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挿話 緋天の獣

エリカのちょっとした過去編です。


ディリジェント家。

シャルマ王国の四大公爵家であり、先読み、予言をギフトを神から授けられ、王国の未来を占う歴史ある貴族。

王家の血とギフトの能力を代々引き継いでいる名家である。



「奥様、またあの子を見てるのですか?」


「えぇ」


長いホワイトゴールドの髪を指先でクルクルと丸めながら、どこか楽しそうに水晶玉を見つめる奥様は、面白そうに頷いた。


「何でも力で解決するような野蛮な娘、どうしてそのような野猿に興味を持たれるのか・・・。」


メイド服を纏った女がそう尋ねる。


「ねぇ、マリアン。時には力が人を救う。力が未来を切り開く。力が弱きを救う。これは紛れもない事実よ」


「ディリジェント家の人間がいう言葉ではないと思いますが、奥様がそう仰るのであればそうなんでしょう」


「ふふふ。まぁ、もう少し眺めていましょう」




「おらぁ!!!」


シャルマ王国、王都番外区のスラム街、そこで3人の少年たちが一人の少女に石を投げていた。


「よっしゃ!命中!」


1人の少年が投げた石は、気の弱そうな少女の右肩に命中し、少女が持っていた風呂敷包みが地面に落ちた。


「次は顔な!顔に当てた奴が100点!おやつの干し芋奢りだぜ!」


少女は身を丸め、ブルブルと震えている。


「や、やめ・・・やめてください・・・」


必死に絞り出した声はか細く、少年たちに聞こえるはずもない。


「次は俺!俺がやってやるよ!」


少年達は容赦なく少女に石を投げ続けた。

目的は少女が持っている荷物だ。

スラムでの生活は人々が思ってる以上に厳しいもので、弱いものは淘汰され、奪われる。


借金で首が回らなくなった者、犯罪者、逃亡奴隷、マフィア、そして親から捨てられたストリートチルドレン。

割れてボロボロになった石畳の隙間には黒い泥水が溜まり、誰が落としたのか分からないガラス片が月明かりを鈍く反射していた。

ただ生きる為に必死な者が、奪い奪われる世界。

それがスラムの現状だ。


「その荷物置いてったらやめてやるよ!」


先ほど投げていた石より一回り大きな石を手に、一人の少年がそう言った瞬間、蹲っている少女を庇うかのように赤い何かが飛び出してきた。


「あ!?またお前かよ!ふざけやがって!」


「今日こそボコボコにしてやるからな!」


真紅の髪、大きく吊り上がった猛獣のような目、ボロ切れを体に巻いただけのその姿は、まるで野生の獣そのもの。

そして少女は少年達を睨みつけた。


「な、なんだよ!俺達だって生きるのに必死なんだ!」


「そうだ!邪増すんじゃねぇよ!!」


紅髪の少女は、頭を抱えて蹲ってる少女に視線を落とし、唇を噛みしめると、ギュッと拳を握り締め、少年たちに飛び掛かかった。


「ガァァァァ!!」


まるで獣が駆けるような低い前傾姿勢で、一瞬で距離を詰めた紅髪の少女は、握りしめた拳を1人の少年顔面に叩きつけ地面へと転がした。


「フゥー!!フゥー!!」


大きく見開かれた目は赤く充血し、瞳孔が開き、興奮した猛獣のような呼吸音が響く。


「なっ!?・・・お前!!おい!大丈夫か!?」


もう一人の少年が駆け寄り、声を掛ける。


「い、いってぇぇ・・・。ちくしょう・・・」


殴られた頬を拭いながら立ち上がろうとするも、フラフラとよろめき尻もちをつく少年。

紅髪の少女が再び睨み返すと、少年達は「うっ・・・」後ずさりし、苦虫を潰したような顔で捨て台詞を吐いた。


「クソ!!覚えてろよ!!」


そうして3人の少年達は一目散に逃げて行った。

3人の背中を見送った紅髪の少女は、地面に蹲っている少女へゆっくりと近づいた。

しかし少女の口からは・・・。


「ひっ・・・」


拒絶ともいえる声だった。

それでも紅髪の少女は、石を投げられていた少女に手を差し伸べた。


「だ、誰も・・・誰も助けてなんて言ってません!あなたみたいな人とは関わるなってお母さんからもお父さんからも言われてるんです!」


差し伸べられた手を振り払い、風呂敷包みを抱え、早々とその場を立ち去る少女。


「・・・」


紅髪の少女の名はない。

スラムの赤い獣。

彼女は自分の正義を言葉にしない。

できない。

言葉を知らない。

いつしか、雨が降り、赤い獣はただただ地面を見つめていた。


「ねぇ、あなた」


そして、いつの間にか獣の前には、長いホワイトゴールドの髪を持つ美しい女性と、その女性に傘をさすメイドがいた。


「あなたは優しい子。自分の為に力を使わず、弱き者にその力を使える子」


その美しい女性は、赤い獣にそっと自分が被っていた帽子をかぶせた。



◇(15年後)



「マリアーン!マーリーアーン!次の武闘会のドレス、これちょっと動きずらくない?これじゃあ喧嘩に勝てないわ」


年は18歳くらいだろうか 赤い髪の少女はメイドにそうごちる。


「エリカ様、舞踏会は喧嘩をしに行くところではありません。まぁ、ある意味そうではありますが・・・」


「なによ、わたしはね、強い者と戦いたいの!武闘会なら当然それなりの恰好でいかなきゃ!」


「はぁぁぁ・・・エリカ様・・・。舞踏会の意味が違います・・・」


「あら?そうなの?」


部屋の端にいるメイド達がヒソヒソと言葉を交わす。


「どうしてあんな野蛮なのが由緒ある公爵家の養女に?」


「本当よね・・・野蛮な野猿・・・」


「奥様も何を考えて養女にしたのだか・・・」


マリアンはスーッと目を細めた。




---はぁ、奥様が拾ってきたエリカ様。昔は優しい子だったのですが、ちょっと甘やかせ過ぎましたかね・・・---




「本当、野蛮で我儘で・・・死んじゃえばいいのに・・・」


一人のメイドがそう溢した瞬間、マリアンの体からブワリと殺気が溢れ出た。


「マーリーアーン」


ふと我に返るマリアンは、スッと殺気を抑える。


「言わせておけばいい」


「はい」


庭へと出たエリカとマリアンは、同じ年の少女と対峙していた。


「エリカ!今日こそあなたに勝ってみせますわ!」


その言葉にメイドがため息をつく


「はぁ・・・レア様、またですか」


レア・スターダスト・エーデルガルト。


ディリジェント家と並ぶ四大公爵家の一角で、エリカをライバル視してる令嬢だ。

エリカは嬉しそうに笑う 。


「陰でネチネチ言う奴らはほっとけばいいけど、こういう奴は大歓迎」


エリカがそう言うと、マリアンはまた大きなため息を吐く。


「はぁぁぁ・・・もういいです。手加減はしてくださいね」


レアは右手に魔力を集中させ、光のブレードを発生させた。


「全てを切り裂く光の刃!この日の為に完成させたわたくしの御業、その身を持って食らいなさい」


光の刃は真っすぐにエリカに突き刺さった、かと思った。


「あ、あら?」


しかし、光の刃はエリカに突き刺さることはなかった。

よけもせず、防御もしないエリカに首をかしげるレア。


「残念。まだまだね」


そう言ってエリカは、グッと腰を落とし、右手のパンチ一発でレアを彼方まで飛ばした。


「ふふ、あーゆーのは大歓迎!」


エリカ・フリーヴェル・ディリジェント、トーワ達と出会うのは、まだ先のお話。

読んで頂きありがとうございます。




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