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敗者の行進

村の一角。


切り開かれた広場。


そこに、

生き残った人間達が集められていた。


血。


泥。


呻き声。


薬草の匂い。


鉄臭さ。


そして——静けさ。


戦闘は終わっていた。


終わってしまっていた。


聖十三字軍。


約五千。


その半数近くが、

すでに戦える状態ではない。


形ある遺骸は、

木箱へ。


判別不能な肉片や、

砕けた鎧ごと回収されたものは、

大きな箱へまとめられていく。


オーガ兵達は、

淡々と作業していた。


まるで戦場処理に慣れている。


それが、

捕虜達には余計に恐ろしかった。


「……ぅ……」


誰かが嗚咽する。


縄で縛られた兵士達は、

恐怖と痛みと絶望で顔を青くしていた。


その中。


一人だけ。


異様なほど安らかな顔で、

長いいびきをかいている男がいた。


コーゲン。


縄で拘束され、

壁にもたれかかっている。


「ぐごぉ……ぐぅ……」


生きていた。


むしろ、

よく寝ていた。


その横で、

チシャがゆっくりと目を開ける。


「……っ」


頭痛。


鈍い吐き気。


後頭部に熱がある。


拘束。


周囲。


並べられた兵士。


闊歩するオーガ達。


そこでようやく、

理解した。


負けた。


完全に。


だが、

生きている。


その事実に、

ほんの少しだけ安堵する。


一方。


ジシレは、

猿轡を噛まされ、

目隠しされ、

後ろ手に拘束されていた。


「んーっ!! んっ!!」


目を覚ました直後は暴れていた。


だが、

胸が痛むのか。


呼吸が浅い。


すぐに静かになる。


そして。


聖女。


彼女だけは、

丁重に縄をかけられていた。


だが——汚れていた。


血。


泥。


涙。


涎。


白かった法衣は、

もう原型を留めていない。


目は開いている。


だが、

何も見ていない。


壊れていた。


広場には、

およそ二千五百ほどの兵士達が座らされていた。


喋れる者。


動けない者。


治療中の者。


ただ息だけしている者。


様々だった。


やがて。


オーガ兵達が整列する。


中央。


前列に、

チシャ。


その横に、

比較的高級な鎧を着た人間将校。


その後ろ。


聖女。


ジシレ。


そして、

眠り続けるコーゲン。


さらに後方に、

捕虜達が並ばされる。


その時。


奥から、

ヴォイドが歩いてきた。


瞬間。


後方の兵士達が震え上がる。


「ひっ……」


「く、来るな……」


中には、

泡を吹いて失神する者までいる。


ヴォイドは、

少しだけ困ったような顔をした。


そして。


静かに後ろへ下がる。


代わりに。


三体のオーガが前へ出た。


一本角。


二本角。


三本角。


3智将。


一本角のリナイズが口を開く。


「そなた達はいかなる国から派遣され、

我がオーガの国、

ヴォイド国へ侵略行為を行ったのか」


その言葉に、

人間側がざわめく。


国。


今、こいつは国と言った。


チシャが睨み返す。


「……私達は正義のために来た」


声は掠れている。


それでも、

視線だけは折れない。


「カルトマイコンより派遣された。

無法なオーガを狩り、

人類に平和をもたらすために」


息を吐く。


「……国?

魔族がそんなもの作れるわけない」


沈黙。


二本角のディスナイズが、

小さくため息をつく。


「話にならんな」


だが。


怒らない。


「だが、我々は貴様らを元の場所へ返すつもりだ」


その言葉に、

捕虜達が顔を上げる。


「ただし」


ディスナイズが続ける。


「皆にはこれを飲んでもらう」


赤い小さな玉。


丸い。


飴玉のようなそれを、

オーガ兵達が一人ずつ配り始める。


「な、なんだそれ……」


「毒か?」


兵士達が怯える。


三本角のニズムが答えた。


「魔属石です」


静かな声。


「しばらくの間、

貴方達は魔法が使えません」


その瞬間。


空気が凍る。


魔法使い達の顔色が変わる。


ニズムは続ける。


「聖女様と、

そちらの魔法使いの方には、

こちらも装着させていただきます」


緑色の魔属石。


首輪。


カチリ。


聖女とジシレの首に、

それが装着される。


ジシレが目を見開く。


魔力は感じる。


だが。


何かがおかしい。


「では」


リナイズが言う。


「このまま、

貴方達の国まで案内していただきたい」


一本角が、

静かに揺れる。


「我々ヴォイド国は、

すでに周辺国家より国家承認を受けている」


「そこへ侵攻した貴様らは、

我々の敵だ」


「ゆえに」


「戦争の開始を、

正式に伝えねばならぬ」


その瞬間。


後方。


一人の兵士が立ち上がった。


震えている。


「ふ、ふざけるな!!」


涙。


鼻水。


恐怖。


「魔法が使えないだと!?

そんなことできるか!!」


魔力を練る。


「魔法は!!

神が人に与えた——!!」


詠唱。


周囲が止める。


「やめろ!!」


「待て!!」


「使うな!!」


だが。


遅い。


次の瞬間。


兵士の身体が、

内側から爆発した。


肉片。


血。


骨。


脚だけが残る。


それが、

ゆっくりと倒れた。


静寂。


誰も声を出せない。


ニズムが静かに言う。


「だから、

使わなければ良いのですよ」


その声は、

あまりにも穏やかだった。


オーガ兵が、

ジシレの目隠しを外す。


「魔法使いさんも、

見えたほうが安心でしょう」


「ただし」


少しだけ笑う。


「使わないほうが良いですが」


ジシレの顔色が、

さらに悪くなる。


リナイズが説明を続けた。


「皆さんに飲んでいただいたのは、

爆裂の魔属石」


「銅貨五〜十枚程度で買える、

一般的なものです」


「魔力に反応し、

先程のように爆発します」


兵士達が震える。


自然と、

聖女とジシレへ視線が向く。


二人とも、

静かに首を横へ振った。


使うな。


その意味だった。


そして。


再び、

静かに準備が始まる。


帰還準備。


敗者達の行進。


その様子を、

少し離れた場所からヴォイドが見ていた。


何も言わない。


ただ。


遠くを見ていた。


まるで、

もう次のことを考えているように。

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