VS巨大悪魔
草原。
風。
虹色の防護壁の中。
黒い炎だけが、
揺れていた。
四体の悪魔。
倒れている。
身体は潰れ。
骨は砕け。
黒い液体が土を濡らしている。
もう動かない。
だが。
ジュワカボースは笑っていた。
「うむうむ」
「やはり強いのう」
彼女が両手を広げる。
空気が変わる。
禍々しい魔力。
地面が脈打つ。
「では――」
金色の瞳が細まる。
「これはどうじゃ?」
詠唱。
「この地に眠る悪魂達よ!」
「この悪魔たちに新たな力を!」
黒い風。
空気が渦巻く。
「アムカ・アムカ・アムカタス」
瞬間。
倒れていた悪魔達。
その様々な肉片が浮いた。
骨。
肉。
牙。
翼。
腕。
全て。
中央の魔法陣へ吸い込まれていく。
グチャグチャと。
捏ねられる。
混ざる。
圧縮。
融合。
映像を見ているオーガ達が顔をしかめる。
聖カルトマイコンにいる五武人ですら、
一歩下がった。
気配が異常だった。
魔力ではない。
怨念。
悪意。
呪い。
それらを無理矢理固めたような存在。
やがて。
魔法陣の中央。
巨大な影が立ち上がる。
ヴォイドの三倍近い巨体。
筋肉。
異常膨張。
四体分の特徴が混ざっている。
裂けた口。
複数の角。
歪な腕。
背中から突き出た骨。
そして。
眼。
完全に見開かれていた。
理性がない。
あるのは。
破壊衝動だけ。
「「「「グォォォォォォォ!!!!」」」」
咆哮。
空気が震える。
次の瞬間。
巨大悪魔が消える。
速い。
巨体とは思えない。
地面が爆散する。
一直線。
ヴォイドへ。
拳。
振り下ろされる。
だが。
ヴォイドは動じない。
半歩。
身体を捻る。
巨大な拳へ、
片手を添える。
流す。
衝撃の軌道が逸れる。
轟音。
地面が砕ける。
しかし。
同時。
下。
別の拳。
地面を抉りながら、
アッパー。
草原がプリンのようにめくれ上がる。
だが。
ヴォイドは空中へ跳ぶ。
そして。
蹴る。
悪魔の拳を。
ドゴッ!!
拳そのものが弾かれる。
巨体がわずかによろめく。
ヴォイドが着地。
距離を取る。
静かに見る。
悪魔。
先ほどまでの悪魔達は喋っていた。
考えていた。
だが。
今のこれは違う。
知性がない。
ただ。
目の前の脅威を潰すためだけに動いている。
暴力。
それだけ。
ヴォイドの目が細くなる。
「……」
次の瞬間。
悪魔が飛びかかる。
両腕。
牙。
全てで押し潰そうとする。
ヴォイドは横へ滑る。
回避。
そのまま。
後頭部。
蹴り。
ゴッ!!
さらに。
腰。
連撃。
ドゴッ!!
悪魔の重心が崩れる。
勢いが止まらない。
そのまま。
巨体が前のめりに地面へ突っ込む。
大地が揺れる。
土煙。
だが。
ヴォイドはもう動いていた。
追いつく。
倒れた悪魔へ。
飛び乗る。
マウント。
そして。
拳。
喉へ。
ゴッ!!
顔面へ。
ゴガッ!!
さらに。
ゴッ!!
ゴッ!!
黒い液体が口元から飛び散る。
悪魔が暴れる。
巨大な腕が振り回される。
だが。
そこにヴォイドはいない。
悪魔が身体を起こす。
両手をつく。
周囲を見る。
いない。
どこだ。
その瞬間。
腕の後ろ。
死角。
ヴォイド。
悪魔の片腕を掴む。
巨体。
関係ない。
腰を落とす。
重心を崩す。
そして。
投げた。
「――ッ!?」
巨大悪魔の身体が浮く。
オーガ達が目を見開く。
一本背負い。
いや。
違う。
片手で手首を制御。
もう片方で胸元の突起を掴む。
担ぐ。
さらに。
脚払い。
背負投と払腰。
二つを同時に成立させたような投げ。
ヴォイドの身体が回る。
悪魔の巨体が宙を舞う。
そして。
叩き落とされた。
頭から。
地面へ。
ズドォォォォォン!!!!
大地がめくれる。
首。
曲がってはいけない方向へ曲がる。
悪魔の目が見開かれる。
口から黒炎。
全身が崩れる。
燃える。
灰になる。
最後には。
黒い火だけが残った。
風が吹く。
火が消える。
静寂。
ヴォイドは静かに立っていた。
息一つ乱れていない。
ジュワカボースは。
目を輝かせていた。
頬を紅潮させ。
楽しそうに。
嬉しそうに。
まるで宝物を見つけた子どものように。
「――素晴らしい。」
小さく。
そう呟いた。
ヤマアラシのジレンマ




