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護衛騎士?ヴィンセント  作者: れすた
第五章 縁談&スポーツ
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第三十六話 帰還報告

 西方視察を終え、皇都へ戻った一行。


 皇帝への報告が行われていた。


「――ということで、視察そのものは問題なく終了いたしましたわ」


 エルナが一通りの報告を終える。


 続いてアイリスが胸を張った。


「それと、お父さま!」


「なんだ?」


「また道を勝手に作りましたわ!」


「…………」


「それから、料理のレシピもいくつか現地へお渡ししましたわ!」


「…………そうか」


 皇帝は頭を抱えそうになる。


 だが、アイリスは止まらない。


「ですから、皇都の周辺もさらに整備いたしましょう!」


「どの辺りを?」


「北と東ですわ!」


 アイリスは当然のように言った。


「北方面にも、東方面にも道路を整備して、物流を良くして……料理も広めていきましょう!」


「待て」


 皇帝が手を上げる。


「危険性は?」


「ヴィンセントがおりますもの!」


 即答だった。


「…………」


 皇帝がヴィンセントを見る。


 当の本人は、いつものように穏やかな顔をしている。


「もちろん、私にできることでしたら」


「いや、一人で四方面は……」


「今、明確に敵対しているのは西だけですわ!」


 アイリスが指を一本立てる。


「北と東、それに南は友好的ですもの。でしたら、今のうちに整備しておくべきですわ!」


 皇帝は黙った。


 確かに理屈は通っている。


 西方にはウェストリアという明確な懸念がある。


 だが、それ以外の方面まで敵として警戒する必要はない。


 むしろ今のうちに国内の交通網を整え、各地域との流通を活発にしておくことには大きな意味がある。


「……なるほどな」


 皇帝が息を吐く。


「では、北と東の整備計画を立てるか」


「やりますわよね?」


「やる」


「さすがお父さまですわ!」


 アイリスが嬉しそうに笑う。


 だが、そこで何かを思い出したように首を傾げた。


「そういえば……」


「まだ何かあるのか?」


 皇帝が警戒するように尋ねる。


「西方視察からの帰りに、ウェストリアの者たちに襲われましたでしょう?」


「ああ」


「今回はわたくしたちがその場におりましたから、すぐに対処できましたけれど……」


 アイリスは少し考える。


「もし西方で何か起きた時、皇都へ知らせが届くまでには、どれくらい掛かりますの?」


「早馬を使っても、数日は掛かるだろうな」


「数日も?」


「ああ。そこから兵を動かすとなれば、さらに時間が掛かる」


「それでは遅すぎますわ!」


 アイリスが眉をひそめる。


「せっかく道路を整備して、兵士や物資を早く運べるようにしても、何か起きたことを知るのが遅ければ意味がありませんわ!」


「それは、そうだが……」


 皇帝も否定できなかった。


 どれほど街道を整備しても、情報を運ぶ手段は馬や人のままだ。


 異変を知るまでに数日。


 命令を届けるまでに、また数日。


 その遅れが致命的になることもある。


「ヴィンセント?」


「はい?」


「遠くの場所へ、もっと早く知らせを送れるものはありませんの?」


「探してみましょうか」


「お願いしますわ!」


 ヴィンセントが板を取り出す。


 アイリスとエルナも、その画面を覗き込んだ。


「遠くへ……早く……連絡を……」


 ヴィンセントが板を操作していく。


 しばらくして、一つの項目が表示された。


「あ、これでしょうか」


「何ですの?」


「有線通信、とあります」


「ゆうせんつうしん?」


 アイリスが説明を読み始める。


「金属の線を遠くまでつないで……その線を通じて、情報を送る?」


「そうみたいですね」


「まあ!」


 アイリスの目が輝く。


「これなら皇都と西方都市を線でつないで、何か起きればすぐに知らせを送れますのね!」


「はい。北や東、それに南方の都市ともつなげられるようです」


「素晴らしいですわ!」


 アイリスはさらに説明を読み進める。


 そして、ふと目を止めた。


「……あら?」


「どうしました?」


「この装置、電気で動きますのね?」


「そのようです」


「電気……」


 アイリスは少し考えたあと、顔を上げる。


「以前、技術部の皆さんに研究をお願いしたものですわね!」


「ドライヤーを動かしていたものですね」


 エルナも思い出したように頷く。


「ええ!」


 アイリスが板の説明へ視線を戻す。


「でしたら、ちょうどいいですわ!」


「何がだ?」


 皇帝が尋ねる。


「電気の研究と合わせて、この有線通信も進めましょう!」


「待て」


 皇帝がすぐに止めた。


「技術部は、まだ電気そのものを研究している段階ではなかったか?」


「ですからですわ!」


 アイリスは胸を張った。


「ただ電気を調べるだけではなく、何に使うのかが分かった方が研究も進めやすいでしょう?」


「…………」


「それに、道路で人と物を運び、有線通信で情報を運ぶのですわ!」


 アイリスはさらに続ける。


「何か起きたことがすぐに分かれば、整備した道路を使って兵士も早く向かえますもの。両方あってこそですわ!」


「……なるほどな」


 皇帝は考え込んだ。


 理屈は通っている。


 通っているからこそ、止めにくい。


「まずは皇都と西方都市をつなぎましょう!」


 アイリスは勢いよく続ける。


「西方で何かあれば、すぐに皇都へ知らせを送れるようにするのですわ!」


「もう敷設するつもりなのか……」


「まずは技術部の皆さんに調べていただきますわ!」


「そこは分かっているのだな」


「もちろんですわ!」


 皇帝は小さく息を吐いた。


 西方視察の報告を聞いていただけのはずだった。


 それがいつの間にか、道路網の拡張に加え、有線通信網の敷設まで進める話になっている。


「……分かった」


「よろしいのですか?」


「ああ。以前から進めている電気の研究と合わせて、技術部に調べさせよう」


「ありがとうございます、お父さま!」


 アイリスが嬉しそうに笑う。


 その隣で、ヴィンセントが板を操作していた。


「では、有線通信に必要な資料と、見本になりそうな装置を探しておきますね」


 皇帝はヴィンセントを見る。


「……お前は少し休め」


「え?」


「西方から帰ってきたばかりだろう」


「でも――」


「休め」


「……かしこまりました」


 珍しく皇帝の方がヴィンセントを止めた。


 アイリスとエルナは顔を見合わせる。


「お父さま、ヴィンセントに甘くありません?」


「いや、これは普通だ」


 皇帝は即答した。


 そして心の中で付け加える。


 ――こいつに全部任せてはいけない。


 強いからこそ、なおさらだ。

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