第29章 第一の鍵
青い光が広間を埋め尽くした。
「な、なんだこれ……!?」
ユウマは思わず目を細める。
羅針盤から溢れ出した光は床や壁に刻まれた古代文字を次々と浮かび上がらせていた。
まるで遺跡そのものが目覚めたようだった。
「継承者権限……」
アイリスが呆然と呟く。
「本当に存在したんだ……」
その声には驚きと畏怖が混じっていた。
ゴルディアスの動きも止まっている。
赤い瞳が明滅を繰り返していた。
「認証確認」
機械的な声が響く。
「継承者権限を確認」
「敵じゃなくなった?」
ルナが首を傾げる。
だが次の瞬間。
ゴルディアスの全身が大きく震えた。
「警告」
「封印干渉を確認」
「排除対象変更」
嫌な予感がした。
「え?」
ゴルディアスが突然向きを変える。
その視線はユウマたちではない。
遺跡のさらに奥。
封印の間へ向いていた。
◆
その頃。
最深部では。
黒い仮面の男が巨大な扉の前に立っていた。
扉には七つの円形の窪み。
そのうち一つだけが淡く光っている。
「あと少しだ」
男は笑う。
「封印は必ず解かれる」
その時。
遺跡全体が震えた。
ゴォォォォォ……
男の表情が変わる。
「何?」
そして聞こえた。
重い足音。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
守護騎士ゴルディアスだった。
◆
「追うぞ!」
ユウマは叫んだ。
羅針盤の針が真っ直ぐ奥を指している。
明らかに何かがある。
「行くしかないわね」
セリアが剣を握る。
アイリスも頷いた。
「封印の間よ」
四人はゴルディアスの後を追った。
◆
長い通路。
古代文字が刻まれた壁。
崩れた石像。
そして。
最深部。
巨大な空間へ辿り着いた。
「うわ……」
ルナが息を呑む。
広すぎる。
まるで地下に都市が丸ごと埋まっているようだった。
中央には巨大な扉。
高さ三十メートルはあるだろう。
そして。
その前に立つ男。
黒い仮面。
黒い外套。
「いた!」
セリアが剣を構える。
男はゆっくり振り返った。
「ようやく来たか」
落ち着いた声。
まるで待っていたかのようだった。
「お前が封印監視機関の……」
「監視者などではない」
男は静かに首を振る。
「私は解放者だ」
狂信者のような笑み。
嫌な寒気がした。
「名をヴァルド」
男は名乗る。
「世界を正しい姿へ戻す者だ」
「正しい姿?」
ユウマが眉をひそめる。
ヴァルドは巨大な扉を見上げた。
「今の世界は間違っている」
「何?」
「封印によって歪められているからだ」
意味が分からない。
だが。
ヴァルドは本気だった。
「七英雄は愚かだった」
その言葉にアイリスが反応する。
「黙れ!」
珍しく怒鳴った。
「英雄たちは世界を救ったのよ!」
「救った?」
ヴァルドは笑う。
「本当にそう思うか?」
その瞬間。
扉が脈動した。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
巨大な心臓のように。
「聞こえるだろう?」
ヴァルドは両腕を広げる。
「これが世界の真実だ」
◆
その時だった。
ユウマの羅針盤が過去最大の光を放つ。
眩しい。
視界が真っ白になる。
「うわっ!?」
そして――。
ユウマは見た。
◆
知らない景色。
燃える空。
崩壊する大地。
泣き叫ぶ人々。
巨大な黒い裂け目。
その前に立つ七人の男女。
そして。
一人の青年。
手には羅針盤。
「これ……」
自分ではない。
だが。
どこか似ている。
青年は悲しそうな顔で空を見上げていた。
『許してくれ』
誰に向けた言葉なのか。
『これしか方法がなかった』
青年は羅針盤を掲げる。
そして。
世界を覆う光。
そこで映像は途切れた。
◆
「はぁっ!?」
ユウマは我に返る。
息が荒い。
心臓が激しく鼓動している。
「ユウマ!」
セリアが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「今……見た……」
声が震える。
「七英雄の記憶みたいなものを」
アイリスの顔色が変わった。
「まさか……継承記録?」
「知ってるのか?」
「伝承だけなら」
アイリスは羅針盤を見つめる。
「歴代継承者の記憶が刻まれているって……」
◆
その時。
ゴルディアスが巨大な剣を掲げた。
「封印保護開始」
狙いはヴァルド。
巨大な一撃が振り下ろされる。
しかし。
ヴァルドは動かなかった。
ただ笑う。
「遅い」
次の瞬間。
黒い霧が広がった。
ゴルディアスの巨体が吹き飛ぶ。
「なっ!?」
全員が凍りついた。
あの守護騎士を。
一撃で?
瓦礫の中へ転がるゴルディアス。
ヴァルドは静かに手を下ろした。
「第一の鍵は貰う」
巨大な扉が赤く光る。
封印が揺れる。
そして羅針盤が警告するように震えた。
【危険】
【第一封印崩壊まで残り三十分】
ユウマは息を呑む。
三十分。
たった三十分で。
世界の封印が壊れるかもしれない。
戦いはもう避けられなかった――。




