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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第七章 西国ウェストリア王国戦
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第五十九話 皇国の使者

 その日の午後。


「皇国より使者です!」


「……皇国?」


 将軍が顔を上げる。


「はい。第二皇女アイリス殿下より、書状を預かっているとのことです」


「通せ」


「はっ」


 ほどなくして。


 皇国の使者が天幕へ入ってきた。


「ウェストリア軍を率いる将軍閣下でいらっしゃいますか」


「そうだ」


「アルセリア皇国第二皇女、アイリス殿下よりお言葉を預かっております」


「…………」


 将軍の表情が険しくなる。


 来たか。


 敗北した軍に対する要求。


 降伏。


 武装解除。


 あるいは。


 賠償や領土。


「申せ」


「はい」


 使者が一礼する。


「アイリス殿下より――」


 そして。


「『まだ続けますの?』」


「…………」


 将軍が瞬きをした。


「……何?」


「『続けるのでしたら、こちらもお相手いたしますわ』」


「…………」


「『ですが、ウェストリア王国が軍を退くのであれば、皇国側から追撃するつもりはありません』」


 将軍は黙って聞いている。


「『これ以上、兵を傷つける必要もありませんわよね?』」


「…………」


「『一度停戦して、お話ししませんこと?』」


「…………」


 使者が一礼した。


「以上です」


「……降伏しろ、ではないのか?」


「はい」


「武装解除は?」


「求めておりません」


「兵を捕虜として差し出せとも?」


「そのような要求はございません」


「…………」


「ウェストリア軍が国境より退き、これ以上の軍事行動を停止するのであれば、皇国側も戦闘を停止いたします」


「…………」


 将軍は考える。


 こちらには大量の負傷者がいる。


 装備も失った。


 補給にも被害が出た。


 対して。


 皇国側。


 というより。


 あの男。


「…………」


 将軍の頬が僅かに引きつる。


 続ける。


 そう答えれば。


 また来る。


 金色の鐘鎚を持って。


 あの男が。


「…………」


 ごぉぉぉん――。


 存在しないはずの鐘の音が聞こえた気がした。


「……停戦を受ける」


 将軍が答えた。


「承知いたしました」


「ただし」


 将軍が使者を見る。


「これはウェストリア王国の降伏ではない」


「もちろんです」


 使者はあっさり頷いた。


「アイリス殿下も、降伏を求めてはおられません」


「…………」


「正式な条件については、今後の交渉で決めればよいとのことです」


「そうか」


 将軍は息を吐いた。


「では、そのように伝えてくれ」


「承知いたしました」


 使者が一礼する。


 そして、天幕を出ていった。


「…………」


 将軍は椅子にもたれた。


「停戦……か」


「よろしかったので?」


 副官が尋ねる。


「では聞くが」


「はい」


「続けたかったか?」


「…………」


 副官は黙った。


「私は嫌だ」


「…………」


「帰るぞ」


「……はい」


「負傷者をまとめろ。動けない者から運ぶ」


「はっ」


「皇国側が追撃しないというのなら、今のうちに国境から離れる」


「承知いたしました」


 将軍は立ち上がった。


 その時。


 視界の端に。


 まだ床に這いつくばっている工作員が見えた。


「…………」


「…………」


「その者も運んでやれ」


「はっ」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 西方国境砦。


「停戦を受け入れたそうですわ!」


 報告を受けたアイリスが、嬉しそうに振り返った。


「それは良かったですね」


 ヴィンセントも笑う。


「ええ!」


 アイリスが頷く。


「これ以上戦っても、誰も得をしませんもの」


「そうですね」


「ウェストリア軍は国境から退くそうです」


 親衛隊長が報告する。


「皇国側は追撃を行わず、正式な停戦交渉については、双方で日程を調整することになります」


「分かりましたわ」


 アイリスは満足そうに頷いた。


「では、ひとまず終わりですわね!」


「はい!」


「ヴィンセントもご苦労様でした」


「ありがとうございます!」


「…………」


 現地司令官が二人を見る。


 終わり。


 確かに。


 終わった。


 ウェストリア軍、約二万。


 皇国軍の一部が南方へ派遣された隙を狙った、大規模侵攻。


 それが。


 数日も経たず。


 ほとんど一人の護衛騎士によって止められた。


「…………」


 司令官には。


 まだ少し。


 現実感がなかった。


「ところで」


 アイリスがヴィンセントを見る。


「はい?」


「あちらで何をされていたのです?」


「…………」


「軍が撤退したあとですわ」


「ああ」


 ヴィンセントが頷く。


「女性の方とお会いしていました」


「…………」


 親衛隊員たちの視線が、一斉にヴィンセントへ向いた。


「女性?」


「はい」


「どなたですの?」


「さあ?」


「さあ!?」


「お名前を聞くのを忘れていました」


「あなたという人は!」


「でも、とてもお綺麗な方でしたよ」


「…………」


 アイリスの目が細くなる。


「それで?」


「はい?」


「何をしていたのです?」


「…………」


 ヴィンセントは少し考えた。


「楽しく過ごしていました」


「そこを詳しく聞いておりますの!」


「?」


「ヴィンセント!」


「はい!」


 戦争は。


 ひとまず終わった。


 西方国境砦には。


 久しぶりに。


 いつもの騒がしさが戻りつつあった。


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