各地の反応:ドワーフ国
ドワーフ国。
山々を穿ち、
巨大な炉と坑道で築かれた鉄の国。
赤熱した炉。
飛び散る火花。
金属を打つ音が、
昼夜を問わず響いていた。
その時だった。
空。
巨大な“目玉”が現れる。
翼を持つ異形。
だが。
ドワーフ達は、
そこまで騒がなかった。
「なんじゃありゃ」
「目玉か?」
「飛んどるなぁ」
鍛冶槌を止める者。
止めない者。
特に古株の職人達は、
ちらりと空を見ただけで、
再び炉へ戻る。
「空飛ぶ魔物なんざ、
今さらじゃ」
「炉の温度のが大事じゃわ」
そんな空気だった。
だが。
空中へ映像が映し出される。
幼い少女。
薄青い肌。
禍々しい角。
魔王候補と名乗る。
その姿に。
玉座の間。
ドワーフ王ドヴェルグが、
ゆっくり顎髭を撫でた。
「……魔王、か」
低い声。
「久しい名を聞く」
側近達も顔を見合わせる。
「候補選びが始まったのですかな……」
少しだけ、
空気が重くなる。
だが。
民衆の反応は薄い。
「アレが魔王?」
「ちっこいのぅ」
「子どもみたいじゃ」
むしろ。
映像に映る、
巨大なオーガの方が目立っていた。
「あっちのが怖いぞ」
「あのオーガでかくないか?」
「他より一回りあるぞ」
ドワーフ達は、
オーガの国を知っている。
同盟国。
交易相手。
そして。
極上の太客。
オーガ鋼石の採掘支援。
魔物肉の提供。
周辺魔物の討伐。
さらには、
乱暴な冒険者や、
横暴な他国の要求も減った。
しかも。
金払いが異様に良い。
以前など。
規格レール。
大量の鉱材。
巨大カスガイ。
建築金具。
それらを至急大量発注し、
相場の三倍以上で支払った。
「オーガから直指名じゃぞ」
「納期守ったらさらに上乗せじゃ」
それ自体が、
職人達の自慢になっていた。
だから。
映像のオーガ達へ、
敵意は薄い。
むしろ。
「ありがたい客じゃ」
そんな感情の方が強かった。
そして。
映像が切り替わる。
ボーダイ家私兵百人。
暗殺者サタモ。
そして。
ヴォイド。
戦闘。
一瞬だった。
私兵が吹き飛ぶ。
血飛沫。
衝撃。
崩れる隊列。
その中で。
ヴォイドが、
腰から武器を抜く。
瞬間。
職人達の視線が止まる。
「……ん?」
「待て」
「今のなんじゃ?」
映像では細部は見えない。
だが。
違和感だけは伝わる。
「あの反り……」
「片刃か?」
「剣じゃないぞ」
「なんじゃあの形」
さらに。
風。
不可視の斬撃。
遠距離攻撃。
私兵達が上下に分かれる。
サタモの詠唱。
その直後。
サタモが吹き飛ぶ。
ざわめきが広がる。
「武器から何か飛んだぞ」
「魔法か?」
「いや違う」
「武器だ」
そこで。
さっきまで興味なさそうだった、
若手鍛冶師達が顔を上げる。
「親方呼べ」
「今すぐじゃ」
「アレを見せろ」
国中で、
職人達が集まり始める。
そして。
悪魔召喚。
ドワーフ国軍がざわつく。
「あれは危険だぞ……!」
「あんな魔物見たことがない……!」
だが。
ヴォイドは、
武器を抜かない。
素手。
ただそれだけで。
悪魔を殴り潰す。
投げ飛ばす。
地面へ叩きつける。
だが。
一般ドワーフ達は、
速度についていけない。
「速っ」
「今何した?」
「悪魔潰れた?」
「見えん」
むしろ。
青ざめていたのは国軍だった。
「単体で軍だぞ……」
「なんという怪物だ……」
そして。
巨大悪魔。
融合。
怪物。
国軍の空気が凍る。
だが。
ヴォイドは倒す。
圧倒的暴力で。
そこまでは、
まだ良かった。
問題は。
その後だった。
魔王。
ジュワカボース。
ヴォイドが、
再び武器へ手をかける。
抜刀。
瞬間。
ドワーフ国が揺れた。
「……ッ!!?」
「待て!!」
「今度は映ったぞ!!」
職人達が立ち上がる。
鍛冶槌が止まる。
炉の前から、
次々と顔が上がる。
「なんだあの武器!!」
「あの煌めき!!」
「鍛造じゃない!!」
「打ち込みだ!!」
「背の構造が違う!!」
「反り刃!?」
「なんだあの設計!!」
完全に、
職人の目になっていた。
さらに。
刀身。
埋め込まれた魔属石。
「馬鹿な!!」
「魔属石だと!!?」
「死に石じゃろアレは!!」
「あんな形状にはできんぞ!!」
「普通丸っこい石じゃろ!!」
「溶かしてつけたのか!?」
「溶かしたら活性を失くすじゃろうが!!」
「だども活きてる!!」
「起動してるぞ!!」
ざわめきが広がる。
ヴォイドが刀を振るう。
風刃。
衝撃。
連撃。
職人達がさらに騒ぐ。
「あんな強烈に振って、
刃が欠けとらん!!」
「背で衝撃逃がしとる!!」
「鋼材が違う!!」
「誰が作った!?」
「なんの製法じゃ!!」
もはや。
魔王戦などどうでもよかった。
見たいのは。
あの武器。
ただそれだけ。
やがて。
刀が弾かれる。
吹き飛ぶ。
遥か後方。
岩へ。
キィィィン!!
深々と刺さる。
ざわめき。
「折れん!!」
「岩に負けとらん!!」
「なんだあの鋭さ!!」
「技術だ!!」
「技術力がおかしい!!」
「見たい!!」
「触らせろ!!」
「いや持ち主ごと呼べ!!」
国中が騒然となる。
ヴォイドの接近戦時、職人は岩に刺さった刀ばかり見ていた。
もちろん感想はあの武器のことばかり。
そして。
最後。
ヴォイドが魔王へ膝をついた。
静寂。
玉座の間。
ドヴェルグ王が、
静かに映像を見つめる。
「あのオーガの頭……」
「ここまでとはな」
低い声。
さらに。
「そして」
「魔王は、それ以上か」
沈黙。
だが。
次の瞬間。
ドヴェルグ王が立ち上がった。
「オーガとの同盟を強化しろ!!」
大臣達が顔を上げる。
「速さは価値だ!!」
「元より同盟関係にある我らが、
一番近い!!」
「今が好機だ!!」
机を叩く。
「鋼材を送れ!!」
「木材!!炉材!!」
「職人も出せ!!」
「カルトマイコンとの戦で、
向こうは疲弊しておる!」
「ならば今こそ貸しを作れ!!」
大臣達が一斉に動き出す。
ドヴェルグ王は笑っていた。
商機。
技術。
未来。
そして。
価値。
彼は理解していた。
オーガ達は。
この世界を変える側だと。




