた。
俺はそのやり取りを横で見ながら、買ったばかりの2代目のテーブルに少しバトルアクスの刃の傷がついているのを悲しい思いになっていた。
「確かのこのバトルアクスは本物ですね。
確認しました、間違いありません。
で、どうするのですか?」
ジンコが落ち着き払って言った途端に四郎が袖をめくり上げた左腕をテーブルに乗せた。
「ならばわれが正真正銘の悪鬼である事を今から証明しよう。
真鈴、われの左腕を切り落とせ!
直ぐつながるから構わん!」
「判った!四郎!行くよ!」
真鈴がバトルアクスを振り上げた。
「あ!ちょっと待って!まな板を!」
俺が叫んだ途端に真鈴がバトルアクスを振り下ろし、血しぶきと共に四郎の腕が切断されて四郎が悪鬼顔になり『うがぁあああ!痛ってぇええ!』と叫び声を上げた。
コーヒーカップを手に持ったまま見ていたジンコの顔と服に四郎の血しぶきが降りかかった。
ジンコは固まった。
「どうだ!ジンコさん、今からこの腕を繋げて再生するぞ!」
四郎が苦し気に叫んだ。
「…真鈴!
私をビンタして!」
「え?ジンコ何を…」
「いいからビンタしなさい!思い切りビンタしなさいよ!
あなた親友でしょ!」
「ごめんねジンコ!
ぬえええい!」
真鈴が思い切りジンコの頬にビンタをした。
「うぎゃあああ!」
ジンコの顔が物凄い音を立てて鼻血を振りまきながら倒れてテーブルに向こうに姿を消した。
俺はあまりの展開に固まっていた。
数瞬間後、テーブルにジンコの指がわなわなと痙攣しながら出て来てテーブルに絡みついて、まるで貞子がテレビから這い出てくるように顔を出した。
真鈴が叩いた顔が赤く腫れあがり、夥しい鼻血を流し、髪を振り乱したジンコの顔が現れて、わなわな震える手で切断された四郎の腕を掴み、その断面をまじまじと見た。
「ジンコさん、そろそろ腕を返してくれるかな?
早くしないと切断面が再生し始めてしまうのでな…」
四郎が苦し気にジンコに言い、ジンコは震える手で四郎に左腕を差し出した。
四郎が腕を受け取り左の切断面に当てた。
傷の再生が始まり、傷が徐々に塞がり始めた。
ジンコは椅子に座り直してじっとその有様を見ていた。
やがて四郎の顔は人間に戻り、左腕の指が動かせるほどまでに回復してきた。
ジンコはそれをじっと見、そしてテーブルの血しぶきを見、テーブルに深々と食い込んだバトルアクスの刃を見、壁に飛び散った四郎の血の跡を見てから、ティシュで顔の血を拭い、震える手でコーヒーを一口飲んで加熱式たばこを思い切り吸った。
「どうかな?ジンコさん?
われが悪鬼と信じてくれたかな?」
「ジンコ!ごめんね!
思い切り叩けって言うから!
最近訓練してるから力が強くなったかも!」
「だからこういう時にテーブルにまな板置くの常識だろ!
君達!物を粗末にし過ぎなんだよ!
どうするんだよこの傷!
テーブルは四郎と違って再生しないんだよ!
あああああ~!」
続く




