インタビュー ウィズ メント
スポットライトが当たる。
丸太椅子。
そこへ、
メントが静かに腰を下ろしていた。
肘を膝へ置き、
指を組み、
しばらく黙る。
そして。
低い声で語り始めた。
「……あの日のことですか」
静かな口調。
「いつものように、
夜番としてヴォイド様の寝所前に立っていました」
「いつも通りヴォイド様の周囲を警戒する役目です」
「ですが――」
メントの目が細くなる。
「あの日は違った」
「突然、ヴォイド様の部屋の中が光ったんです」
空気が変わる。
「禍々しい赤黒い光でした」
「即座に異常と判断し、入室許可を取り寝所へ入りました」
「すると」
メントはゆっくり息を吐く。
「部屋の中央に、巨大な魔法陣が形成されていた」
赤黒い光。
歪む空気。
脈打つ魔力。
「あれは、普通の術式ではありません」
「空間転移系統。しかも、かなり古い魔族式でした」
メントは腕を組む。
「そして」
「黙認していますが」
「屋根の上で監視していたユリも、しれっと入ってきました」
真顔。
「あいつ、本当にどこにでもいます」
だが。
その時は。
「正直、いてくれて助かりました」
メントは苦笑する。
「私も少し緊張していましたから」
ヴォイドは。
その間。
一言も発しなかった。
ただ静かに、魔法陣を見ていた。
「ヴォイド様は、最初からある程度察していたのだと思います」
「だから、止めなかった」
そして。
約一刻。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
魔法陣が完成する。
空気が震える。
その中央から現れたのは――
土下座した少女でした
沈黙。
「しかも白旗付き」
メントは真顔だった。
「敵意はない!!」
開口一番、それだった。
「私は一応、武器を構えました」
「ですが、ヴォイド様へ確認すると、静かに頷かれた」
「なので、武器を下ろしました」
メントは目を閉じる。
「あの時点で、敵ではないと判断されたのでしょう」
そして。
少女は。
「まずは名乗らせてください」
と言った。
その時だった。
メントの口元が、少しだけ緩む。
「始まったんです」
「…仁義が」
低く。
丁寧に。
正式な所作。
軒下。
姿勢。
言葉。
間。
「……痺れましたね」
メントは遠くを見る。
「ノゲシ殿が昔、魔族の古い礼法として教えていたものです」
「正直、私はあれが好きでした」
「格好良かったので」
素直だった。
「だから、練習していました」
「いつかやってみたいと」
そして。
本番が来た。
「ありがとうござんす」
「お控えなすって」
「三尺三寸借り受けまして――」
完璧。
「私も、習った通り返せました」
メントは静かに頷く。
「完璧でした」
ちょっと嬉しそうだった。
「……楽しかったですね」
そして。
問題の本題へ入る。
「少女――ジュワカボース殿の要求は、かなり厚かましいものでした」
「助けてほしい」
「守ってほしい」
「魔王軍へ入ってほしい」
「副魔王になってほしい」
「世界中へ映像を流したい」
「あと資金援助も欲しい」
メントは腕を組む。
「まぁ、最後は普通に困窮していました」
メイドの給料未払い。
城の修繕不可。
食料不足。
「夢のない魔王城事情でした」
だが。
一番酷かったのは。
「最初の台本です」
メントは断言した。
「あれは駄目でした」
回想。
ジュワカボース:
「悪いやつめ!悪魔をいじめるのはやめるのじゃー!」
ヴォイド:
「グオオオ」
悪魔:
「ぎゃー!」
ジュワカボース:
「魔王ぱーんち!」
ヴォイド:
「ぐわー!」
ジュワカボース:
「副魔王になろう!」
終わり。
「誰が信じるんですか」
ユリが即止めた。
「あれは正しかった」
メントも頷く。
「そこから、ユリ主導で脚本修正が始まりました」
だが。
問題があった。
「ジュワカボース殿、出来ることが少ない」
障壁。
召喚。
転移。
映像魔物の使役。
以上。
「しかも派手な動きができない」
「動きに緩急がない」
「威圧感はあるが、戦闘演出が弱い」
そして。
最大の問題。
メントは真顔になる。
「ヴォイド様です」
沈黙。
「手加減ができない」
致命的だった。
「まず、すぐ刀を抜く」
「すぐ殴る」
「障壁を本気で破壊しようとする」
「“寸止め”という概念がない」
メントは頭を押さえる。
「あと、演技指導が難しい」
「“ここで吹き飛ばされてください”」
「“ここで少し苦しそうに”」
「“ここで後ろへ跳んでください”」
「全部、不思議そうな顔をされる」
ヴォイド「なぜ?」
本当にそれだった。
なので。
「私は、魔王側の動きから逆算して、ヴォイド様の動きを固定しました」
「ジュワカボース殿が右手を上げたら、左へ跳ぶ」
「障壁が出たら、拳を止める」
「ここで刀を後ろにはじき飛ばす」
「ここで地面へ叩きつけられる」
「全部、細かく決めた」
そして。
もう一つの不安。
「悪魔召喚です」
メントの声が低くなる。
「ジュワカボース殿は、魂を材料に魔物を作れる」
「ですが、効率が悪い」
「人間一人分の魂で、ゴブリン一匹程度」
「今回使う魂は約二千五百」
カルトマイコン。
聖十三字軍。
戦死者。
概算。
魂の回収。
「ただし、二千五百全部を使った怪物は、今の彼女には作れない」
「限界は一体あたり五百程度」
「ですが」
「合成」
「復活」
「融合」
「それは可能」
メントは静かに目を閉じる。
「しかも、召喚後は消せない」
つまり。
「当日ぶっつけ本番でした」
ある程度知能はある。
だが。
数を盛ると、理性を失う。
「そこはもう、ヴォイド様を信じるしかありませんでした」
メントは鼻を鳴らす。
「まぁ、ゴブリン二千五百程度なら、ヴォイド様にとっては準備運動です」
問題は別。
「派手さです」
「どうやって、“魔王が勝った”ように見せるか」
そこだった。
だから。
「ヴォイド様には、とにかく大きく動いてもらうことにしました」
「吹き飛ぶ」
「跳ぶ」
「地面を砕く」
「岩へ突っ込む」
「とにかく映える方向です」
そして。
三日。
寝ず。
夜通し。
調整。
指導。
確認。
「私は夜番交代を断りました」
ナイザーが来た。
「代わるぞ」
メントは首を振った。
「代われない」
「今は…抜けられないんだ」
ナイザーは怪訝そうだった。
「侵入者を入れるなよ?」
メントは困った。
「……それは、約束できない」
変な顔をされた。
当然だった。
メントは深く息を吐く。
「最終日には、だいぶ形になっていました」
「ですが、まだ少し派手さが足りない」
すると。
ヴォイドが。
「……任せろ」
と言った。
メントはそこで黙る。
少し考え。
そして。
真顔で言った。
「……あの時が、一番不安でした」
スポットライトが、
静かに落ちる。




