第三章 新たな・・・仲間?
それからしばらくは平和な日々が続いた。
正確には誰にも会うこともなく、戦うということもなく、強いて言えば食べる物に困窮し、そこらにあったキノコをタケヒロが食べてしまい下痢と嘔吐を繰り返して、生まれたての小鹿のようになったくらいだった。
本当に何もなかった。タケヒロには悪いが。
渋谷を移動した2人は一週間ほどをかけて新宿のあたりに来ていた。
おそらく人が集まるとすればこの周辺かもしれないと何となくあたりを付けていたのだ。まあ、結果的にここにたどり着いたというのもあるが。
線路を歩いてきたはずがすっかり木々が生い茂り、かつての日本の風景などほぼ跡形もなくなっていた新宿ではあったが、新宿だと分かる建物がそこにあった。
「これは、間違いないな。明治神宮だ。」
ユウが少し汗ばんだ額を手の甲で拭って呟く。タケヒロも疲れたのか、近くの岩に腰掛けていた。
「おお・・・さすがに崩壊とまでは行ってないんだな・・・」
タケヒロが嬉しそうに明治神宮を見上げる。そこには苔や植物が繁茂した相当な年月を感じさせる鳥居があった。建物の方も無事なようだ。
「ちょっと!そこの・・・アンタ!」
不意に呼ぶ声が聞こえて周囲を見回す。タケヒロもきょろきょろしているが先に声の主をユウは見つけた。
そこには赤毛が目立つ女の子が立っている。セミロングの髪に気の強そうな少し大きな眼、しっかりとした眉が意志が強そうな印象を受けさせるが、目元にあるホクロが少し女性的な魅力を引き立たせていた。
年齢は10代なのは間違いないが、おそらく全人類一律16歳ではないと思うし、何歳かまでの判断は難しかった。白い肌にやや低い身長、140程度だろうか。それが余計に判断を難しくしている。
「そう、貴方よ!確か渋谷にいたわよね!」
ユウの事をビシっと指差し…といっても若干上目遣いなので気が強そうに見えてもどうしても可愛らしく見えてしまう。気が付けばタケヒロがすごい良い笑顔で横に立っていた。
「どうしたんだい、お嬢さん。僕らに何か用なのかな?」
「あ、アンタはどうでもいいから。キモい。」
物凄い軽蔑した視線を向けられたタケヒロがショックを受けて下がっていく。可哀想に。キモいは言い過ぎだろう、例え事実でも口にしたらダメだと思う。例え事実だとしても。
「おいおい、初対面の相手にキモいはないだろ?俺に何の用だ?」
「だってあいつ、渋谷ででっかいバケモノ出てきた時に隠れて石投げてただけじゃん。あんな臆病者知らないわよ。アンタは見事にバケモノを倒してた。だから気になってたのよ。」
バケモノ…あぁ、サイクロプスのことか。もしかしたら転送地点に一緒にいたのかもしれない。
そして俺たちが一匹を倒してる内におそらく別の場所にも出現したサイクロプスと戦っていたんだろう。多分、わかんないけど。
「私の名前はルカ。あんたは?」
「俺の名前はユウ、あっちはタケヒロだよ。」
ユウはとりあえず名前を名乗ってから罵られてショックを受けたであろうタケヒロを指差す。う、何だ。タケヒロが興奮したように鼻息を荒くしている。こういうドM精神がつくづくキモい。
「いや、あっちのはどうでもいいの。私も一緒に仲間に入れてくれない?戦闘することになってもきっと役に立って見せるから。」
「どうして俺たちを?」
「あの戦闘の時、私は一人だった。周囲の人は逃げ出すし、戦おうとする人もいたけどやられちゃったりとかもあったからね。ホブゴブリンの人にも声かけたんだけど話も聞いてもらえなくて。んで、遠くに歩いていくアンタたちが見えたから後をつけたってわけ。そしたらここにたどり着いたのよ。まさか明治神宮に来るなんてね。」
周囲を見渡しながら「私来たことないのよねー」と呟いている。
後をつけたって。もっと話しかける瞬間はあったんじゃないのか?一週間も尾行されてたっていうのかよ。
「何で今?俺らは一週間かけてここに来た。いつだって声かけられたろうに。」
「どうしようか悩んでたのもあるけど、途中ちょっとトラブルに巻き込まれちゃってね。見失っちゃったのよ。そんで追いついたのが今ってわけ。」
困ったもんよね。みたいに肩をすくめて両手を上げるポーズをとる。
まあ、こちらとしても仲間が増えるのは嬉しいことではあるが。タケヒロ的にはすごいウェルカムな笑顔を向けている。そういうとこだよ?顔にすぐ出るとこキモいんだよ?
「なるほど、まあ、俺としてもこれから旅を続けていくのに仲間が増えるのはありがたい。正直一人でタケヒロの相手をするのも面倒くさくなってきたし。」
「ちょ、私はアンタを誘ってんのよ!そこの変態は興味ないわけ!どうでもいいのよ!キモいし!ちょ、この!下から何覗いてんのよ!」
タケヒロが気が付けば這いつくばってルカの腰布の中を覗こうとしていた。もうそれ犯罪だよ、何やってんの。
「ち…この女スパッツ履いてやがる・・・!何でパンティーじゃないんだよ!」
「はぁ!?何で文句言われなきゃいけないわけ!?この変態!キモいんだよ!どっかいけ!!」
何だかもうわけがわからなくなって二人が取っ組み合いの喧嘩になってきた。いや、100%タケヒロが悪いのだが。お前そんな変態だったっけ?
「タケヒロ、ちょっといいかな?」
「ん?なになに!?ユウだけだよ!俺に優しいのは!!!」
「あっち行ってて。話進まねえし、さすがに今のはないわ。」
「なんですと!?」
ユウの言葉にショックを受けたのかとぼとぼと10mほど離れた岩の方へと歩いていく。
自業自得だ。バカめ。
「悪い奴じゃないんだよ、ちょっとキモくて変態なだけなんだ。許してやってくれ。」
「それフォローしてるつもり?ねえ、マジであいつも一緒じゃないとダメなの?」
「いや、ずっと一緒に旅してきたわけだし。そこそこ多分きっと戦力にもなるからさ。一緒に来たいならそこは我慢してくんないかな。」
ルカは少し考えていた。いや、かなり悩んでいるようにも見えた。
そんなに嫌なのか。まあ、そりゃあパンチラチェックされたらそりゃあ嫌だろうけど。
その時だった。
突然空からどこかで聞いたような音が聞こえてきた。サイレンだ。いつかサイクロプスと戦う前に鳴り響いたものと同じだった。
そして前回と同じように抑揚のない機械音声が聞こえる。
「これより新宿ヒュドラ討伐戦を行います。繰り返します。これより新宿ヒュドラ討伐戦を行います。」
機械音声がそう告げるとサイレンが鳴り止む。
それと同時に俺たちの前の地面が盛り上がり、苔が繁茂したアスファルトをぶち破って10本の首を持ったドラゴンがそこに現れた。
ユウとルカの眼前、10mほどのところに現れたヒュドラは推定でも体長20mはあった。タケヒロがちょうどいたところから出てきた為、タケヒロが衝撃でぶっ飛んでるのが見えた。
「うおおおっぉぉお!?」
タケヒロが情けない声を出しながら森の方へ飛んでいった。おそらく茂みに落ちるから大丈夫だろう。
今は自分たちの心配をするしかない。




