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21話 二人のお嬢様


目の前にいる紅の獣──もとい、紅髪のお嬢様は右手を腰に当て、爛々と目を輝かせている。

黒いタイトなパンツスタイルにロングブーツ、上も黒いジャケット、貴族というだけあってピシッと決まった服装ではあるが、本人が発してるオーラのせいで、いかにもこれから喧嘩をしに行きますみたいな格好だ。

なんて物騒なお嬢様だ。

年は俺と変わらないくらいか、ちょっと上辺りだろう。


それにしてもアンブレイカブル・プリンセスか。

直訳すれば、壊れないお姫様だ。

単純に防御力が異常に高いのか?

それとも結界系の魔術が得意?


いや、結界系はないな。

もう見るからに脳筋タイプだ。

クソ・・・冒険者登録も無事終わって、いざ観光!って矢先にこれかよ。

しかも相手はぶっ飛んだお貴族様。

師匠の言葉が脳裏に浮かぶ。



---貴族と関わる時は細心の注意を払いなさい。できれば関わらない方が吉だけどね。もし、関わってしまった場合、相手の要求とこちらが出来る事を天秤にかけて考えるのよ---



今回の相手の要求はなんだっけか。

私の足を舐めなさいだっけか?

それなら勿論返事はこうだ。


・・・ワン!


ちょっと、いやかなり、いやいや物凄い気が強そうで危険な香りがするお嬢様だが美人だ。

靴でも足でも喜んで舐めさせて頂こう。

だが、なんか違った気がする。

そうだ。

私に膝を付かせてみなさい、とかなんとか言っていた。

危ない危ない、男のサガで記憶が改ざんされるところだった。

という事は、こちらから攻撃をしろ、もしくは立ち会えという事だ。

なんてクレイジーなお嬢様だ。

思わず尿が漏れそうになるぜ・・・。


そして、当のお嬢様の目線の先はルシェだ。

狙いはルシェか?


「本当はそっちの子供に興味があるんだけど、あんたでいいわ。かかってきなさい」


不服そうな顔で俺に視線を向けるお嬢様。

そっちの子供がいいって、ルシェの強さを見抜いてるのか?


「子供じゃないもん!だってあたしは冒険者だからね!」


そういってミスリルプレートの冒険者カードを取り出し、ドヤ顔で見せつけるルシェ。


「ちょ!!ルシェ!!」


「へぇ。子供だと思ったけど、あんた冒険者なんだ。ってことはそっちもそうね」


お嬢様の雰囲気がガラリと変わった。

遠慮はいらないわね、と言わんばかりに。


「たまに見た目と年齢がかみ合わない種族がいるけど、あんたもそう?まぁ、どうでもいいわ。そこの小さいの、本気で打ち込んできなさい!」


まずい、標的が完全にルシェになってしまった。

ルシェは師匠から預かってる師匠にとっては娘ともいえる家族だ。

危険に晒すわけにはいかない。


「待ってくれ!ルシェは冒険者見習いでまだ9歳なんだ!」


俺が必死に訴えるとルシェが声を上げた。


「トーワ!」


そしてルシェは真っすぐ俺を見て言い放った。


「あたし負けないよ」


なぜだ・・・。

なぜなんだ・・・。

この世界の女子は、なぜこんなにも喧嘩っ早いのか・・・。

本当に頭を抱えたくなる。

なんなの本当。


「すいません、俺達は本当に争いごとをする気はないんです。冒険者といっても今日なったばかりの新人でして・・・」


「ねぇ、あんた。勘違いしてるようだけど、こっちから手は出さないわよ。私に打ち込んで膝を付かせてみないと言ってるの」


「え?」


「は?聞こえなかったの?」


お嬢様のイライラボルテージが一段階上がった気がした。

きっとこのお嬢様は気が短い。

あーでもない、こーでもないと言ってたら「うるさい!」と殴りかかってくるに違いない。


「えっと、そちらから手は出さないと?」


「だからそう言ってるでしょ!」


あ、まずい。

ぷっつん寸前だ。

よーしよし。

オーケー分かった。


ルシェ殴る、お嬢様膝付く、金貨袋返ってくる、俺達解放。


そういう事だね?

そうだよね?

俺は後ろにいるメイドさんに確認するように目配せをした。

前で両手を合わせ、優雅にお辞儀をするメイドさん。

機は熟した。

ふぅ・・・。

俺は大きく息を吸い込んで言い放った。



「ルシェリィさん!やっておしまい!!」


「うん!!」


元気のいい返事の後、構えをとったルシェの体が白く発光、龍魔による身体強化だ。

言質は取ってある。

遠慮は必要ない。

お嬢様にはちょっと痛い目を見てもらうくらいがちょうどいいだろう。


「ルシェ、手加減はしなくていいよ」


「わかった!」


「殺す気できなさい!!」


ルシェが地面を蹴った瞬間、ドン!という衝撃と共に舗装された石畳が弾け飛び、辺りには衝撃波が走った。



---ドゴン!!!---



それは、もはや人を殴った音ではなかった。

大質量の塊同士が衝突したような衝撃、そんな音が響き、ルシェの拳はお嬢様の腹部に突き刺さっていた。


そして膝がわずかに崩れた・・・瞬間、彼女の体から赤いオーラが発せられた。

いや違う!膝が崩れたんじゃない!

あれは、「溜め」だ!

それにあの赤い魔力は・・・!



---龍魔だ---



「ルシェ!!ガード!!」


お嬢様の口元が嬉しそうに吊り上がる。

とっさに腕をクロスさせたルシェだが、ガードの上から殴られ、きりもみしながら吹っ飛び、建物の壁を破壊し、中へと消えていった。


「ルシェ!おい!話が違うじゃないか!!」


俺は咄嗟にそう叫び、すぐにルシェを追いかけようとした。


「ま、待ちなさい!」


背中からそう声を掛けられ、ふり返ってみると、そこには少しばつの悪そうな顔をしたお嬢様がいた。


「わ、悪かったわ。その・・・ちょっと嬉しくなって手が出てしまっただけよ!許しなさい!」


両腕を組み、まるで相手に説教でもするかのような態度。


「そ、それに、殴ったのはガードの上からよ。あの子供なら大丈夫よ!そんなヤワな子供じゃないわ!」


俺は目の前のお嬢様を睨みつけた。

話が違う。

反撃はしないと言ったはずだ。

貴族と関わると碌なことがないっていうのはこういう事か。


「な、なによ・・・。悪かったわよ・・・」


きっと本当に悪いと思ってるんだろう。

ただ、こちらからすればそんなことは知ったことではない。

手は出さないという約束があったから、こんな茶番に付き合ったんだ。


「そっちは手を出さないという約束だったはずだ」


「・・・・」


口を尖らせて目をそらすお嬢様。

まずい、ちょっとキレそうだ。

と、その時、崩れた壁の奥から声が聞こえた。


「ト~~ワ~~!!」


瓦礫をぴょんぴょんと飛び越え、砂埃の奥から何事もなかったかのように戻ってきた。


「ルシェ!」


そしてルシェの肩には、ロープでグルグル巻きにされた女の子が担がれていた。


「ルシェ?」


俺の元まで戻ってきたルシェは、担いでいた女の子を下ろし、ケロッとした顔で言った。


「ただいま!」


そして、簀巻きにされた女の子はというと・・・。


「ん--!!ん----!!」


どうやら猿轡をされている為、喋れないようだ。


「えっと・・・ルシェ?」


「なんか悪い人に捕まってたから持ってきた!」


ちょっと待ってほしい。

情報過多で頭がパンクしそうだ。


ルシェ殴る、お嬢様殴り返す、ルシェ吹っ飛ぶ、俺怒る、ルシェ謎の少女を持って帰ってくる。


うん、意味分からん!

と、とりあえず、女の子の猿轡を外さないと!


「ぷはぁ!!もうダメかと思いましたわ!!」


「え~っと・・・君は・・・?」


「はっ!わたくしとした事が!申し遅れました。わたしくし、メルリス商会エルヴィス・メルリスが娘、メメス・メルリスと申します。このような格好での自己紹介になってしまい申し訳ありませんわ」


メメスは縄でグルグル巻きの簀巻き状態となっている為、正に地面に這いつくばっている芋虫状態だ。


「できれば縄を解いて頂くと嬉しいですわ!」


金髪ツインテール、そしてフリフリでゴスロリ風な薄ピンクの衣装を身に纏っている商会のお嬢様は、今の今まで誘拐されていた子供とは思えないほど堂々とした口調でそう言った。

縄を解いてやると、メメスはルシェに向き直り、優雅な礼をした。


「この度は危ない所を助けて頂き、誠にありがとうございます。わたしくはメメス・メルリス。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「ルシェリィ!9歳!冒険者だよ!」


「まぁ!冒険者は10歳から登録可能と聞き及んでおりましたが、ルシェリィ様は9歳で冒険者なのですね!それにしてとても綺麗な銀髪ですわね!強くして美しいなんて、ルシェリィ様はわたくしの救世主ですわ!」


「えへへ!そお?」


二人がそんなやり取りをしてると、崩れた建物の壁の奥から怒号が聞こえてきた。


「ガキが逃げたぞ!!追え!!」


「絶対に逃がすな!!」


「どっちへ行った!?」


ワラワラと瓦礫の奥から出てくるガラの悪そうな男達。

まずいな、人数が多い。

ざっと30人くらいだろうか。

さて・・・どうしたものか・・・。

ここは三十六計逃げるに如かず、とっとと退散しますか・・・って、あれ?そういえば金貨袋返して貰ってないな・・・。

そんな事を考えていると、赤い獣、もといエリカがずいっと前に出た。


「ここは任せなさい!あとこれ」


ポーンと綺麗な弧を描いて金貨袋が俺の手元に戻ってきた。

ふぅ、とりあえずスリに関しては一件落着だ。

ぶっ飛んだお貴族お嬢様の戯れとして、これ以上この件をつつくのはやめておこう。

藪蛇になったら面倒な事になりそうだしな。


「マリアン!衛兵を呼んできなさい!それまでに片づけておくわ!」


「かしこまりました。お嬢様」


そういうとメイドのマリアンはその場からシュッと姿を消した。

魔術を使った形跡はない。

高速移動か?

やっぱりあのメイドもただ者じゃないな。


「お?女が3人。あとはヒョロそうな男が一人か。どうなるかと思ったが、これはラッキーかもしれねぇな」


ガタイの良い一人の男が俺たちを見てニヤついている。

馬鹿野郎が。

お前の目の前にいるのは、戦闘狂でぶっ飛んだお貴族様と白龍だぞ?

きっとお前なんか、某世紀末漫画よろしく、指先1つでボン!だ。


なんて考えてたら、男はもう地面にめり込んでいた。

指先1つなんて甘いもんじゃなかったみたいです。

普通にぶちのめされてました。

さすがエリカ様、容赦ないだろうなとは思っていたけど、本当に容赦の欠片もなかったみたいです。


「さて、あらかた片付いたわね」


パンパンと手を払い、まるで羽虫でも振り払うように30人近くの屈強な男共を一瞬で鎮圧。

こうして、人攫いグループは駆け付けた衛兵達に連行されていった。

読んで頂きありがとうございます。




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