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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第八章 アルセリア皇国でのんびり
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第七十話 新しい競技

 大規模な野球大会の準備が進む中。


 皇国では。


 また一つ。


 新しい競技が試されようとしていた。


「こちらですわ!」


 アイリスが板を見せる。


「テニス?」


 エルナが首を傾げる。


「はい!」


 向かい合った者同士が。


 網を挟み。


 ラケットと呼ばれる道具を使って。


 球を打ち合う。


「二人でもできますし」


 アイリスが説明を読み進める。


「二人一組でもできますわ!」


「なるほど」


 エルナも興味深そうに板を見る。


「反応の速さや、足運びの訓練にもなりそうですね」


「でしょう!」


 アイリスが嬉しそうに頷く。


「やってみましょう!」


     ◇

 数日後。


 皇宮近くの訓練場の一角には。


 新たに。


 網を張った競技用のコートが作られていた。


「では!」


 アイリスがラケットを構える。


「エルナお姉様!」


「はい」


「参りますわよ!」


「いつでもどうぞ」


 アイリスが球を打つ。


 パァン!


 球が網を越える。


 エルナが一歩動き。


 打ち返す。


 パァン!


「まあ!」


 アイリスが追う。


 再び打つ。


 金色の髪が揺れ。


 青い髪がなびく。


 二人の皇女が。


 軽やかに。


 左右へ走る。


「……華やかですね」


 見学していたヴィンセントが呟いた。


「そうでしょう?」


 近くにいた親衛隊長が答える。


 やがて。


 アイリスとエルナは。


 二人一組となり。


 親衛隊の二人を相手に。


 ダブルスを始めた。


「行きます!」


 親衛隊員が打つ。


「アイリス!」


「任せてくださいまし!」


 パァン!


「エルナお姉様、右です!」


「分かっています!」


 パァン!


 今度は。


 親衛隊側も負けていない。


 身体強化を施された。


 皇女直属の精鋭たち。


 球へ素早く追いつき。


 正確に打ち返す。


「まあ!」


 アイリスが目を輝かせる。


「皆さん、お上手ですわ!」


「殿下方も!」


 コートの脇では。


 新設された月組の者たちも。


 試合を見ながら。


 うずうずしていた。


「やってみます?」


 親衛隊長が声を掛ける。


「よろしいのですか?」


「もちろんです」


 ほどなく。


 親衛隊と月組の試合も始まった。


 パァン!


 パァン!


 パァン!


 どちらも。


 簡単には打ち損じない。


「月組の皆さんも負けておりませんわね!」


 アイリスが嬉しそうに言う。


「精鋭として選ばれた方々ですからね」


 エルナも頷く。


 皇女二人。


 親衛隊。


 月組。


 それぞれが交代でコートに入り。


 軽やかに走り。


 球を追う。


 訓練場は。


 いつもとは少し違う。


 華やかな空気に包まれていた。


「ヴィンセントもやってみます?」


 エルナが声を掛ける。


「はい」


「…………」


 エルナが止まる。


 アイリスも止まる。


「どうしました?」


「ヴィンセント」


「はい?」


「軽くですわよ?」


「もちろんです」


「本当にですわよ?」


「はい」


 ヴィンセントがラケットを持つ。


 球が飛んでくる。


 軽く。


 振った。


 パァァァン――!


「…………」


 球が。


 見えなくなった。


「…………」


「…………」


 全員。


 遠くを見る。


「ヴィンセント」


「はい?」


「見学していてくださいまし」


「……はい」

     ◇

 テニスが。


 皇女や親衛隊たちの間で広まり始めてから。


 少しして。


 アイリスは。


 また別の競技を見つけた。


「こちらも面白そうですわ!」


「今度は何です?」


 エルナが聞く。


「アメリカンフットボールというそうです!」


 球を持って走る。


 仲間が道を作る。


 相手は。


 身体を使って止める。


「……身体をぶつけてもよろしいのですか?」


 リゼットが食いついた。


「そこですの?」


「はい」


「…………」


 アイリスは少しだけ嫌な予感がした。


 だが。


 競技として見れば。


 確かに。


 騎士たちの訓練には向いている。


 走力。


 判断力。


 連携。


 陣形。


 相手の動きを読む力。


「訓練に使えそうですわね!」


「そうですね」


 エルナも頷く。


「試してみましょうか」


「はい!」

     ◇

 そして。


 騎士団の訓練場。


「では」


 ヴィンセントが球を持つ。


「行きますね」


「待ってくださいまし!」


 アイリスが確認する。


「身体強化は?」


「してません」


「絶対ですわね?」


「はい」


「では!」


 開始。


 ヴィンセントが走る。


「止めろ!」


 一人。


 真正面から飛びつく。


「ぐっ!」


 ヴィンセントの腰へ腕を回した。


 だが。


 止まらない。


「え?」


 そのまま。


 騎士をぶら下げて走る。


「二人で行け!」


「はい!」


 さらに二人。


 左右から飛びつく。


「うおっ!」


「止めろ!」


 止まらない。


「…………」


 アイリスが瞬きをする。


「まだ進んでおりますわね」


「進んでいますね」


 エルナも見ている。


 さらに。


 一人。


 二人。


 三人。


 ヴィンセントへ。


 次々と騎士たちがしがみつく。


「…………」


「…………」


 ヴィンセントの身体には。


 何人もの騎士がぶら下がっていた。


 それでも。


 普通に。


 前へ進んでいる。


「ヴィンセント!」


 アイリスが声を上げる。


「はい?」


「本当に身体強化してませんの!?」


「してませんよ」


「何人ぶら下がっておりますの!?」


 ヴィンセントが少しだけ後ろを見る。


「……分かりません」


「数えてくださいまし!」


「動いているので難しいですね」


「そういう問題ではありませんわ!」


 その時。


「あ」


 エルナが声を漏らした。


「どうしましたの?」


「リゼットが」


 見る。


 ヴィンセントの前方。


 そこに。


 リゼットが立っていた。


「私が止めます!」


「リゼット?」


 アイリスが目を丸くする。


「大丈夫ですの?」


「はい!」


 リゼットが構える。


 嬉しそうだった。


「ヴィンセント殿!」


「はい?」


「参ります!」


「どうぞ」


 ヴィンセントが走る。


 リゼットも。


 真正面から向かう。


 そして。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 リゼットが。


 ヴィンセントの胴へ。


 両腕を回した。


「…………」


「…………」


 そして。


 止まった。


「…………」


 アイリスが瞬きをする。


 エルナも。


 じっと見る。


「止まりました!」


 リゼットが嬉しそうに声を上げる。


「止めました!」


「……すごいですわね」


 アイリスが言う。


「ええ」


 エルナも頷く。


「ですが……」


「はい?」


 二人は。


 ヴィンセントを見る。


「ヴィンセント?」


「はい?」


「あなた」


「はい」


「リゼットくらいでしたら」


 アイリスが首を傾げる。


「普通に吹き飛ばせますわよね?」


「まあ……」


 ヴィンセントがリゼットを見る。


「はい」


「ですよね?」


「はい」


「…………」


 エルナが続ける。


「先ほどまで」


「はい」


「何人もの騎士がぶら下がっていても、止まりませんでしたよね?」


「そうですね」


「なのに……」


 二人の視線が。


 ヴィンセントへ集まる。


「リゼットが来た時だけ」


 エルナが。


 ゆっくりと言った。


「少し」


「…………」


「遅くなりませんでした?」


「…………」


 ヴィンセントが黙る。


 アイリスも気づいた。


「そうですわ!」


「…………」


「確かに少し、ゆっくりになっておりましたわ!」


「気のせいでは?」


「では、もう一度やってみましょう!」


「…………」


 しがみついていた騎士たちが離れ、二人から距離を取った。


 リゼットも腕をほどき。


 ぱっと顔を明るくする。


「もう一度よろしいのですか!?」


「もちろんです」


 ヴィンセントが即答した。


「…………」


「…………」


 アイリスとエルナが。


 ヴィンセントを見る。


「何ですか?」


「ヴィンセント」


「はい?」


 アイリスが。


 じっと目を細める。


「わざと……ですの?」


「…………」


 ヴィンセントは。


 答えなかった。


 リゼットだけが。


 何も気づかず。


 嬉しそうに。


 もう一度。


 構えていた。


「参ります!」


「どうぞ」


「…………」


「…………」


 アイリスとエルナは。


 顔を見合わせた。


 皇后の懐妊が発表された頃。


 二人は。


 ヴィンセントを見て。


 かなり優良なのではないか。


 そう思い始めていた。


 その評価は。


 間違ってはいない。


 たぶん。


 ただ。


 綺麗な女性には。


 どうにも。


 甘い。


 かなり。


 分かりやすく。


 甘かった。

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