第39章 虚界王の使徒
◆空から来た死
吹雪の中。
アルヴェインは静かに立っていた。
ただ立っているだけ。
それなのに周囲の空気が重い。
雪は彼の身体を避けるように落ちていく。
まるで世界そのものが彼を拒めないかのようだった。
「我が王がお呼びです」
再び同じ言葉を口にする。
レイは前へ出た。
「断る」
即答だった。
アルヴェインは少しだけ目を細める。
「そうですか」
その声には怒りもない。
落胆もない。
まるで最初から分かっていたような反応だった。
◆圧倒的な差
次の瞬間。
アルヴェインの姿が消えた。
「っ!?」
レイの本能が警鐘を鳴らす。
咄嗟に羅針盤を構える。
ギィィィン!!
凄まじい衝撃。
見えない何かがぶつかった。
レイは十数メートル吹き飛ばされる。
「がっ……!」
雪原を転がる。
肺の空気が一気に抜けた。
「レイ!」
アリアが叫ぶ。
だが。
アルヴェインはそこから動いていない。
最初の場所に立ったままだった。
「今のは……」
セレスの顔色が変わる。
「空間転移?」
「違う」
アリアが震える声で言う。
「時間加速です」
◆虚界王直属
アルヴェインは静かに語る。
「私は王の第一使徒」
その周囲に黒い光が集まる。
「世界崩壊まで残り百七十三日」
レイたちは息を呑む。
「王は待っておられます」
銀の瞳がレイを見る。
「選定者」
「……」
「あなたなら理解できるはずだ」
その言葉に。
レイの紋章が反応した。
熱い。
異常なほど熱い。
◆狙いはアリア
アルヴェインの視線が移る。
アリアへ。
その瞬間。
彼女の身体が震えた。
「導者」
静かな声。
「お前を回収する」
レイが眉をひそめる。
「回収?」
アルヴェインは頷いた。
「導者は王の一部だからだ」
空気が凍る。
アリアの顔色が真っ白になった。
「な……」
「そんな……」
セレスも絶句する。
◆衝撃の事実
「どういうことだ!」
レイが叫ぶ。
アルヴェインは淡々と答えた。
「導者は門の守護機構」
「それは知ってる」
「門は虚界王を封印するために作られた」
「それも聞いた」
「では理解できるだろう」
アルヴェインの声は冷たい。
「封印を維持するためには王の力が必要だ」
レイの背筋が冷える。
「まさか……」
「導者とは」
アルヴェインが告げる。
「虚界王から切り離された力の欠片だ」
◆崩れるアリア
アリアが後退する。
「違う……」
震える声。
「違う……!」
だが。
アルヴェインは否定しない。
「お前は王の欠片だ」
「やめて……」
「だから王はお前を呼ぶ」
「やめて……!」
アリアの紋章が暴走し始めた。
光が溢れる。
身体が透ける。
苦しそうな表情。
「アリア!」
レイが駆け寄る。
◆ユキナの力
その時だった。
ユキナが前へ出る。
「うるさい」
全員が驚く。
彼女は巨大な槍を構えていた。
いつの間に取り出したのか分からない。
白銀の槍。
古代文字が刻まれている。
「導者を泣かせるな」
ユキナの瞳が黄金に染まる。
吹雪が渦を巻いた。
「北方守護術――」
雪が集まる。
巨大な狼の姿を形成する。
「《神狼フェンリル》」
轟音。
神話級の魔力が解放された。
◆激突
フェンリルがアルヴェインへ襲いかかる。
雪原が砕ける。
山が震える。
だが。
アルヴェインは片手を上げただけだった。
バチィィィッ!!
空間が裂ける。
巨大な狼が吹き飛んだ。
「なっ……!?」
ユキナの目が見開かれる。
神狼が。
一撃で。
◆地図
しかし。
その一瞬で十分だった。
ユキナは懐から何かを取り出す。
一枚の古い羊皮紙。
「レイ!」
投げ渡される。
レイは反射的に受け取った。
「それは――」
ユキナが叫ぶ。
「終焉の門への地図だ!」
全員の表情が変わる。
◆撤退
セレスが即座に判断する。
「逃げるわよ!」
「でも!」
「今は勝てない!」
事実だった。
全員で戦っても。
アルヴェインには届かない。
レイも理解している。
悔しいほどに。
◆虚界王の言葉
撤退を始める直前。
アルヴェインが言った。
「選定者」
レイが振り返る。
銀の瞳。
そこには不思議な感情があった。
敵意ではない。
憐れみでもない。
もっと別の何か。
「王は言っていた」
静かな声。
「お前なら辿り着けるかもしれない、と」
その言葉を最後に。
アルヴェインは闇へ消えた。
◆新たな道
吹雪の中。
レイは地図を広げる。
描かれているのは北の果て。
世界地図にも載っていない領域。
その中心に記されていた。
ひとつの場所。
【終焉の門】
そして。
その横には赤い文字。
古代語だった。
だがなぜか読める。
レイは思わず呟いた。
「最後の選定者が眠る場所……?」
アリアたちが息を呑む。
終焉の門。
そして最後の選定者。
世界の真実は、もうすぐそこまで迫っていた。




