第七十三話 東方からの知らせ
グランディア帝国の地方神殿で、西方について調べ始めてからしばらく。
追加の報告を受けた聖職者たちは、かえって分からなくなっていた。
「本人たちも、理由を知らない?」
「そのようです。太陽教の司祭たちも調べていると」
「神の加護ではないのか?」
「加護を遮断する聖具を使っても、変化がなかったという話まであります」
正式な発表ではない。宗教関係者の往来を通じて漏れ聞こえた、断片的な話だった。
だが、その曖昧さが、一部の者を刺激した。
「正体も分からぬ力を、神聖なものとして扱っているということか」
「そこまでは分からん」
年長の聖職者が、すぐに止めた。
「まずは中央へ報告する。我々だけで決める話ではない」
「返事を待つ間にも、噂は広がります」
「だからといって、勝手に敵と決めるな。太陽教もアルセリア皇国も、我々へ攻めてきたわけではない」
報告書は、その日のうちに帝都へ送られた。
それで待っていればよかった。
しかし、直接問いただすべきだと考えた者たちは、中央の返答を待たずに出発した。
その話が各地の神殿へ伝わるうちに、「得体の知れない力を広める太陽教を、放置してよいのか」という声まで加わっていった。
◇
「……三百?」
エストリア王国の王は、報告役の顔を見た。
「はい。東部各地で、太陽教へ向かおうとする神光教関係者が集まっております。合わせて三百ほどになると」
「巡礼か?」
「一部は、聖戦だと申しております」
「誰が許可した」
「確認できておりません」
王は机の上へ書状を置いた。
発端は、グランディアから来た聖職者たちだったらしい。
護衛を伴った一行が東部国境で止められると、その事情を伝え聞いた国内の信徒まで動き始めた。
いつの間にか、太陽教へ抗議するために西を目指す集団になっていたのである。
「我が国を通って、アルセリアへ行くつもりなのだな」
「そのようです。神殿騎士のほか、武器を持つ信徒も混じっております」
「通すな。正式な要請もない武装集団を、他国へ送り込めるか」
王はグランディア中央への照会と、国内の神殿への協力要請を命じた。
その後、知らせが往復する間に、現地では王国軍と集団の一部が衝突した。
数日後に届いた報告には、双方に負傷者が出て、拘束された者もいると記されていた。
それでも制止に従わず、西へ向かう者が残っているという。
「中央からの返答も届いております。独自行動は認めておらず、聖戦を命じた事実もないとのことです」
「それはそうだろうな……」
王は額へ手を当てた。
「なぜ、我が国のところで揉める」
答えられる者はいなかった。
「アルセリアにも知らせろ。我が国は通行を認めておらず、現在も止めている。そのまま伝えるのだ」
◇
「南国サウレアの代表も、もうすぐ決まりそうですわ!」
皇宮で、アイリスが予選の資料を持ち上げた。
「西国ウェストリアは決まったのだったな」
「はい! 皇国内も、残る地区はあと少しですわ!」
皇帝は頷き、隣の皇后へ目を向けた。
以前よりも動作がゆっくりになり、お腹も大きくなっている。
「……こちらの準備も、進めておかねばな」
「ええ。少しずつお願いしますね」
「大会もちょうど、その頃ですわ!」
「アイリス。出産の日を大会の日程に合わせるなよ?」
「そんなことできませんわ!」
「ならよい」
「どちらも楽しみだと申し上げておりますの!」
皇后が穏やかに笑った、その時だった。
ノリスが一通の報告を持って入ってきた。
「陛下。東部国境都市より、緊急の連絡です」
◇
エストリアからの使者が皇国の国境へ着くと、知らせの概要は有線通信で皇都へ送られていた。
主要な街道沿いに設けた中継所を経て、書状そのものより先に情報が届いたのである。
「神光教の集団が、太陽教総本山へ?」
報告を聞いた皇帝が眉を寄せる。
「はい。エストリア王国は通行を拒否しておりますが、制止に従わず進む者がいるとのことです。グランディア中央も、独自行動を認めておりません」
「どちらの国も、止めようとしているわけか」
「その通りでございます」
アイリスは手元の大会資料を置いた。
「太陽教へ、何をしに来ますの?」
「現象の確認、と説明しているそうです」
「……例の光ですの?」
アイリスの視線を受け、ヴィンセントが首を傾げた。
エルナはリゼットを見る。
「鐘と、羽と、聖女でしょうか」
「私ですか?」
「たぶん、あなたです」
皇帝は二人の騎士を見比べ、椅子へ背を預けた。
「我が国でも分からぬものを、他国が調べに来るとはな」
「わたくしたちも知りませんものね」
「はい。全く」
「ヴィンセント、あなたは少しくらい気にしてくださいまし!」
「気にはしていますよ?」
ノリスは返答を待たず、東部の警戒と太陽教への連絡について話を進めた。
アイリスは、机の上に置かれた通信の紙を見る。
「以前でしたら、この知らせも何日も後になっていたのですわね」
「ああ。その間に、さらに近づいていたかもしれん」
「やっぱり便利ですわ」
皇帝も、今度は素直に頷いた。




