第二章 何が最善かなんて誰もわからない。
大きな地響きと共に目の前に降ってきた巨大な一つ目の巨人。額には角のように盛り上がった突起があり、頑強な口元からは牙が上向きに生えている。筋肉隆々で腰には一枚の布と手には岩から削り出したような棍棒のみ。
それだけでも全く勝てる気などしない。
「お、おい!どうするんだよ!これ!どうすりゃいいんだ!」
タケヒロが叫ぶ声がする。いくら握力が強くなっても身体能力は今までと同じ人間のものだ。こんな巨人とやりあえるわけがない。
「選択肢なんかねえよ!勝てるわけない!逃げろ!」
ユウがすぐに立ち上がり、その場から離れようとすると目の前のサイクロプスが棍棒を振り上げるのが見えた。瞬間的に色んな回避方法が頭を逃れたが、ユウの体勢ではどうにもならなかった。
ユウに向かって振り下ろされる。誰もが、タケヒロを含めた周囲の人々がそう思った時、サイクロプスに飛びかかる何かがいた。
それはゴブリンだった。
「え?な、なんで!?」
まさかゴブリンに転生した人がいたのか?でもこの数は・・・目算でも三十体はいた。まるで群がるように木から切り出した槍をサイクロプスに投げたり、棒で殴ったり、サイクロプスの巨体を登ったりしようとしていた。それでもサイクロプスの棍棒を振り回す動きに一斉に吹き飛ばされ、ギャアギャアと泣き喚く声が聞こえている。
「おい!今だ!逃げるぞ!」
「あ、あぁ・・・」
おかしい。いくら最初から転生できる一覧にいたからといってゴブリンを三十人もの人が選ぶだろうか。自分だったら絶対選ばない。助けてもらってなんだけど。
安全なところまで走っていって、ふと気が付く。あれだけ殴られたり、吹き飛ばされたりしているゴブリンだが全くその数が減っていない。それどころか、若干増えてないか?
その時、ゴブリンの最後方に何かが見えた。
それはゴブリンでありながらも杖を持ち、何かを唱えている者だった。服装からしてゴブリンシャーマンとかそういうものだろうか。身長は他のゴブリンよりも大きい。
「あれは・・ホブゴブリンか?でもただのホブゴブリンじゃない。おそらくホブゴブリンの転生後にゴブリンを呼び出せる転生先があるんだ!」
「なんだって!?」
驚くタケヒロを横目に思考を巡らせる。タケヒロは人間としてパワーアップを行って握力を上げた。パワーアップとは本当に身体能力や筋肉増強させるようなものだけだろうか。本当は何か見落としているのではないだろうか。
そう思い至るが早いか、ユウは腕の機械を操作してパワーアップの項目を確認する。すると身体能力、筋肉増強などの説明の後に次のページがあることに気がついた。タッチして次の画面を移す。そこには人間でも可能な項目が書かれていた。
「なんだこれ、さっき見た時はこんなのあったのか?ス・・・スキル・・・?スキルだって?」
ユウの言葉にタケヒロが振り向く。ていうか何で岩陰に隠れてんの。俺を守るとか言ってなかったっけ?
「スキルだよ!スキル!技とか魔法みたいなのも転生ポイントを消費して覚えられるみたいだ!」
「何それかっけぇ!!!マジかよ!」
中身のないコメントありがとうタケヒロ。
おそらくはあのホブゴブリンに転生した人はスキルでゴブリンを呼び出すスキルを覚えたということか。ていうかもうそんなの使っている人がいるのか?順応力高すぎないか?
でも確かに一人で数十体の兵隊を作れるなんてすごい事だ。おそらく今この周辺ではあのホブゴブリンが一番の強者じゃないだろうか。
そんな事を考えている内に、徐々にゴブリンの数も目に見えて少なくなり、少しずつホブゴブリンの勢いが衰えてきた。やはり一人では厳しいのか。しかしサイクロプスの息もかなり上がっていた。
「イベントって事は・・・このサイクロプスを倒せばかなりの転生ポイントが入るかもしれないのか。」
しかしどうすれば・・・タケヒロは、なんか遠くの岩陰から石投げてる。当たった。あ、でも全然効いてない。何のための握力だよ。
ユウは急いで機械を操作し、一覧を素早くスライドさせていく。その中で一つ、気になったのを見つけた。転生ポイントは57、ちょうど使い切るがこれしかない。
「さあ・・・どうなるか。予想では可能なはずだ。頼むぜ。」
転生ポイントを使いますか?はい、イエスイエス。指先がチェックに触れた瞬間、ユウの胸の奥がカッと熱くなった。内側から溢れるような何かを感じる。今ここで畳み掛けないとサイクロプスは倒せない、多分弱点は目。そうじゃなくても目だけでも潰してしまえばかなり有利になる。
「お、おいユウ・・・お前何に使ったんだ?」
「ん?まあ・・見てろよ。イメージを・・・こう・・・」
ユウが手を広げてサイクロプスに照準を定める。そして想像する。周囲の大気が渦巻いて突き出した右手を回転しながら覆うイメージ。それは想像通りに形になっていった。
周囲に風が吹き荒れる。その気配を感じてサイクロプスがユウに向き直った。その瞬間、ユウの手から目に見えない何かが発射される。
あまりの反動にユウは後方に吹っ飛んで・・・岩陰に隠れていたタケヒロを下敷きにした。
そしてユウの放った何かはサイクロプスの目をいとも簡単に貫いた。首から上がなくなった巨体が揺れて地面に倒れる。その様子を上体を起こした姿勢で見ていた。
今のは紛れもなく空気の矢だ。正確には大気で作り出した真空の槍。ホブゴブリンのスキルに魔法のようなものがあるならより単純な魔法なら人間にもあると思ったのだ。
「使えるぜ・・・これ。」
「い、今のなんだったんだ?一瞬過ぎてわからなかったんだが。」
「自分の周囲の大気を操る魔法だよ。可能な限り想像通りになるみたいだ。といっても転生ポイントは全部使っちゃったけどね。」
ホブゴブリンがこちらを見ていた。しかし黙ってゴブリンを消す。とりあえず敵対意識はないようだった。周囲の人々がほっと安堵の表情を浮かべている時、また抑揚のない声が響いた。
「イベント、渋谷サイクロプス掃討戦を終了します。戦闘に参加された方には転生ポイントが授与されます。お疲れ様でした。」
ピンポンパンポーン。
どこかのデパートの放送音みたいな音と共にアスラの声が消える。また余計な事を覚えたのではないだろうか。というか何がしたいんだ。
「おおおおおおおおおお!!!!ヒロ!!見てみろ!転生ポイントが30増えてる!」
「え?お前石投げてただけだよね!?それでそんだけ入るの?」
どうやら貢献度によってポイントは違うらしい。さっそく自分のポイントを確認する。ユウの転生ポイントには200と表示されていた。
あまりの多さに言葉が出ない。あれか、最後とどめ刺すと多いとかそういう?
「マジかよ、ちょっと待って、こういうのってあんまり急に増えてもどう使ったらいいかわかんなくなるんだよね・・・俺昔からゲームのカスタマイズとか苦手なんだよ・・・」
嬉しさ半分不安半分の表情で正直なところ困った。
新しい世界に来たはずなのに、ここでもう一度20億人がやり直すはずなのに。何故かこの転生システムに人類は振り回されている。
誰だって持つ変身願望。それが実際に可能になったら本当に使えるだろうか。
誰も知らない自分に変わっていくにつれて元の自分を忘れてしまう恐怖を覚えたりはしないのだろうか。それともそんな考えなどにもはや意味はないのか。
ユウはとりあえず空を見上げて思った。
「腹・・・減ったなー」




