VS悪魔達
草原。
風。
長い草が波のように揺れる。
遠くには街道。
さらに奥には、
深い森。
ヴォイド国。
そして。
魔王候補ジュワカボースと4体の悪魔たちが立っていた。
小柄な身体。
和装。
幼い少女の姿。
だが。
その周囲だけ、
空気の質が違う。
世界そのものが、
彼女を避けているようだった。
「ここならよかろう」
ジュワカボースが笑う。
「お主も」
「自分の国の中では力を出しづらいじゃろ?」
ヴォイドは黙って周囲を見る。
広い。
遮蔽物なし。
被害を気にする必要もない。
ジュワカボースが両手を上げた。
瞬間。
空間が震える。
薄い虹色。
巨大な膜。
空を覆う。
半球状。
地平線まで広がる、
巨大なドーム。
その表面を、
七色の光がゆっくり流れていた。
国に残ったオーガ達が息を呑む。
その映像を見ていた五武人ですら、目を細める。
「安心せい」
ジュワカボースが楽しそうに言う。
「防護壁のようなものじゃ」
「周囲への被害は出ん」
「我ながら便利であろ?」
彼女はケラケラ笑った。
その後ろ。
黒い魔法陣から現れた。
四体。
悪魔。
人型。
だが。
人間とは似ても似つかない。
裂けた口。
鋭い牙。
捻れた角。
紫色の皮膚。
膨れ上がった赤い筋肉。
細長い黄色い腕。
異様に長い緑の爪。
目だけがギラギラと輝いていた。
悪魔達はニヤつきながらヴォイドを見る。
紫悪魔「へぇ」
黄色悪魔「コイツがこの世界のオーガか」
緑悪魔「俺等の遊び相手にもならねえな」
赤悪魔「死体になるだけで済むとは思ってねえよな?」
紫悪魔「じゃあ誰からいく?」
悪魔達が笑う。
下卑た。
獣のような笑い。
そして。
一体が口を歪めた。
紫悪魔「――ではまず…とっておきだ!」
瞬間。
四体同時。
手からの光弾、爆発的な速度。
地面が抉れる。
普通の生物なら、
視認すらできない速度。
だが。
ヴォイドが動く。
踏み込み。
拳。
空気が爆ぜる。
真正面。
悪魔たちへ。
だが。
四体は散る。
左右。
上。
後方。
まるで最初から読んでいたように。
紫悪魔「はっ!」
背後。
両手を突き出す。
紫色の弾丸。
高速連射。
バババババッ!!
空気を裂きながら、
紫光がヴォイドへ降り注ぐ。
爆発。
土煙。
視界が消える。
悪魔たちが笑う。
紫悪魔「へっ――」
そこで。
止まる。
目。
開く。
土煙の中。
すぐ目の前。
いた。
ヴォイド。
紫悪魔「――ん?…んおぉ?」
理解より先。
両手。
組まれている。
頭上。
そして。
振り下ろされた。
ゴッッッッッ!!!!!!
空気が潰れる。
紫悪魔の頭部へ、
ヴォイドのダブルスレッジハンマーが直撃する。
首。
肩。
背骨。
全てが一瞬で沈む。
白目。
舌。
地面へ叩きつけられ、
紫悪魔は痙攣しながら動かなくなる。
赤悪魔「ちぃ!!」
残った三体が中央のヴォイドにむかい光弾を放つ。
手ごたえはなかった。
光弾同士がぶつかり合い、小規模な爆発を起こし土煙が上がる。
悪魔たちが首を振る。
見失った。
赤悪魔「野郎!!どこへ行きやがった!?」
どこだ。
どこへ――
その瞬間。
背後。
気配。
黄色悪魔が振り返る。
だが。
遅い。
ヴォイド。
真後ろ。
腕が首へ回る。
裸締め。
黄色悪魔「がっ――!?」
ギリギリギリギリッ!!
首。
軋む。
黄色悪魔の眼球が飛び出しかける。
黄色悪魔「ああ…ああああああ――」
メギッ。
嫌な音。
首がありえない方向へ捻じ曲がる。
黄色悪魔の身体から力が抜ける。
だが。
まだ終わらない。
赤悪魔「くそぉ…」
土煙が薄れる。
オーガのシルエット。
盛り上がった筋肉に特徴的な二本の角。
赤悪魔が吠えた。
「へへへ…ばかめぇ!…はぁぁぁぁぁ!!」
片腕。
魔力集中。
赤白い光。
圧縮。
圧縮。
圧縮。
そして。
放出。
極太の魔力塊が、
一直線にヴォイドへ撃ち込まれる。
轟音。
爆発。
地面が吹き飛ぶ。
草原が抉れる。
赤悪魔がほくそ笑む。
だが。
赤悪魔の笑みが止まる。
爆煙の中。
立っている。
ヴォイド。
無傷。
その前。
ぐちゃり。
首を折られた黄色悪魔。
焦げついた身体。
赤悪魔「ああ!?」
盾。
身代わり。
緑悪魔の顔が引きつる。
緑悪魔「そ…そんなばかな!……やつはレベル1のただのオーガなはず…」
一拍。
赤悪魔「チィッ!レベルはどうあれ、オーガであることには違いねぇ!油断するな!行くぞぉ!!」
赤悪魔・緑悪魔「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」
緑悪魔が高速で即座に動く。
ヴォイドへ飛びつく。
両腕。
両脚。
締め上げる。
拘束。
「今だ!!」
だが。
ヴォイドは止まらない。
片腕だけで、
緑悪魔の身体を掴む。
「ぐぐぐぐぅぅぅ…はぁ?」
ベリッ。
引き剥がす。
簡単に。
子どもを掴むように。
緑悪魔が青ざめる。
「待っ――」
ヴォイド。
振り向く。
赤悪魔へ。
そして。
投げた。
ドォンッ!!!!
緑悪魔の身体が砲弾のように飛ぶ。
赤悪魔へ直撃。
「「ぶhぇぇ――!?」」
二体同時。
後方へ吹き飛ぶ。
空中。
回転。
骨。
砕ける音。
だが。
そこで終わらない。
ヴォイドが消える。
違う。
速すぎて見えない。
次の瞬間。
飛ばされる悪魔達に。
追いついていた。
空中。
ヴォイド。
両腕を引く。
腰を捻る。
そして。
拳。
赤悪魔「まっ!!まてぇぁぁぁぁぁ!!!!」
緑悪魔の腹部へ。
貫通して赤悪魔の腹部へ。
同時。
叩き込む。
ズドォォォォォン!!!!!!
空気が爆発する。
二体の身体が弓のように折れ曲がる。
口から黒い液体。
眼球が飛び出す。
衝撃波が草原を揺らす。
そのまま。
二体は障壁へ激突。
落ちる。
転がる。
動かない。
静寂。
風だけが吹く。
草が揺れる。
四体。
全滅。
ヴォイドは静かに立っていた。
息一つ乱れていない。
ジュワカボースが目を輝かせる。
そして。
満面の笑みで拍手した。
「――素晴らしい!」
その声だけが。
草原に響いていた。
※作者はゴボウが好きです。




