第25章 銀髪の少女アイリス
冒険者ギルドの喧騒が、まるで遠くへ消えたようだった。
ユウマの羅針盤。
銀髪の少女のペンダント。
二つの光は共鳴するように輝き続けている。
周囲の冒険者たちも異変に気づき、ざわめき始めていた。
「おい、なんだあれ……」
「魔道具の暴走か?」
「いや、見たことねぇぞ……」
少女は周囲を見回し、小さく舌打ちした。
「……まずい」
「まずいって?」
「ここじゃ話せない」
そう言うと彼女はユウマの腕を掴んだ。
「ついて来て」
「は?」
「急いで」
有無を言わせぬ勢いだった。
セリアが即座に前へ出る。
「待ちなさい」
少女を睨む。
「いきなり現れて説明もなしに連れて行こうなんて、信用できると思う?」
「信用しなくていい」
少女も負けずに睨み返した。
「でも時間がない」
「理由は?」
「……追われてるから」
「は?」
その瞬間だった。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
ドン!!
中へ入ってきたのは黒い外套を纏った男たち。
全員が同じ銀色の仮面をつけている。
異様な集団だった。
少女の顔色が変わる。
「来た……!」
「知り合いか?」
「最悪のね」
男たちは真っ直ぐこちらへ向かってきた。
そして中央の男が冷たい声を発する。
「発見した」
ぞわり。
背筋が寒くなる。
「鍵の継承者を確保する」
ギルド内の空気が凍り付いた。
「鍵の継承者?」
ユウマが聞き返す。
だが少女は答えない。
代わりに腰から短剣を抜いた。
「逃げるわよ!」
「説明しろ!」
「走りながらする!」
直後。
黒衣の男たちが一斉に動いた。
速い。
普通の人間とは思えない速度だった。
「チッ!」
セリアが剣を抜く。
キィィン!!
火花が散った。
一人の男の剣を受け止める。
「強い!」
セリアが驚く。
かなりの実力者らしい。
「ルナ!」
「任せて!」
ルナが杖を掲げる。
「ファイアボルト!」
火球が飛ぶ。
しかし男は片手で魔法を受け止めた。
「なっ!?」
「魔法を防いだ!?」
ルナが目を丸くする。
普通ではありえない。
男の手袋には黒い紋様が刻まれていた。
その時。
ユウマの羅針盤が激しく震えた。
針が男たちを指している。
そして。
頭の中へ声が響いた。
『敵性存在を確認』
『封印監視機関所属』
『危険度:高』
「なに……?」
初めて聞く言葉だった。
封印監視機関。
羅針盤はさらに続ける。
『継承者の保護を推奨』
継承者。
つまりこの少女のことだろうか。
ユウマは迷った。
だが。
少女の必死な表情を見た瞬間。
決めた。
「セリア!」
「何!?」
「この子を守る!」
セリアは一瞬だけ驚いた。
そして笑った。
「分かった!」
信じてくれた。
ユウマは羅針盤を強く握る。
「どうすればいい!?」
すると羅針盤が眩く輝いた。
針が一方向を指す。
ギルド裏口。
脱出路だ。
「こっちだ!」
ユウマたちは走り出した。
黒衣の男たちが追う。
ギルドは大混乱になった。
机が倒れ。
椅子が飛び。
冒険者たちが慌てて避難する。
その中を全力で駆け抜ける。
裏口を飛び出した瞬間。
少女が息を切らしながら言った。
「……助かった」
「今度は説明してもらうぞ」
ユウマが言う。
少女は少し迷った後。
ゆっくり頷いた。
「そうね」
そして。
初めて微笑んだ。
「私はアイリス」
銀髪が風に揺れる。
「世界の鍵を守る一族の末裔よ」
ユウマたちは顔を見合わせた。
話がどんどん大きくなっている。
アイリスは真剣な表情になる。
「そして――あなたの羅針盤は、その鍵を開くための存在」
「え?」
「ユウマ。あなたは多分……」
一拍置いて。
衝撃の言葉を告げた。
「最後の継承者なの」
世界の鍵。
継承者。
羅針盤。
全てが繋がり始める。
そして遠くでは。
黒衣の男たちの追跡が始まっていた。
彼らの目的は何なのか。
封印遺跡アークスに眠るものとは。
ユウマはまだ知らない。
それが世界の運命を左右する秘密だということを――。




