第一章 まずどうしたらいいのよ。
「なんだよこれ。」
最初に出たのはこの言葉だった。
一見美しく見える世界。輝く太陽、一面の青空、目の前に広がる大草原。空気もすごく美味しい。
仮想世界とはまるで思えないほどの感覚だった。そう、自分は確実にここで生きているというのがわかる。ただ一つを除けば。
「転生・・・ポイント?」
それは腕に付けられた時計に数字がカウントされている。現在の数字は50。周囲にも数十人の人がいるが、みんな同じ数字だった。
「転生ポイントってことはこれを使って何かに転生するってことなのか?」
みんな同じような疑問を抱いている。しかし試してみる勇気が持てない。
そして何より目の前に広がる光景、よくみればまるで数億年過ぎた地球のように人工物がちらほらと苔や樹木に埋まって見えるのだ。
ここは第2の地球だとでも言いたいのか?それを皆が望んでいたというのだろうか。
「まあいいか、今の自分はもう以前の自分じゃないんだから。」
自分はこの世界に来る前、科学者を監視する軍人だった。年齢は35だったが、今の肉体年齢は16歳頃に若返っているようだ。顔も触れた感じ全く違うものになっている。
「なあ、アンタ、ちょっといいか?」
不意に後ろから話しかけられて半身だけ振り向くと、そこにはおよそ同年齢の男が立っていた。服装は自分と変わらない宇宙船の生活服だ。白く肌触りも良く、着ていても暑さも寒さも感じない。着ている時の心地よさを徹底的に追求した服だった。
その男は短い黒髪に三白眼が印象的な男だった。
「この数字の事、どう思う?」
「正直今は分からない。どうすれば増えるのか、逆に減ることがあるのか。おそらくは増やすことで人間以上の何かに転生できるようなものだと思う。」
そう話した時、自分のポイントが2増えた。自身で考える事でも何らか増えたりもするらしい。それにしてもどこから見ているのかわかったものではない。
「今ので増えたのか!?何が基準なんだ!?俺は人間でいたいんだよ!なんでこんなことに・・・」
男は頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
確かにこれはいらない要素だと思わないでもなかった。でも何もなかったとしたら、俺たちは何もどう生きていくんだろうか。また殺し合ったり奪い合ったりが起きたりするのではないだろうか。
考えようによってはうまく溜めて使えば相手よりも強くなれれば自衛できるというものだし、生活も楽になるかもしれない。
「ん、まあでも色々考えるより決めないといけないことがあるな。」
「え?」
男が情けなさそうな声で見上げる。
「名前だよ、新しい自分になったんだ。名前は必要だろう?」
俺は男の手を取って立ち上がらせると背中を叩いて励ますように言った。
「新しい世界でやり直すんだ、自分自身も。俺の名前はユウ。苗字は面倒くせえや。」
「ハハハ・・・そうだな。アンタ良い人だよ。俺は・・・タケヒロって呼んでくれ。」
笑い合いながら二人握手をする。男同士は大体こんな感じで元気が出るのは新しい世界に来ても同じだった。
そこでふとタケヒロが疑問を漏らす。
「なあ、ちなみに転生ポイント50で何に転生できるんだ?」
タケヒロが腕の機械を操作してみる。それを脇から見るようにしてユウも見ていた。
そこには数え切れないほどの動植物の名前や写真が並んでいた。おおよそ、以前の地球に存在していたものに近いようだったが、目を疑う名前も発見する。
「ゴ・・・ゴブリン・・・?」
「ゴブリンってあの・・・小さい?マジかよ。アイツ50なのかよ。この犬と変わんねえのかよ・・・」
その時だった。
周囲から悲鳴にも似た声が上がった。パーン!というガラスが割れるような甲高い音が響いたかと思うとそこにいた女性の一人が真っ白に掻き消え、小鳥に変化してどこかに飛び立っていった。
正に転生したはずだった。
「あ、あれもアリっちゃアリなのか・・・鳥を夢見る人もいるもんな。」
少し動揺しながらタケヒロが転生できるリストを眺めている。
その画面を見ながらユウは何かの表示に気がついてタケヒロの手を止めた。
「な、何?」
「これ、ここにパワーアップっていうのがある。転生ポイントと言っても人間でいたい人は自身の肉体を強化することができるんだ。でなければ世界から人間という種族はいなくなってしまうだろうからな。」
「マジかよ!」
興奮した様子でタケヒロは機械を操作する。どうやらパワーアップ項目のところに握力の数値を見つけたようで50全てを使ってそれを上げてみたらしい。
その瞬間タケヒロの両手が輝いて、よくわからないキラキラとした演出が出た。ゲームかよ。
「おお!なんだ!なんかすごい!!これ!見てこれ!」
タケヒロは足元に転がった石を拾い上げると力を込めた。するとわずかな軋む音を響かせた後、その石は見事に砕け散った。
「マジか・・・マッチョタケヒロ誕生じゃんかよ・・・」
「ユウ、俺が守ってやるからな。」
何だか急に距離が近くなった気がして少しイラっとしたが、ユウはまだポイントを使う気にはなれなかった。さっきの小鳥。カワセミか、ウグイスか、それくらいの大きさではあったけれどあれで終わりじゃないんだろうなと思い始めていた。
転生した後もきっとまだ何かある。
そしてそれが強さに繋がっている以上避けられないものがある。力を持ち始めた者同士が行う事、それは闘争である。それは決して避けられない。
それまでには見つけなくてはならない。この世界で生きていく為の術を。
ユウは気づいていた。それは軍人として生きてきた経験からなのか。生き残るには転生だけではない要素が必要であることを。そして何よりこのようなプログラムを仕組んだ『アスラ』が何を考えているのかを常に想像する必要があることを。
数十人の人が一斉に散っていく。それぞれの行き場所を探して。
数人の人が動物になって森に駆けていくのが見えた。きっとそれで終わりではない転生ポイントなのだ。何故なら駆け抜けていったオオカミの腕のカウントが3残っているのが見えた。
オオカミから繋がる転生先が存在するということだ。派生か進化か。
今はまだ分からない。




