第30章 門の記憶 ――選定者の真実
◆白き回廊
第三の門が開いた瞬間。
世界から音が消えた。
「……っ!?」
足元の感触すら曖昧になる。
気づけばレイたちは、どこまでも続く白い回廊に立っていた。
天井も壁も存在しない。
ただ白だけが広がる空間。
「ここは……」
アリアが息を呑む。
「まさか……」
隣のセレスも表情を変えた。
「記録領域……」
「知っているのか?」
レイが尋ねると、セレスは静かに頷いた。
「世界が覚えている記憶の保管庫です」
「世界の記憶……?」
「はい。門が生まれてから現在に至るまでの全て」
その時。
白い空間の奥から光が集まり始めた。
人影が現れる。
男だった。
銀色の髪。
蒼い瞳。
そして――
レイと同じ紋章。
「……誰だ」
男は微笑んだ。
「久しぶりだな」
「会ったことないだろ」
「君はそう思っている」
男は一歩近づく。
アリアが即座に前へ出た。
「下がってください、レイ!」
男は苦笑する。
「相変わらずだな」
「……?」
「歴代の導者は皆そうだった」
空気が凍る。
歴代。
その言葉にアリアが反応した。
「あなたは……」
男は静かに告げた。
「第一選定者」
世界が止まった。
◆最初の選定者
「第一……選定者……?」
レイは言葉を失う。
目の前の男は穏やかな笑みを浮かべている。
「名はアーク」
その名を聞いた瞬間。
アリアの顔色が変わった。
「そんな……」
セレスまで驚いている。
「伝説上の存在のはず……」
アークは肩をすくめた。
「死んではいるよ」
「は?」
「これは記憶だ」
男の身体が少し透ける。
「門に保存された残滓だな」
レイは頭を抱えた。
「最近そういうの多くないか?」
「選定者だからな」
「便利な言葉で済ませるなよ」
アークが笑う。
その笑顔はどこかレイに似ていた。
◆知らされる真実
「君は疑問に思ったことはないか?」
アークが問いかける。
「何をだ?」
「なぜ選定者が存在するのか」
レイは黙る。
確かに考えたことはあった。
なぜ自分なのか。
なぜ羅針盤なのか。
なぜ世界は選択を強いるのか。
アークは続ける。
「世界は壊れている」
「……知ってる」
「いや、君が思う以上にだ」
その瞬間。
白い空間に映像が浮かぶ。
巨大な黒い渦。
砕ける大地。
崩壊する空。
無数の門。
「これが……」
「最初の世界だ」
レイは目を見開いた。
◆世界の正体
「昔、この世界は一つだった」
アークが語る。
「だが虚界との戦争で破壊された」
映像が変化する。
光の軍勢。
闇の怪物。
終わりの見えない戦い。
「我々は敗北した」
アークの声が重くなる。
「完全な滅亡を避けるため、世界は自らを分割した」
「分割……?」
「そうだ」
映像の世界が砕け散る。
無数の光の欠片へ。
「現在の世界は、その残骸だ」
沈黙。
レイは息を呑んだ。
「じゃあ門は……」
「世界を繋ぎ止める杭だ」
アークは頷く。
「選定者は杭を守る存在」
「導者は?」
レイが隣を見る。
アリアは静かに聞いていた。
「導者は選定者を守るために生まれた」
アークは優しく言った。
「世界最後の希望だからな」
◆アリアの存在
アークはアリアを見る。
「君も辛かっただろう」
「……」
「何人も見送ったか」
アリアの肩が震えた。
レイは初めて気づく。
アリアはずっと黙っていた。
「アリア?」
彼女は俯いている。
やがて小さく答えた。
「……七人です」
レイの心臓が止まりそうになった。
「え?」
「私が見送った選定者は七人」
静かな声。
「皆、世界を守って……死にました」
レイは言葉を失った。
アリアは続ける。
「だから怖かったんです」
拳を握る。
「レイもいつか同じ未来へ行くんじゃないかって」
その声は震えていた。
◆選定者の運命
アークが静かに告げる。
「本来なら」
全員が彼を見る。
「選定者は最後に死ぬ」
空気が凍った。
レイも。
アリアも。
セレスも。
誰も言葉を発せない。
「門を完全修復する代償だ」
アークは悲しそうに笑う。
「私もそうだった」
「ふざけるな」
レイの声が響く。
「世界を救ったら死ぬって?」
「そういう仕組みだ」
「そんなもの認めるか!」
羅針盤が光を放つ。
怒りに反応するように。
アークは目を細めた。
「なるほど」
「?」
「君は本当に違うな」
◆新たな選択
その時。
白い空間が揺れた。
警報のような音が響く。
アークの表情が変わる。
「来たか」
「何が?」
白い空間に亀裂が走る。
黒い闇が滲み出した。
見たこともないほど濃密な虚界。
「まずい」
セレスが顔を青くする。
「これは……!」
闇の奥で巨大な目が開いた。
それだけで空間が震える。
アリアがレイの前へ立つ。
「下がって!」
しかしアークは首を振った。
「間に合わない」
「何だよ、あれ」
アークは苦く笑った。
「虚界王の眷属」
その名が告げられた瞬間。
世界全体が震えた。
「ついに見つかったか」
「見つかった?」
「選定者がな」
闇の中の巨大な目がレイを見つめる。
明確な敵意。
殺意。
そして――歓喜。
まるで獲物を見つけたように。
その瞬間。
レイの視界に光文字が浮かび上がった。
────────────── 【運命選択】 ① 今すぐ戦う ② アリアたちを連れて脱出する ③ 第一選定者アークの力を受け継ぐ ──────────────
今までとは違う。
文字そのものが黄金に輝いていた。
アークが静かに言う。
「レイ」
「……」
「この選択で未来は大きく変わる」
アリアが不安そうにレイを見る。
セレスも息を呑む。
そして闇の中から、虚界王の眷属がゆっくりと姿を現し始めた――。




