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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第七章 西国ウェストリア王国戦
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第五十六話 金色の閃光

「…………」


 ヴィンセントは動かなかった。


 俯いたまま。


 金色の鐘鎚を握っている。


 ウェストリア兵が近づいてくる。


 五十歩。


 三十歩。


 二十歩。


「…………」


 そして。


 ヴィンセントの手が。


 鐘鎚を。


 ぎゅっ、と握り直した。


 ごぉぉぉん――。


 誰も振っていないはずの鐘鎚から。


 低い鐘の音が響いた。


 ごぉぉぉん――。


 低い鐘の音が、戦場に響いた。


「…………」


 ウェストリア兵たちが足を止める。


 ヴィンセントは、まだ俯いたままだった。


「どうした?」


「術は効いているのではないのか?」


「そのはずだ!」


 指揮所で、魔術師が術式を確認する。


「精神への干渉は続いております!」


「ならば進め!」


 将軍が命じた。


「今のうちに奴を拘束しろ!」


 命令を受け。


 前衛の兵士たちが、再びヴィンセントへ近づいていく。


 十歩。


 五歩。


 そして。


 一人の兵士が、ヴィンセントへ手を伸ばした。


 その瞬間だった。


 ヴィンセントの姿が消えた。


「え――」


 金色の光が走る。


 次の瞬間。


 前衛の兵士たちが、一斉に宙を舞った。


「なっ!?」


 ごぉぉぉん――!


 鐘の音。


 直後。


 別の場所で金色の閃光が走る。


 ごぉぉぉん――!


「ぐあっ!」


「何だ!?」


「どこだ!?」


「見えない!」


 兵士たちが振り返る。


 だが。


 そこには、もう誰もいない。


 ごぉぉぉん――!


 今度は左翼。


 兵士たちが吹き飛ぶ。


「左だ!」


「左翼にいるぞ!」


「違う!」


「右翼だ!」


 金色の閃光が走る。


 右翼の部隊が崩れた。


「後ろだ!」


「後方に――」


 ごぉぉぉん――!


 補給用の荷馬車が吹き飛んだ。


「…………」


 将軍が固まる。


「何が……」


 金色の光。


 鐘の音。


 それしか分からない。


 ヴィンセントの姿が見えない。


 ただ。


 金色の閃光だけが、一万五千の軍勢の中を縦横無尽に走り回っている。


 ごぉぉぉん――!


 ごぉぉぉん――!


 ごぉぉぉん――!


 鐘の音が鳴るたびに。


 兵士が飛ぶ。


 盾が飛ぶ。


 槍が飛ぶ。


 荷馬車がひっくり返る。


 陣形が崩れる。


「止めろ!」


 将軍が叫ぶ。


「魔術師! 奴の動きを止めろ!」


「何をですか!?」


「奴だ!」


「無理です!」


「精神操作しているのだろう!」


「しています!」


「では止めろ!」


「そういう術ではありません!」


「ならば解除しろ!」


「今やっています!」


 魔術師たちが慌てて術式へ手を伸ばす。


 だが。


 ごぉぉぉん――!


「ひっ!」


 金色の閃光が、指揮所のすぐ横を通り過ぎた。


 地面が弾ける。


 天幕が吹き飛ぶ。


「…………」


 将軍の顔から血の気が引いた。


「なんなのだ……」


 また光る。


 ごぉぉぉん――!


「精神を乱せば弱くなるのではなかったのか!?」


「普通はそうです!」


「では、これはなんだ!」


「分かりません!」


 分からない。


 魔術師にも。


 将軍にも。


 誰にも分からなかった。


 ただ一つ分かるのは。


 術を掛ける前より。


 明らかにひどくなっている。


「解除しろ!」


「やっています!」


「早くしろ!」


「術式が――」


 魔術師が顔を上げる。


「対象の動きが速すぎて、状態の確認ができません!」


「そんなもの知らん!」


 ごぉぉぉん――!


 鐘が鳴る。


 遠くで攻城兵器が吹き飛んだ。


「…………」


 将軍の口が開いたままになる。


 さらに。


 ごぉぉぉん――!


 騎兵隊が崩れる。


 馬だけが驚いて逃げていく。


「退け!」


 ついに誰かが叫んだ。


「退却しろ!」


「待て!」


 将軍が振り返る。


「勝手に退くな! 陣形を――」


 ごぉぉぉん――!


「無理です!」


「陣形など組めるか!」


「どこにいるのかすら分からん!」


 恐慌が広がる。


 前も。


 後ろも。


 右も。


 左もない。


 どこへ逃げても。


 金色の閃光が走る。


 そして。


 鐘が鳴る。


「…………」


 将軍は。


 ようやく理解し始めていた。


 自分たちは。


 あの男を止めるために、精神操作を使った。


 違う。


 止めたのではない。


 あの男の中にあった何かを。


 自分たちで外してしまったのだ。


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