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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第七章 西国ウェストリア王国戦
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第六十五話 そのほかの国々

 そして。


 西方で起こった出来事は。


 当然。


 アルセリア皇国とウェストリア王国だけの話では終わらなかった。


 北方。


 ノルディア王国――王宮。


「……もう一度申してみよ」


 王の声が、静かな執務室に響いた。


 その前には、一人の男が跪いている。


 アルセリア皇国へ潜り込ませていた密偵だった。


「はい」


 密偵が顔を上げる。


「ウェストリア軍は、およそ一万五千の兵を皇国領へ向けて進軍」


「うむ」


「しかし、その軍勢は――」


 一度。


 言葉を切る。


「アルセリア皇国第二皇女の護衛騎士、ヴィンセント一人によって進軍を阻止されました」


「…………」


 王が眉をひそめた。


「一万五千を?」


「はい」


「一人で?」


「はい」


「…………」


 王は隣に立つ重臣を見る。


 重臣も困惑していた。


「信じられぬ」


「ごもっともでございます」


「報告が誇張されているのではないか?」


「私も、当初はそう考えました」


「では?」


「複数の情報源から確認しております」


「…………」


「ウェストリア軍が大損害を受け、撤退したことは間違いございません」


「皇国軍が伏せられていたのでは?」


「確認できておりません」


「魔法部隊は?」


「同じく」


「では本当に……」


「はい」


 密偵が答える。


「ヴィンセント一人であったようです」


「…………」


 王は椅子にもたれた。


「なんなのだ、その男は」


「詳細は不明でございます」


「ウェストリアは、なぜそのような者がいる国へ攻め込んだのだ……」


「皇国軍の多くが南方へ派遣された機会を狙ったものと思われます」


「なるほど」


 王は頷く。


 通常なら。


 間違った判断ではない。


 敵国の戦力が別方面へ動いた。


 その隙に攻める。


 戦争としては、ごく普通の考えだ。


 ただ。


 そこに。


 一人で軍勢を止める護衛騎士がいることだけが。


 普通ではなかった。


「それで、ウェストリアは?」


「現在、皇国との停戦に向けた話がまとまりつつあります」


「どのような条件だ?」


「領土割譲などは行われず、今後は交易を拡大する方向で話が進んでいるとのこと」


「……交易?」


「はい」


「戦争をしておったのではないのか?」


「そのはずなのですが……」


「…………」


 王は少し考えた。


「皇国はウェストリアを従属させるつもりではないのか?」


「今のところ、そのような動きは確認できません」


「ふむ……」


 王の指が机を叩く。


「南はどうだ?」


「サウレア王国ですか?」


「うむ」


「皇国との交易は、さらに活発になっております」


 密偵は別の資料を取り出した。


「街道の整備も進み、物資の移動量も増加。皇国から伝わった技術や商品を利用した新たな産業も生まれているようです」


「サウレアは皇国に取り込まれたか?」


「いいえ」


「国力を失ったか?」


「むしろ――」


 密偵が僅かに間を置く。


「以前より発展しております」


「…………」


 王が黙る。


 皇国。


 南のサウレア。


 西のウェストリア。


 これまで。


 皇国の急速な発展を。


 周辺国の力を奪うものとして警戒する声もあった。


 だが。


 実際に皇国との交流を深めたサウレアは。


 弱体化していない。


 むしろ豊かになっている。


 そして今。


 戦争まで起こしたウェストリアとも。


 皇国は領土を奪うのではなく、交易を広げようとしている。


「…………」


 王は静かに息を吐いた。


「ウェストリアは」


「はい」


「随分と遠回りをしたものだな」


「……左様でございますな」


「我々まで同じ道を歩く必要はあるまい」


「陛下?」


 王は立ち上がった。


「南の発展は確認できた」


「はい」


「西とも、皇国は関係を深めるつもりらしい」


「そのようです」


「そして」


 王は少しだけ顔をしかめた。


「一万五千を一人で止める男までいる」


「…………」


「敵に回す理由がない」


「……ごもっともです」


「それどころか」


 王は地図へ目を向ける。


 北のノルディア。


 中央のアルセリア皇国。


 南のサウレア。


 西のウェストリア。


「皇国と協力することで、南が発展しているのであれば」


 指が北から中央へ動く。


「我が国にも、できることがあるはずだ」


「…………」


 重臣たちが顔を見合わせる。


 王は決めた。


「皇国との友好を、さらに深めようぞ」


「はっ」


「交易についても話を進めたい」


「では――」


「ああ」


 王が頷く。


「使者を送れ!」


「はっ!」


 重臣たちが一礼する。


「皇国が何を求めているのか。我が国から何を売れるのか。そして、向こうから何を取り入れられるのか」


「調査いたします」


「うむ」


 王は満足そうに頷いた。


 そして。


「くれぐれも」


「はい?」


「友好的にな」


「…………」


「西の真似はするな」


「はっ」


 その言葉だけは。


 妙に力強かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 こうして。


 南に続き。


 西。


 そして北までもが。


 アルセリア皇国との関係を深める方向へ動き始めた。


 ウェストリア王国が恐れていた。


 皇国を中心とした国々の繋がり。


 それは。


 戦争によって止まるどころか。


 戦争をきっかけに。


 さらに広がり始めていた。


 そして東方のエストリア王国は――


 なおも、動かなかった。


 南、西、北。

 皇国を取り巻く国々が次々と動き始める中。


 ただ静かに。

 その変化を見つめ続けていた

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