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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第六章 西国ウェストリア王国
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第四十五話 西国ウェストリア王国②

  ウェストリア王国――王宮、執務室。


 密偵からの報告を聞き終え、室内には重い沈黙が落ちていた。


 皇国で進む道路整備。


 それによって活発になりつつある都市間の物流。


 新たに生まれた料理や化粧品、酒といった商品。


 そして南国サウレア王国との急速な関係強化。


「……改めて整理すると、少々厄介だな」


 参謀が机の上の資料へ目を落とす。


「皇国だけが発展しているのなら、まだいい」


 別の資料へ手を伸ばす。


「だが、南国まで皇国との交易によって豊かになり始めている」


「はい」


「道路が整えば、人だけではなく物資の移動も速くなる」


「その通りです」


「平時には商人が使う。だが――」


 参謀が指先で資料を叩いた。


「戦時には兵と物資を運ぶ道にもなる」


 誰も答えない。


「料理、化粧品、酒……一つ一つは軍事力とは関係ないように見える」


 参謀は小さく息を吐く。


「だが、それらが売れれば金になる」


「…………」


「金があれば、さらに国を豊かにできる」


「はい」


「そして豊かになった皇国が、さらに南国を豊かにする」


 参謀が椅子へ深く腰掛ける。


「……このまま何年も続けば、どうなる?」


 重臣の一人が答える。


「我が国との差は……さらに広がるかと」


「そういうことだ」


 今すぐ何かが起こるわけではない。


 皇国がウェストリアへ攻め込むという情報もない。


 むしろ、皇国は南国との友好を深め、国内の整備に力を入れている。


 だが――だからこそ。


「皇国がこれ以上強大になることは、我が国にとって看過できん」


 参謀の言葉に、室内の空気が重くなる。


「引き続き情報を集めろ。特に軍事面だ」


「はっ」


「それと――」


 参謀が何かを思い出した。


「例の護衛騎士二人について、あれから何か報告は?」


「ございます」


「ほう」


 参謀が身を乗り出す。


 以前の調査では、結局あの男の戦闘能力について、まともな情報はほとんど得られなかった。


 代わりに得られたのは、皇女たちの世話を甲斐甲斐しく焼いているだとか、女性から頼まれれば嬉々として雑用をするだとか、男から頼まれれば拒否することがあるだとか。


 意味の分からない情報ばかりだった。


「今度こそ、まともな報告だろうな?」


「……はい」


 一瞬。


 密偵の返事が遅れた。


「…………」


「…………」


「申せ」


「はっ」


 密偵が報告書へ視線を落とす。


「例の男と女騎士が、訓練を行っていたとのことです」


「ほう」


 ようやく戦闘に関する情報が出た。


「男が、例の鐘のような武器を使用していたそうです」


「あの妙な武器か」


「はい」


「それで?」


「女騎士へ攻撃しました」


「結果は?」


「……ゆっくりと浮き上がりました」


「…………」


 参謀が密偵を見る。


「何が?」


「女騎士が」


「…………」


「ゆっくりと?」


「はい」


「…………」


 参謀は少し考えた。


「吹き飛んだのではなく?」


「浮き上がったそうです」


「…………」


「その際、周囲に金色の光が現れたとの報告も」


「金色の光?」


「はい」


「さらに、羽のようなものが周囲に舞い散った、と」


「…………」


 参謀の眉間に皺が寄っていく。


「そして――」


「まだあるのか?」


「ほぼ同時刻、近隣にある太陽教の教会で鐘が鳴ったとのことです」


「…………」


「誰も鐘を鳴らしていないにもかかわらず」


「…………」


「…………」


「…………」


 長い沈黙。


 参謀はゆっくりと机の端へ視線を向けた。


 そこには、最近皇国から流れてくるようになった酒の瓶が置かれている。


「……皇国の酒でも飲みすぎたのか?」


「飲んでおりません」


「何を言っておるのだ、お前は……」


「報告された内容を、そのままお伝えしております」


「女騎士を武器で殴ったら、金色に光りながらゆっくり浮き上がって、羽が舞い散って、教会の鐘が勝手に鳴ったと?」


「はい」


「…………」


「…………」


「もうよい」


「はっ」


 参謀は額を押さえた。


 皇国について調べれば調べるほど、意味の分からない情報が増えていく。


 道路。


 交易。


 南国との関係。


 酒。


 化粧品。


 球を棒で打つ軍事訓練。


 そして――光りながら浮き上がる女騎士。


「……本当に何なのだ、あの国は」


 誰も答えることはできなかった。


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