各地の反応:オーガの国
聖十三字軍との戦争から、
十日後の朝だった。
オーガの国。
まだ完全には復興しきっていない村。
切り倒された木々。
組み直される柵。
新しく掘られる壕。
戦の匂いは、
まだ国中へ残っていた。
その時だった。
国の中央。
広場。
何もなかった空間に、
ゆっくりと光が集まり始める。
地面へ広がる紋様。
複雑な円。
魔法陣。
見張りの若いオーガ兵が、
顔色を変えた。
「ま、魔法陣だァ!!」
叫び声。
周囲のオーガ達が武器を取る。
だが。
夜番明けのメントは、
その報告を受けても、
すぐには動かなかった。
「……ほう」
眠そうな目。
だが、
視線だけは鋭い。
メントは報告役へ聞く。
「その転移魔方陣は急激に出たか?」
「い、いや……!
じわじわとです!」
「……ふむ」
メントは頭を掻く。
そして。
「ヴォイド様へ報告しろ」
短く言った。
若い兵士が走る。
一方。
ヴォイドは朝食中だった。
巨大な肉。
骨ごとかじり取る。
報告を受けても、
慌てない。
「……そうか」
ただそれだけ。
肉を食べ終える。
移動。
桶へ湯を入れる。
ゆっくりとかぶる。
白い湯気。
身体を布で拭う。
筋肉の塊。
走る血管。
だが。
それはきれいな肉体だった。
簡素な革鎧を身につける。
腰へ刀を差す。
そして。
ゆっくり歩き出した。
その頃。
ナイザーは慌てていた。
「なんだ突然!
敵襲か!?」
武器を持ったオーガ兵達が集まり始める。
雌オーガ達も、
子ども達を下がらせていた。
だが。
メントだけは違った。
「落ち着け」
低い声。
「……まず様子を見る」
ナイザーが睨む。
「んな悠長な……!」
その時だった。
「ウワータイヘンダー」
間延びした声。
ユリだった。
なぜかいる。
しかも。
妙に棒読みだった。
メントが横目で見る。
ユリも視線を逸らす。
ナイザーが眉をひそめた。
「……お前ら」
察する。
何か知っている。
メントはわざとらしく咳払いした。
「若い連中に伝えろ」
「あの転移魔法陣には触れるな」
「絶対だ」
そのあとしばらくして魔法陣が完成する。
眩い光。
空間が歪む。
そして。
現れた。
小柄な少女。
薄青い肌。
禍々しい角。
和装。
魔王候補。
ジュワカボースと名乗る。
瞬間。
周囲のオーガ兵達が殺気立つ。
武器を構える。
だが。
「待て」
メント。
「動くな」
ナイザー。
「ウゴイタラダメー」
ユリ。
三人が同時に止めた。
若い兵士達が困惑する。
「で、ですが!」
その時。
空。
巨大な目玉の魔物達が現れる。
ざわめき。
そして。
空中へ映像が映し出された。
ボーダイ家。
私兵百人。
サタモ。
ヴォイドの戦い。
若いオーガ兵達が息を呑む。
「あれ……ヴォイド様か?」
「なんだあの数……」
「一人で……?」
だが。
本番はそこではなかった。
ジュワカボースが笑う。
「まずは、我が部下達と戦ってその力をみせてもらおうと思っての!」
呪文。
魔法陣。
そして。
悪魔召喚。
禍々しい四体。
怪我をしていたオーガ兵達が青ざめる。
雌オーガ達が子どもを抱く。
「な、なんだあれは……!」
「やべぇぞ……!」
だが。
メントが鼻を鳴らした。
「騒ぐな」
ヴォイドを見る。
ヴォイドは無言だった。
その時。
転移魔法。
ヴォイドと魔王、
悪魔達が街道側へ移動する。
若いオーガ兵が叫ぶ。
「向かいますか!?」
だが。
メントが一喝した。
「ヴォイド様を信じろ!!」
空気が止まる。
メントは目玉の魔物を指差す。
「見ろ」
「ヴォイド様の戦いを」
その言葉で、
オーガ達は黙った。
映し出される映像。
悪魔との戦闘。
速すぎる。
若い兵士達が叫ぶ。
「速ぇ!!」
「見えねぇ!!」
「悪魔が飛んだ!!」
「素手だぞ!!」
ナイザーですら、
目を細めて見ていた。
そして。
合体悪魔。
巨大な怪物。
今度こそ、
空気が変わる。
「……まずい」
「デカすぎる……」
「ヴォイド様でも……」
だが。
ヴォイドは止まらない。
投げる。
叩き込む。
砕く。
首を折る。
黒炎。
消滅。
静寂。
若いオーガ兵達が震える。
「……なんだ今の」
「底が知れねぇ……」
だが。
メントとユリだけは。
どこか、
ぼーっと見ていた。
ナイザーが横を見る。
ユリは目を逸らした。
メントは無表情。
そこで。
完全に察する。
(……こいつら知ってやがるな)
そして。
最後。
魔王戦。
ヴォイドの刀。
風刃。
効かない。
連撃。
当たらない。
爆発。
吹き飛ぶ赤い巨体。
若いオーガ兵達の顔色が変わる。
「ヴォイド様ァ!!」
「助けに――!!」
「行かせろ!!」
だが。
メントが怒鳴った。
「信じろと言っただろうが!!」
一喝。
全員が止まる。
映像の中。
爆発。
再生。
さらに爆発。
吹き飛ぶヴォイド。
オーガ達の顔へ、
初めて焦りが浮かぶ。
「ヴォイド様が……」
「押されてる……?」
「初めて見た……」
ナイザーですら、
拳を握り締めていた。
そして。
決着。
ヴォイドが倒れる。
静寂。
ジュワカボースが手を差し伸べる。
「副魔王になれ」
ヴォイドがその手を取った。
瞬間。
沈黙していたオーガ達が――
「うぉぉぉおおおおおお!!!」
爆発した。
武器を掲げる。
拳を叩きつける。
歓声。
「副魔王だァ!!」
「ヴォイド様ァ!!」
「魔王から認められたぞ!!」
「やっぱヴォイド様最強だァ!!」
興奮。
熱狂。
その中で。
メントだけが、
静かにため息を吐いた。
「……ちゃんとやれたみたいだな」
ユリがぼそり。
「バレテナイネー」
ナイザーが振り返る。
「お前らやっぱり知ってたな?」
二人は同時に視線を逸らした。




