第44章 白と黒の導者
終焉の地エンデ・ロード。
白い大地の中央で、二人の導者が向かい合う。
アリア。
そして、虚界王に仕える第三の導者――イリス。
互いによく似た顔立ち。
だが、その瞳に宿る光は正反対だった。
「久しぶりですね、お姉様。」
イリスは穏やかに微笑む。
その笑顔は優しかった。
だからこそ、アリアの表情は苦しそうに歪む。
「イリス……。」
レイは二人を見比べた。
「本当に姉妹なのか?」
アリアは小さく首を横に振る。
「血のつながった姉妹ではありません。」
「私たちは同じ『門の守護機構』から生まれた存在です。」
イリスが続ける。
「役割は違っても、私たちは同じ日に生まれました。」
レイは驚きを隠せなかった。
「そんなことが……。」
イリスは静かにアリアを見つめる。
「覚えていますか、お姉様。」
「私たちは最初、同じ使命を与えられました。」
「世界を導くこと。」
「ですが……。」
その笑みが消える。
「人間を知れば知るほど、私は理解しました。」
黒い魔力が溢れ出す。
「彼らは争い、裏切り、欲望のために世界を壊し続ける。」
「だから私は選びました。」
「一度すべてを終わらせ、新しい世界を作ることを。」
アリアは悲しそうに目を閉じた。
「だから虚界王に……。」
「ええ。」
イリスは迷いなく答える。
「私は私の意思で、あのお方に仕えています。」
レイが一歩前へ出る。
「それがお前の答えか。」
「そうです。」
「なら俺は否定する。」
レイは真っ直ぐイリスを見る。
「確かに人間は間違える。」
「でも、それでも立ち上がる。」
「俺は旅の中で何度も見てきた。」
リュミエール。
クロノシティ。
ティル。
世界樹ユグラシア。
これまで出会った人々の笑顔が脳裏をよぎる。
「守る価値はある。」
その一言に、イリスは少しだけ寂しそうに笑った。
「……やはり、あなたは歴代の選定者とは違いますね。」
すると突然、黒い翼が大きく広がる。
轟音とともに、終焉の地が闇に覆われた。
「ですが。」
「その希望を、私は壊します。」
イリスが杖を掲げる。
「《終焉権限・ブラックゲート》」
空間が裂けた。
黒い門が無数に現れる。
その中から現れたのは、虚界の魔物ではなかった。
「……え?」
レイは息を呑む。
そこに立っていたのは――。
幼い頃の自分。
事故で亡くなった母。
そして父の姿だった。
「レイ。」
母が優しく笑う。
「帰っておいで。」
思わず足が動きそうになる。
だが、その肩を誰かが掴んだ。
アリアだった。
「見てはいけません!」
その声でレイは我に返る。
母の姿が黒い霧へ変わる。
「幻覚か……!」
イリスは静かに言う。
「これはあなたの記憶。」
「最も会いたい人。」
「最も後悔している過去。」
「導者は心を試す存在でもあるのです。」
レイは拳を握り締めた。
胸が痛い。
今でも母に会いたい。
その気持ちは本物だった。
アリアはレイの前に立つ。
「レイ。」
「あなたは前へ進むと決めました。」
「過去ではなく、未来を選ぶ人です。」
その言葉を聞いた瞬間、羅針盤が輝き始めた。
《新たな選択を確認》
────────────── 【心の試練】
① 過去へ手を伸ばす
② 幻を拒絶し、前へ進む
③ アリアの手を取り、未来を選ぶ ──────────────
レイは静かに笑う。
「もう答えは決まってる。」
迷いなく光の文字へ手を伸ばした。
③ アリアの手を取り、未来を選ぶ。
その瞬間、羅針盤から眩い光が放たれた。
幻は一瞬で消え去る。
アリアの手をしっかり握ったレイは、イリスを見据えた。
「俺は過去を忘れない。」
「でも、生きるのは未来だ。」
アリアも微笑む。
「ありがとうございます、レイ。」
イリスは目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……やはり、お姉様は良い選定者に出会えたのですね。」
だが次の瞬間、その瞳は再び鋭く光る。
「ならば、その未来ごと断ち切ります!」
白と黒の導者の力が激突し、終焉の地全体が激しく震え始めた。
最後の戦いは、さらに激しさを増していく。




