第37章 選定者の答え
◆運命を量る天秤
白い世界。
何もない空間。
その中心で、巨大な黒い目がレイを見下ろしていた。
視界には三つの選択肢。
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【運命選択】
① 世界を守る
② アリアを救う
③ まだ答えを出さない
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どれも重い。
どれも簡単には選べない。
世界を守れば、アリアは永遠に戦い続けるかもしれない。
アリアを救えば、世界が滅ぶかもしれない。
そして――。
「……違うな」
レイは小さく呟いた。
虚界王の目が細くなる。
『何が違う』
「その選択肢自体がおかしい」
『ほう?』
レイはゆっくり顔を上げた。
今まで旅をしてきた。
光の街リュミエール。
刻の都クロノシティ。
災禍の港ティル。
出会った人々。
助けた命。
泣いていたアリア。
全部を思い出す。
「なんでどっちかしか救えない前提なんだよ」
虚界王が沈黙する。
「俺は選定者なんだろ?」
紋章が輝く。
「だったら選ぶ」
光が溢れた。
「世界も守る」
一歩前へ出る。
「アリアも救う」
さらに前へ。
「だから――」
レイは三つ目を選んだ。
◆③ まだ答えを出さない
光が弾ける。
選択肢が砕け散る。
世界が震えた。
『なに……?』
虚界王の声に初めて動揺が混じる。
《既定未来の拒否を確認》
《新規因果生成》
《観測不能領域へ移行》
レイの紋章が黄金に染まる。
今まで見たことのない光。
羅針盤の針が高速で回転する。
そして。
ぴたりと止まった。
北でも南でもない。
存在しない方向を指して。
◆選定者の本質
最初の導者が目を見開く。
「まさか……」
震える声。
「可能性の外側……」
レイは聞き返す。
「何だそれ」
「選定者とは本来、未来を選ぶ者ではありません」
少女が言う。
「未来そのものを作る者です」
空間が大きく揺れた。
「歴代の選定者は皆、与えられた選択肢から選んだ」
だが。
レイは違った。
選択肢を拒否した。
新しい未来を作ろうとしている。
「そんなことが……」
「初めてです」
◆現実世界
その瞬間。
レイの意識が現実へ引き戻される。
地下神殿。
崩れた祭壇。
アリアとセレス。
二人が駆け寄ってくる。
「レイ!」
アリアが抱きついた。
珍しく余裕がない。
本気で心配していたらしい。
「大丈夫か!?」
「なんとか」
セレスも安堵したように息を吐く。
「三分も意識がなかったのよ」
「三分?」
レイの感覚では何時間もいた気がする。
その時。
アリアの身体が震えた。
「っ……」
「アリア?」
彼女の胸元の紋章が明滅している。
嫌な光だった。
◆崩壊の始まり
神殿全体が揺れる。
ゴゴゴゴゴゴ……!
天井から石が落ちる。
セレスが顔色を変えた。
「まずい!」
「何がだ!?」
「門が反応してる!」
アリアも気づく。
「そんな……」
彼女の声が震えた。
「封印が……弱まっています」
「封印?」
次の瞬間。
空に巨大な亀裂が走った。
黒い雷。
赤い空。
世界そのものが悲鳴を上げる。
レイの紋章が警告を発した。
《緊急事態》
《門の崩壊率:12%》
《予測崩壊完了まで――》
数字が表示される。
全員が息を呑んだ。
《残り 180日》
◆半年
静寂。
誰も言葉を発せない。
半年。
たった半年。
それで世界が終わる。
「……嘘だろ」
レイが呟く。
アリアは青ざめていた。
「始まってしまったんです……」
その瞳には絶望が映っている。
「虚界王の復活が」
◆最後の門
セレスが震える手で古代文字を指した。
「まだ希望はある」
「本当か!?」
「第四の門よ」
壁画に描かれている。
他の門とは違う巨大な門。
世界の中心にある門。
「終焉の門……」
アリアが呟く。
セレスは頷いた。
「そこに辿り着けば虚界王を完全封印できる可能性がある」
「可能性か」
「でも」
セレスの表情が曇る。
「今まで誰も到達していない」
◆アリアの決意
神殿を出た後。
夜。
焚き火の前。
アリアが静かに座っていた。
「レイ」
「ん?」
「もし」
彼女は俯く。
「もし最後に世界と私のどちらかを選ぶことになったら……」
レイは最後まで聞かなかった。
ぽん、と頭を軽く叩く。
「痛っ」
「勝手に諦めるな」
「でも……」
「両方助けるって言っただろ」
アリアは目を見開く。
「無茶です」
「知るか」
「不可能です」
「だからやるんだ」
しばらく沈黙。
そして。
アリアは小さく笑った。
涙を浮かべながら。
「本当に……あなたは変な選定者です」
夜空には巨大な亀裂が走っていた。
世界の終わりまで残り半年。
そして遥か北。
誰も踏み入れたことのない禁域。
終焉の門が静かに待っていた。




