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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第六章 西国ウェストリア王国
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第五十二話  国境都市へ

 西方国境都市への道中


 西方国境都市へ向かう馬車は、順調に街道を進んでいた。


 以前、西方を視察した時とは違う。


 馬車の揺れは少なく。


 道幅も広く。


 すれ違う荷馬車の数も、明らかに増えていた。


「…………」


 親衛隊の一人が、馬車の中を見回す。


 用意された飲み物。


 軽食。


 そして窓の外には、のどかな景色。


「……ピクニックですか?」


「何を言っていますの?」


 アイリスが振り返る。


「西方国境都市の視察ですわ!」


「分かっております」


「それに、ウェストリアの動きも確認しなければなりません!」


「はい」


「重要な公務ですわ!」


「はい」


「アイリス殿下、こちらをどうぞ」


「ありがとうございます、ヴィンセント!」


 ヴィンセントから菓子を受け取る。


「…………」


 親衛隊員は黙った。


 やはり少しピクニックに見える。


「それにしても」


 アイリスが窓の外を見る。


「道中も、ずいぶん楽になりましたわね」


「以前とは全然違いますね」


 ヴィンセントも外を見る。


 以前、西方を訪れた時。


 皇都周辺を離れれば、街道はまだ十分に整備されていなかった。


 馬車は大きく揺れ。


 場所によっては進む速度も落ちた。


 しかし今は違う。


 あの時に始めた道路整備は、その後も続けられていた。


「見てくださいまし!」


 アイリスが窓の外を指差す。


「また建物が増えていますわ!」


 街道沿いには、新しい建物がいくつも見える。


 宿。


 食堂。


 商店。


 荷物を保管する倉庫。


 人が行き交うようになれば、そこに商売が生まれる。


 商売が生まれれば、人が集まる。


「仕事も増えたそうです」


 親衛隊長が答える。


「街道沿いの宿や商店だけではありません。荷運びや道路の維持、それに商人を相手にする仕事も増えていると」


「良いことですわ!」


「人通りが増えたことで、街道の警備も強化されました。以前より盗賊も減っております」


「治安まで良くなりましたのね!」


 アイリスは満足そうに頷いた。


「やはり道路を作って正解でしたわ!」


「勝手に作った道路ですけどね」


「必要でしたもの!」


「はい」


 ヴィンセントは笑っている。


 そのまま馬車は、整備された街道を西へと進んでいった。


 数日後。


「到着ですわ!」


 西方国境都市。


 以前にも訪れたその都市へ、アイリスたちは再び足を踏み入れた。


「まあ……」


 アイリスが周囲を見回す。


「以前より賑やかになっておりますわね」


 大通りを荷馬車が行き交っている。


 商人たちの声。


 荷物を運ぶ人々。


 新しく建てられた店。


 以前よりも明らかに人の数が多い。


「西方への物流が増えた影響かと」


 案内役の役人が説明する。


「皇都から運ばれてくる品も増えました。それに、こちらから皇都方面へ送る品もございます」


「なるほど」


 アイリスが頷く。


「道路ができれば、物を運びやすくなりますものね」


「はい。商人たちからも好評です」


「それは何よりですわ!」


 アイリスは嬉しそうだった。


 自分たちが始めたことが。


 少しずつ。


 確かに皇国を変えている。


 その後も市場や商業区を見て回り。


 街道の状況を確認し。


 最後に、一行は国境を守る砦へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 西方国境砦。


「アイリス殿下。ようこそお越しくださいました」


「ご苦労様ですわ!」


 現地の司令官に迎えられ、アイリスたちは砦の中へ入る。


 兵舎。


 倉庫。


 城壁。


 見張り台。


 一通りの施設を確認したあと。


 一行は、国境を見渡すことのできる場所へ案内された。


「あちらがウェストリアです」


「…………」


 アイリスが遠くを見る。


 その先。


 国境を越えた向こう側に、ウェストリア王国の領土が広がっている。


「最近、動きがあると聞いておりますわ」


「はい」


 司令官の表情が少し険しくなる。


「ここしばらく、ウェストリア側で兵の移動が増えております」


「どの程度ですの?」


「正確な数までは掴めておりません。ただ、通常の訓練にしては規模が大きい」


「…………」


「物資の輸送も増えております」


 アイリスの表情から、先ほどまでの明るさが少し消えた。


「お父様の懸念は、正しかったようですわね」


「現時点で、侵攻と断定できるだけの情報はございません」


「ですが、警戒は必要ですわ」


「はい」


「ヴィンセント」


「はい?」


「何かあれば、お願いしますわね」


「もちろんです」


「…………」


 現地司令官がヴィンセントを見る。


 あまりにも軽いやり取りだった。


 何かあれば。


 お願いします。


 まるで、ちょっとした用事でも頼むような口調である。


「大丈夫ですわ!」


 アイリスが笑う。


「ヴィンセントがおりますもの!」


「…………」


 司令官は返事に困った。


 だが。


 この男について聞いている噂を思えば。


 強く否定することもできなかった。

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