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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第八章 アルセリア皇国でのんびり
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番外編⑦ 太陽教

ながく・・・

 ある日。


 アルセリア皇国――皇宮。


 太陽教の総本山から。


 一通の知らせが届いた。


「……ヴィンセントとリゼットについて、改めて確認したいことがある?」


 エルナが手紙を読み上げる。


 アイリスが横から覗き込む。


「以前より、光が強くなっているように見えるため、一度総本山で確認させてほしい……ですの?」


「そのようですね」


「また光ですのね」


 アイリスがヴィンセントを見る。


「何です?」


「最近、ご自分で分かりませんの?」


「全く」


「リゼットは?」


「私も分かりません」


「…………」


 エルナは小さく息を吐いた。


「まあ、司祭様方も以前から気にされていましたし」


「そうですわね」


「一度、伺ってみましょうか」


「はい!」


 こうして。

 アイリスとエルナは。

 ヴィンセント。

 そしてリゼットを連れて。

 太陽教の総本山を訪れることになった。


 ◇


「ようこそお越しくださいました」


 司祭が深く頭を下げる。


「急にお呼び立てして申し訳ございません」


「構いませんわ」


 アイリスが答える。


「それで?」


「はい」


 司祭の視線が。


 まず。


 ヴィンセントへ向かう。


「以前より……」


「はい?」


「やはり、光が強くなっておられるように見えます」


「…………」


 ヴィンセントが。


 自分の身体を見る。


「そうですか?」


「はい」


 確かに。


 以前。


 この場所を訪れた時にも。


 ヴィンセントの身体は。


 淡い金色に光っていた。


 だが。


 今は。


 その時より。


 わずかに。


 はっきりしている。


「本当ですわね」


 アイリスも。


 ヴィンセントを見る。


「前より光っておりますわ!」


「そうなんですか」


「自分では分かりませんの?」


「全く」


「…………」


 その時。


「あの……」


 司祭が。


 今度はリゼットを見る。


「リゼット殿も……」


「はい?」


「少し……」


「…………」


 全員が。


 リゼットを見る。


「…………」


 確かに。


 ほんのわずかに。


 白銀の鎧の周囲が。


 淡く。


 光っているように見える。


「リゼット?」


 エルナが声を掛ける。


「はい?」


「あなたも光っていますよ」


「……そうなのですか?」


 本人は。


 やはり分かっていなかった。


「…………」


 司祭の表情が。


 少しずつ。


 真剣なものへ変わっていく。


 ◇


 その後。


 一行は祈りを捧げるため。


 神殿の奥へ進んだ。


 司祭は。


 その後ろを歩きながら。


 そっと胸元へ手を添えた。


 衣の内側には。


 一つの聖具を忍ばせている


 神から授けられた加護を。


 一時的に遮断するものだった。


 その効力は。


 既に確かめられている。


 だからこそ。


 確認したかった。


 ヴィンセントに起きている現象も。


 神の加護によるものなのか。


「司祭様?」


「はい」


「こちらでよろしいですの?」


「ええ。どうぞ」


 アイリスたちが足を止める。


 司祭は。


 誰にも告げず。


 胸元の聖具を作動させた。


 そして。


 ヴィンセントが祈る。


「…………」


 淡い金色の光が。


 その身体を包んだ。


「……?」


 司祭が。


 瞬きをする。


 光っている。


 先ほどと。


 何も変わっていない。


「…………」


 少し近づく。


 光っている。


 反対側へ。


 回ってみる。


 光っている。


「司祭様?」


「……はい」


 ヴィンセントが顔を上げた。


「どうかなさいましたか?」


「い、いえ……何でもございません」


「そうですか」


 ヴィンセントは。


 再び姿勢を正した。


 司祭は。


 胸元をそっと確認する。


 聖具は。


 確かに作動していた。


「…………」


 もう一度。


 ヴィンセントを見る。


 やはり。


 光っている。


「何か分かりましたの?」


 アイリスが聞く。


「……いえ」


「そうですの」


 アイリスは。


 特に気にした様子もなく。


 祈りへ戻った。


 司祭だけが。

 胸元に手を添えたまま。

 動けずにいた。


 ◇


「実は」


 参拝を終えたあと。


 司祭が。


 少し言いにくそうに口を開いた。


「皆様に、お見せしたいものがございます」


「見せたいもの?」


「はい」


 案内されたのは。


 総本山の奥。


 普段。


 一般の参拝者が入ることのない一室だった。


 壁には。


 いくつもの宗教画。


 過去の出来事。


 太陽教にまつわる伝承。


 そして。


「…………」


 アイリスが。


 足を止めた。


「司祭様?」


「はい」


「これは……」


 壁に掛けられていた。


 一枚の絵。


 そこには。


 金色の光の中。


 白い羽をまといながら。


 ゆっくりと空へ浮かび上がる。


 白銀の女騎士が描かれていた。


「…………」


 エルナが。


 ゆっくり。


 リゼットを見る。


「リゼットですね」


「私ですね」


「…………」


 そして。


 その下には。


 金色の鐘鎚を振り上げる。


 黒髪の少年。


「ヴィンセントですわね」


「私ですね」


「…………」


 さらに。


 その隣。


 もう一枚。


 今度は。


 金色の鐘鎚を。


 神聖な祭具のように携え。


 淡い光の中に立つ。


 ヴィンセントの姿。


「…………」


 アイリスが。


 司祭を見る。


「これは?」


「記録でございます」


「記録?」


「はい」


 司祭は。


 非常に真面目だった。


「西方へご出発なさる前」


「はい」


「この総本山の前で起こった現象を」


 リゼットを見る。


「後世へ残すべきものと判断いたしまして」


「…………」


「絵師に描かせました」


「…………」


 リゼットは。


 自分が浮いている絵を見る。


「随分と……」


「はい」


「神々しく描かれておりますね」


「可能な限り、目撃したままを再現しております」


「…………」


 実際は。


 鐘鎚で腹を打たれ。


「ぐふぅっ……!」


 となりながら。


 ゆっくり浮いていただけである。


「司祭様」


 アイリスが言う。


「別に、奇跡というわけではありませんわよ?」


「…………」


「ヴィンセントが、リゼットを殴っただけですわ」


「はい」


「それで浮いただけですの」


「…………」


「司祭様?」


「はい」


 司祭は。


 もう一度。


 絵を見る。


「ですが」


「はい?」


「鐘は鳴りました」


「鳴りましたわね」


「光も」


「出ましたわね」


「白い羽も」


「出ましたわね」


「…………」


「…………」


 説明になっていなかった。


 ◇


「それで……」


 司祭が。


 少し。


 躊躇う。


「まだ何かありますの?」


「はい」


 司祭が。


 今度はエルナを見る。


「以前、ヴィンセント殿が両殿下を両手の上に乗せられた姿を、エルナ殿下が絵に描かせたと伺いました」


「…………」


 エルナが。


 少しだけ。


 目を逸らす。


「ああ」


 アイリスが声を上げる。


「あれですの?」


「はい!」


 司祭の返事が。


 やけに早かった。


「司祭様?」


「その……」


 司祭の表情が。


 明らかに期待している。


「もし」


「はい?」


「もし可能でございましたら」


 一度。


 深く頭を下げた。


「実際に、その光景を」


「…………」


「拝見させていただくことは……」


「別に構いませんわよ?」


 アイリスが即答した。


「アイリス?」


「以前もやりましたもの」


「それはそうですが……」


 エルナは。


 少し困った顔をする。


 だが。 司祭を見る。


「…………」


 ものすごく。


 見たそうだった。


「……まあ」


 小さく息を吐く。


「構いません」


「ありがとうございます!」


 司祭が。


 深々と頭を下げた。


 ◇


「では」


 ヴィンセントが腰を落とし、両手を差し出す。


「アイリス殿下」


「はい!」


 アイリスが。


 右手の上へ。


 腰掛ける。


「エルナ殿下」


「……お願いします」


 エルナも。


 左手の上へ。


 座る。


 そして。


 ヴィンセントが。


 そのまま。


 ゆっくりと立ち上がった。


「…………」


 司祭が。


 息を呑む。


 右手には。


 金色の髪を揺らす。


 アイリス。


 左手には。


 青い髪を流す。


 エルナ。


 その中央。


 ヴィンセントの身体が。


 淡い金色に。


 光っている。


「…………」


 司祭の目が。


 さらに大きくなる。


「ヴィンセント」


「はい?」


 アイリスが。


 手の上から言う。


「また光っておりますわよ」


「そうなんですか」


「ええ」


 その時。


 ごぉぉぉん――。


「!」


 総本山の鐘が。


 鳴った。


「…………」


「…………」


 誰も。


 鐘には触れていない。


「またですわね」


「またですね」


 アイリスとエルナは。


 もう。

 慣れ始めていた。


 だが。

 司祭は違った。


「おお……」


 小さく。

 声を漏らす。


「おお……!」


「司祭様?」


「…………」


 その時。

 さらに。


「あ」


 エルナが。

 横を見る。


「リゼット」


「はい?」


「あなた」


「?」


 リゼットの身体も。


 先ほどより。


 はっきりと。


 淡い光を帯びていた。


「…………」


 司祭が。

 完全に固まった。


「ヴィンセント殿が」


「はい?」


「両殿下を御手に乗せ」


「はい」


「鐘が鳴り」


「はい」


「リゼット殿まで」


「はい」


「…………」


 司祭は。

 しばらく。

 何も言わなかった。


「司祭様?」


 アイリスが。


 ヴィンセントの手の上から聞く。


「何か分かりましたの?」


「…………」


 長い沈黙。


 そして。


「分かりません」


「分かりませんの!?」


「申し訳ございません!」


 何も。

 分かっていなかった。


 ◇


 ヴィンセントが。


 アイリスとエルナを。


 ゆっくりと床へ降ろす。


「ありがとうございました」


 司祭が。


 深々と。


 頭を下げる。


「参考になりました」


「何の参考になったんですの?」


「…………」


「司祭様?」


「今後、考えます」


「まだ考えるんですの?」


「はい」


 司祭は。

 非常に真剣だった。

 そして。


「その……」


「まだありますの?」


「最後に」


 司祭が。

 ヴィンセントを見る。


「はい?」


「もし」


 少し。

 恥ずかしそうに。


「可能であれば……」


「はい?」


「わ、私も」


「…………」


「その御手の上へ」


「嫌です」


「…………」


 即答だった。


「ヴィンセント?」


 アイリスが。

 目を丸くする。


「早いですわね」


「男ですので」


「…………」


 司祭が。

 少し。

 肩を落とした。


「やはり……」


「はい?」


「男性には許されぬ、何かが……」


「違います」


「違うのですか?」


「単に嫌です」


「…………」


 宗教的な意味は。

 なかった。


「では」


 横から。


 リゼットが手を挙げる。


「私なら?」


「構いませんよ」


「…………」


 司祭が。

 ゆっくりと。

 リゼットを見る。


「やはり……」


「違いますわよ」


 アイリスが言った。


「たぶん」


「たぶん?」


「深く考えない方がよろしいと思いますわ」


「…………」


 司祭は。


 しばらく。


 何かを考えていた。


 だが。


 結局。



「……分かりません」


 ◇


 一行が帰ったあと。


 司祭は。


 もう一度。


 聖具の効力を確かめた。


 神の加護を受けた者に。


 協力してもらう。


 聖具を作動させると。


 その加護による力は。


 確かに失われた。


 止めれば。


 元に戻る。


 もう一度。


 試す。


 結果は。


 同じだった。


「……正常ですね」


 協力した者が言う。


「ええ」


「何か問題でも?」


「…………」


 司祭は。


 手元の聖具を見つめた。


 壊れてはいない。


 効力も。


 失われてはいない。


 それなのに。


 ヴィンセントは光っていた。


 両殿下を手に乗せた時も。


 鐘が鳴った時も。


 聖具は。


 作動したままだった。


「……神から授けられた加護」


 司祭が呟く。


「そう考えていたのですが」


「違ったのですか?」


「少なくとも」


 少し。


 間を置く。


「我々の知る加護では、ないようです」


 では。


 なぜ教会で光るのか。


 なぜ鐘が鳴るのか。


 あの光も。


 白い羽も。


 何なのか。


「…………」


 司祭は。


 記録を開いた。


 今日、分かったことを。


 一つだけ書き加える。


 神の加護を遮断しても。


 現象に変化は見られなかった。


 筆が止まる。


「……では」


 小さく。


 呟いた。


「あれは、何なのだ?」


 答える者は。


 いなかった。


 その頃。


 皇宮へ戻るヴィンセントは。


 自分が何を試されていたのか。


 何も知らないまま。


 アイリスたちと。


 お茶の時間に出す菓子の話をしていた。

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