第40章 世界の果てへ続く羅針盤
世界樹ユグラシアでの戦いから三日。
レイたちは世界樹の根元に広がる古代都市で休息を取っていた。
だが――。
平穏は長く続かなかった。
朝日が昇った瞬間、レイの腕の紋章が激しく輝いたのだ。
「うおっ!?」
思わず腕を押さえる。
隣で朝食を食べていたアリアが立ち上がった。
「レイ!」
紋章から放たれた光は空へ伸びる。
そして。
世界中の空へ巨大な光の線が走った。
まるで。
ひとつの巨大な羅針盤が世界全体を覆うように。
「これは……」
セレスが青ざめる。
「始まったのですね」
「何がだ?」
「最終段階です」
全員の空気が変わる。
ノアですら笑みを消していた。
「世界の果てが開く」
静かに告げられた言葉。
レイは眉をひそめた。
「世界の果て?」
「世界が生まれた場所」
セレスが言う。
「そして虚界が最初に侵入した場所でもあります」
その瞬間。
羅針盤が新たな文字を浮かべた。
──────────────
【最終門座標確定】
目的地
《終焉の地エンデ・ロード》
選定者の到達を要請します
──────────────
全員が息を呑んだ。
ついに。
最後の目的地が現れたのだ。
◇
その日の夜。
レイは一人で都市の外にいた。
世界樹を見上げる。
静かな夜だった。
「眠れませんか?」
隣にアリアが現れる。
「まあな」
レイは苦笑した。
「ここまで来たんだなって思って」
「はい」
アリアも空を見上げる。
「最初は神殿でした」
「懐かしいな」
「レイは右も左も分からなくて」
「うるさい」
「灰喰いに追いかけられて」
「あれは忘れろ」
アリアがくすりと笑う。
しばらく二人で笑った。
だが。
やがて沈黙が訪れる。
「アリア」
「はい」
「終わったらどうなるんだろうな」
その問いに。
アリアは答えられなかった。
導者。
選定者。
門。
世界。
その全てが終わった後。
二人がどうなるのか。
誰も知らない。
「……怖いです」
アリアが小さく言った。
「終わるのが?」
「違います」
震える声。
「レイがいなくなるのが」
レイは目を見開く。
アリアは俯いていた。
「選定者の物語には終わりがあります」
「……」
「でも私は」
拳を握る。
「まだ、終わってほしくない」
その言葉は。
導者ではなく。
一人の少女の本音だった。
レイはゆっくり笑った。
「俺もだ」
アリアが顔を上げる。
「え?」
「まだ終わりたくない」
風が吹く。
「だから帰ろう」
「レイ……」
「全部終わった後も」
レイは真っ直ぐ言った。
「お前と一緒に歩く未来を選ぶ」
アリアの瞳に涙が浮かぶ。
だが今度の涙は悲しみではなかった。
「……はい」
小さく頷く。
その瞬間だった。
空が揺れた。
ゴォォォォォォ――――ッ!!
世界全体が震える。
「!?」
レイたちは立ち上がる。
空の中央。
巨大な裂け目が開いていた。
これまでの綻びとは比較にならない。
大陸一つが飲み込まれそうな巨大な亀裂。
そして。
その奥から現れた。
巨大な眼。
世界よりも巨大な漆黒の瞳。
それがレイを見下ろしていた。
同時に羅針盤が警告を発する。
──────────────
緊急警告
終焉存在を確認
名称
《虚界王アザ=グラド》
封印率 0%
危険度 測定不能
──────────────
誰も言葉を発せない。
世界が静まり返る。
そして。
空の向こうから声が響いた。
『見つけたぞ』
それは世界全体に響く声だった。
『最後の選定者』
レイの背筋が凍る。
『我は待っていた』
巨大な眼が細められる。
『門を開く者よ』
世界が悲鳴を上げる。
『終焉を始めよう』
轟音。
光。
闇。
世界樹が揺れる。
そしてレイの羅針盤は。
真っ直ぐ北を指した。
その先にあるのは――。
終焉の地エンデ・ロード。
最後の門。
最後の選択。
世界の運命を決める戦いが、ついに始まろうとしていた。




