第38章 北への旅路
◆終わりまで百八十日
世界崩壊まで、残り百八十日。
その事実は、レイたちの旅を大きく変えた。
これまでは綻びを修復し、門を安定させながら進んできた。
だが今は違う。
目指す場所はただ一つ。
世界最北端――。
誰も辿り着いたことのない禁域。
終焉の門。
◆広がる異変
神殿を出発してから数日後。
レイたちは異変を目の当たりにしていた。
空には黒い亀裂。
大地には歪んだ影。
時折、景色そのものが揺らぐ。
まるで世界が壊れかけたガラス細工のようだった。
「前より酷くなってるな……」
レイが呟く。
アリアの表情は暗い。
「封印が弱まるほど、虚界の影響は強くなります」
セレスも険しい顔だった。
「まだ半年あると思わない方がいいわね」
「どういう意味だ?」
「崩壊率は一定じゃない」
セレスは空を見上げる。
「加速する」
嫌な予感しかしない。
◆導者の異変
その日の夜。
焚き火の前で休んでいた時だった。
突然。
アリアが膝をついた。
「っ……!」
「アリア!?」
レイが駆け寄る。
彼女の身体が淡く透けていた。
「なっ……!」
右手の先が半透明になっている。
アリア自身も驚いていた。
「そんな……」
セレスが顔色を変える。
「もう始まったの……?」
「何がだ」
答えたのはアリアだった。
「導者の崩壊です」
静かな声。
だが重かった。
◆導者の寿命
「導者は門によって維持されています」
アリアは小さく笑う。
「だから門が壊れると……私も存在できなくなるんです」
レイの顔から表情が消えた。
「おい」
「大丈夫です」
「全然大丈夫じゃないだろ」
アリアは少し困ったように笑う。
「実は歴代の導者も最後は消えていきました」
「……」
「私は長く持った方なんですよ」
その言葉が妙に悲しかった。
まるで。
自分の終わりを受け入れているみたいで。
◆レイの怒り
「ふざけるな」
レイは立ち上がった。
アリアが驚く。
「レイ?」
「なんでそんな顔してる」
「え?」
「諦めたみたいな顔するな」
焚き火が揺れる。
静かな夜だった。
「お前は消えない」
「レイ……」
「門も直す」
「でも」
「世界も救う」
アリアが何か言おうとする。
だが。
レイは止まらなかった。
「勝手に終わるな」
その言葉に。
アリアの瞳から涙がこぼれた。
◆新たな出会い
翌日。
一行は雪原地帯へ入った。
北へ進むほど寒さは厳しくなる。
その途中だった。
吹雪の中で倒れている少女を発見したのは。
「人だ!」
レイが駆け寄る。
銀白色の髪。
長い耳。
美しい顔立ち。
年齢は十七、八くらい。
見たことのない民族だった。
「生きてる!」
少女はゆっくり目を開く。
そして。
レイを見るなり。
「見つけた……」
そう呟いた。
「え?」
次の瞬間。
少女はレイの胸ぐらを掴んだ。
「選定者だな!?」
「は?」
「探したんだぞ!!」
吹雪の中に響く怒声。
レイは完全に固まった。
◆北の民
少女の名は――
ユキナ・フェンリル。
北方民族の生き残りだった。
彼女はレイたちを見るなり言った。
「終焉の門へ行くんだろ?」
全員が固まる。
「なんで知ってる」
「当たり前だ」
ユキナは腕を組んだ。
「私の一族は終焉の門の守護者だからな」
レイたちの空気が変わる。
終焉の門を知る者。
初めての手掛かりだった。
◆虚界王の使徒
だが。
その瞬間だった。
空が割れた。
バキィィィィン!!
黒い亀裂。
巨大な闇。
そして。
そこから降り立つ一人の男。
黒衣。
銀色の瞳。
人間に見える。
だが違う。
圧倒的に違う。
存在感そのものが異質だった。
アリアが震える。
「まさか……」
セレスも青ざめた。
「嘘でしょ……」
男は静かに微笑んだ。
「初めまして」
その声だけで空気が凍る。
「選定者レイ」
男の瞳が光る。
「我が王がお呼びです」
虚界王直属。
最高位の使徒。
その名を――
アルヴェイン。
世界崩壊を告げる使者だった。




