20話 紅
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王都へ入国してまず驚いたのが、王都を貫くメインストリートの広さと露天の賑わいだった。
正にお祭り騒ぎだ。
「二人には黙ってたんだが、実は今ノーリッジは4年に一度の魔導祭典なんだ。どうだ?凄い賑わいだろう」
レイクが自慢げにそう告げてきた。
確かに凄い。
中央に幅広く突き抜けるメインストリートには、小型から大型の馬車、そして人々が溢れかえり、露店がズラリと並んでいる。
「大森林から直送してきた果物だよ!!ここらじゃ滅多にお目にかかれないよ!買った買った~!」
「永久凍土からつい昨日発掘された氷の中型の魔石だ!!純度も勿論高い!今買ってくれるならこっちの火の小型魔石もつけるよ!!」
露店から聞こえる謳い文句に、それに反応する人々。
ルシェも天狐に跨りながら、あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロと視線がとても忙しいようだ。
ちなみに天狐だが、入場の際に獣魔登録をしているので、赤くて可愛いリボンのついた首輪を付けられてる。
首輪はいくつか種類があったが、選んだのはルシェだ。
そして、当の本人は非常に不服そうである。
リボンを付けられる時も、「え?これ我がつけるの?ガチで?」みたいな顔をしていた。
ちょっと面白かった。
「じゃあまずは冒険者ギルドへ行くか。トーワとルシェの登録を済ませなくちゃな」
レイクの言葉で俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
◇
ノーリッジの冒険者ギルドは、まぁ普通だった。
これぞ異世界の冒険者ギルドって感じだ。
地下1階、地上4階のどっしりとした黒い建物だ。
しかし、ルシェからすればそれは違ったようだ。
「ふぉ~~~~!!」
目の前の巨大な建物に感銘の声を漏らすルシェ。
そっか、俺は地球でデカい建造物なんて見慣れてるけど、ルシェからすれば初めて見るんだもんな。
そりゃ驚く。
「デカいだろう!黒いだろう!立派だろう!!」
「うん!!」
自分の事のように自慢げなフレッドと、キラキラと目を輝かせるルシェ。
しかし、デカいだろう!黒いだろう!立派だろう!!はどうだろうか。
いや・・・これは俺の心が汚れてるからだ・・・
そうだ、デカくて黒くて立派な建物なんだ。
それ以下でもそれ以上でもない。
中に入ると、そこはとても開けた空間だった。
鉄と汗と酒の混ざった、いかにも冒険者ギルドらしい匂いが鼻をつき、フードコートのように椅子とテーブルが並び、奥にはカウンターがあった。
カウンターにいる女性達はおそらくギルド職員だろう。
カウンターに行くと、女性のギルド員から声をかけてくれた。
ちょっとおっとりした雰囲気だが、怒らせたら怖そうな巨乳美人だ。
「こんにちは。依頼ですか?登録ですか?」
いやね、地球のラノベでもギルドのカウンター職員は女性で巨乳っていうテンプレがあるけど、ここもそうなの?
なんかそういう決まり事みたいなのでもあるの?
「よう!ネーレ!今日はこの二人の登録だ!」
レイクがそう言って、俺たちを紹介してくれた。
「統和です」
「ルシェリィです!」
そう自己紹介すると、受付嬢のネーレがヒソヒソとレイクに耳打ちをした。
「ねぇ、ちょっと。女の子の方・・・何歳?ギルド登録は10歳からよ?」
「あぁ、ルシェか。ルシェは9歳だ。ただ、登録を申請する。理由は・・・」
そこまで言い切ると、レイクは俺に目配せをしてきた。
ロディーナの紹介状と9歳から特例登録の件だろう。
俺は、コクリと頷くと、紹介状を2つ取り出し、受付嬢へと渡した。
「これは紹介状?ロディ?・・・アフロ・・・ロディーナ様からの紹介状ですか!?」
そう言い残すと「少々お待ちを」と奥へと引っ込んでいった。
◇
20分ほど待たされただろうか。
受付嬢のネーレは「おまたせしました」と個室へ案内してくれた。
「まずは紹介状の件ですが、ギルドマスターに提出したところ、問題なく受理されました。トーワ様はD級冒険者、ルシェリィ様は冒険者見習いとして登録となります。そしてこちらがギルド規定です」
そういって、羊皮紙を2枚を渡された。
「文字は読めますか?・・・っていうのは無粋ですかね。双翼の魔術師様のお弟子様なのですから」
「あはは。まぁ読めます。ルシェも問題ありません」
そしてキルド規定にはこう書かれていた。
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冒険者ギルド規定
第1条(禁止事項)
冒険者は、ギルドに登録して活動するにあたり、以下に掲げる行為を行ってはならない。
冒険者ギルド、またはギルド関係者の名誉及び信用を著しく毀損する行為
活動を行う各国において法令により禁止されている行為
(冒険者ギルドは世界各国に存在するため、当該活動国の法令を遵守するものとする)
奴隷に対する虐待行為
(当該行為が法的に禁止されていない国であっても、ギルドはこれを一切認めない)
受注した依頼の第三者への交換、譲渡、または名義貸し
冒険者同士による過度な争闘行為、及び故意または重大な過失による殺害行為
依頼内容に付随する守秘義務が課されている情報の漏洩
ギルドより発せられた緊急要請(魔物のスタンピード、災害救援その他これに準ずる事案)を、正当な理由なく拒否する行為
国家間における戦争、またはそれに準ずる武力紛争への参加
第2条(違反時の処分)
前条に定める禁止事項に違反した場合、ギルドはその違反の内容及び悪質性に応じ、以下の処分を科すことができる。
注意
厳重注意
一定期間の謹慎
冒険者ランクの降格
冒険者登録の抹消
なお、処分の決定に関する異議申し立ては原則として受理しないものとする。
第3条(ランク昇格)
冒険者は、ギルドが定める依頼を達成することにより、ランク昇格の審査を受ける資格を得る。
昇格審査は、依頼元からの評価及びギルド内部評価を総合的に勘案し、決定される。
審査内容及び評価基準について、冒険者は一切の質問及び異議申し立てを行うことはできない。
第4条(試験)
D級への昇格に際しては、討伐依頼の受注資格が付与されるため、筆記試験を課すものとする。
B級への昇格に際しては、護衛依頼の受注資格が付与されるため、筆記試験を課すものとする。
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警戒種について
準警戒種 ゴブリン:Eランクの魔物で非常に弱い魔物だが、繁殖力が強く、いつの間にか大集落を作り小さな村や町へ大打撃を与える。
警戒種 スライム:F~Bに当たる魔物。大きさによって脅威度が増す。同じスライムでも拳大のスライムから10mクラスまで大きさが様々。巨大なスライムは最大Bランクに位置づけられる。分裂期というのが存在し、極稀に大繁殖する。分裂期には亜種でもあるアシッドスライムも生まれる為、更に脅威度が増す。物理魔法ともに強い耐性を持っている。
特別警戒指定 竜、天狐、白虎など高い知能と戦闘力を持つ魔物達。
これらの魔物、魔獣はギルド命令により、率先して討伐及び撃退に参加する事。
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ふむ。
どこにでもある良心的な規定だ。
要するに、日本人の感覚であれば普通に過ごしていれば何の問題もない。
イージーである。
ただ、警戒種の魔物についてはちょっと驚いた。
RPGでは雑魚中の雑魚とまで言われてるスライムが警戒種。
しかも準ではなく、警戒種だ。
相当ヤバいんだろう。
これは「僕、悪いスライムじゃないよ!」なんて喋るスライムが近づいて来たとしても、安易に仲良くなってはダメだ。
え?本当に?悪くないの?
騙してない?
君にとっては悪くないかもだけど、人間にとっては悪いかもだよね?
とか、もう疑いまくる必要があるな。
そうして俺とルシェは規定を熟読し、本登録を済ませた。
本登録は掌サイズのミスリルプレートに血を垂らすだけで終わった。
魔力を込めると、名前、種族、年齢、犯罪歴が浮かび上がる。
ちなみに、これは冒険者ギルドの独占技術であり、どういった原理で血を垂らすだけで個人情報が浮かび上がるのかは公表されていない。
技術漏洩もしていないようだ。
凄いね、冒険者ギルド。
「ルシェリィ様ですが、冒険者見習いとしての登録となりますので、トーワ様の保護者登録が必要となります。合わせてこちらの書類にサインを」
別紙の登録用紙の記入を済ませ完了。
そして、登録が終わると真っ先にルシェが声を上げた!
「早く外へ行きたい!!色々あったよ!!良い匂いもした!!」
フンス!フンス!と鼻息荒く興奮してるルシェを見て、自分も早く街を見てみたいという気持ちが溢れてきた。
だって、ファンタジー世界の、それも魔法王国だぜ!
年ごろの男子が高ぶらないわけないだろう!
「今、ノーリッジでは4年に一度の魔導祭典が開かれています。露店も沢山出てますし、魔術研究の発表会等も
開かれています。楽しんで来てください」
そういって、受付のおねぇさん、改めネーレは笑顔で送り出してくれた。
ちなみにテンはギルドの従魔専用スペースでお留守番だ。
お土産は買って帰るからね!
こうして俺はD級冒険者、ルシェは冒険者見習いになった。
◇
外へ出た俺たちはビーストウィングとは一時別行動。
彼らも彼らで、色々と報告等々があるらしい。
「トーワあれなに!?すごい良い匂いだよ!」
「あれは、あれだ。串焼き的な何かだ」
「美味しい!?」
「そりゃ美味・・・・いや、分からん。でも美味しそうだね。買ってみようか」
危ない、危ない。
食べた事もないのに、つい美味いなんて言ってしまいそうになった。
この考えは危険だ。
今は俺は、異世界に行って、町へ行って、露店で買い食いしたら美味かった、っていう地球にあった物語のテンプレで答えそうになった。
これはよくない傾向だ。
地球の物語とこの世界の事実を一緒にしてはいけない。
警戒心は常に。
これは俺の知らない現実なんだ。
---ドンッ---
なんてことを考えていたら、人とぶつかってしまった。
この人込みだ。
結構派手にぶつかったが、ここは日本人らしく謝罪しておこう。
「すいません」
相手は白いコードとフードを被っていた。
相手の背中に声をかける形になってしまったが、すぐにこちらにふり返り手に持っている物をチラつかせた。
金貨袋だ。
「返して欲しかったら追いついてみなさい」
そういうと、スルスルと人込みを駆け抜け、姿を消した。
「ルシェ!スリだ!追うよ!!」
「え?スリ?スリってなに?」
「俺たちのお金を取られた!追って返してもらうよ!」
「分かった!!」
白い全身のコートと頭までフードを被った姿は追いやすかった。
時折、こちらを振り返っては口元がニヤついてるようにも思えるが、あのお金は師匠がくれた大事な旅の資金だ。
絶対に取られるわけにはいかない。
こちらが全力で追っても全く距離は縮まらず、ついには裏路地の更に奥まで追う羽目になった。
しかし、相手の先は行き止まり。
やっと追い詰めたか。
「はぁ・・はぁ・・・。そ、それは俺達の大切な金なんだ。返してくれると嬉しい。できれば争い事も避けたいのでお願いします」
物凄いチキンな物言いである。
いや自分でも分かってますよ。
でもね、喧嘩はよくないよ。
暴力はよくない。
だって、痛いじゃん?
相手の背中にそう語りかけると風が吹いた。
風はフードを翻し、その真紅の髪の毛を顕わにした。
緩くウェーブのかかった、腰まである長い紅髪。
まるで炎が踊っているかのような。
そしてゆっくりと振り返ると、そこには獣の目があった。
苛烈。
「ねぇ、私に膝を付かせてみなさい。それができればこれは返すわ」
威風堂々。
スリが、たかがスリがどうしてここまでのオーラを放てるだろう。
ヤバい、これはヤバいイベントだ。
「トーワ、あの人なんか言ってるよ?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。話は俺がするから、大丈夫」
出てきた言葉は、まるで自分に言い聞かせるようなセリフだった。
「え?あ、うん」
こいつはヤバい。
本能がビリビリと訴えている。
絶対にこいつと戦ってはいけない。
「はぁ、またですか」
突如後ろから声が聞こえた。
気配はなかった。
「トーワ」
「あぁ」
ルシェも気配を察知できなかったようだ。
そして挟まれた。
俺とルシェの警戒度が一気に跳ね上がる。
「申し訳ありません。お嬢様は後先考えず行動をするもので。できれば、ちょっとした余興程度と考えて頂き、お付き合いして頂けると幸いです」
そう続けた人物は、メイド服の女性だった。
短い三つ編みが2つ、あとは綺麗に纏められている目つきが鋭いメイド。
きっと、このメイドも強い。
「お嬢様、まずは自己紹介からですよ。ディリジェント家の沽券にかかわります」
ディリジェント家の沽券にかかわりますって。
貴族か?
そもそもスリなんかしてる時点で沽券にかかわってるでしょうが。
貴族がスリとか、もう目も当てられないんじゃないの?
このメイドさんも大概ズレてるな・・・。
「わたしが誰だがなんてどうでもいいの。それよりも早くきなさい。じゃないとこの金貨袋はわたしのものよ」
そしてこの言いようである。
わたしが誰だかなんてどうでもいいと。
貴族なら「私を誰だと思ってるの?」なんて言いそうだけど、どうでもいいと。
これは、ますますマズいんじゃあないだろうか。
貴族の中でもとびきりにぶっ飛んだお貴族様に絡まれたんだじゃないだろうか。
「はぁ・・・。大変申し訳ありません。お嬢様は非常に我儘なのです。甘やかしすぎましたね。では改めでご紹介を。シャルマ王国四大公爵家、エリカ・フリーヴェル・ディリジェント様にございます。世間からは公爵家の恥さらし、野猿、平民上がりの野蛮娘、シャルマ王国歴代王侯貴族きっての不良娘等々、評判は良くございませんが・・・」
「ちょっと!それ悪口じゃない!」
「これは失礼。しかしご安心下さい。貴族に手を上げたからと、そのような事で罰するつもりはありません」
そしてメイドは少しだけ口角を釣り上げた。
「鉄壁の赤獅子姫、これがエリカ様の二つ名です」
原色ペンキをぶちまけたかのような真紅の髪は、まるで消える事のない炎のように風に揺らめいた。




