国を守るもの
戦場の中央付近
爆裂。
轟音。
木片。
土煙。
熱風。
聖十三字軍を分断していた木盾の壁が、
内側から弾け飛ぶ。
吹き飛ばされたオーガ兵たちが、
地面を転がる。
だが。
悲鳴は少ない。
盾を構えていた兵たちは、
爆発の瞬間、
衝撃方向へ身体を流していた。
後方。
さらに後方。
重装盾兵が衝撃を受け止めていた。
木盾が砕ける。
土が舞う。
煙が広がる。
だが。
致命傷はいない。
「おい、生きてるか」
低い声。
土煙の中から、ガンジーが歩いてくる。
吹き飛ばされ、仰向けになっていたオーガ兵へ手を伸ばす。
「ぐ……すまん」
「いや、いい。訓練通りだ」
腕を引く。
巨体が起き上がる。
鎧には焦げ。
肩には裂傷。
煤だらけ。
だが立てる。
「爆裂系か」
クロルが周囲を見る。
砕けた木片。
焼け焦げ。
中心点。
「範囲指定は雑だが、威力は悪くない」
「杖なしでこれなら上等だな」
メタがしゃがみ込む。
その視線の先。
巨大な鎧。
聖十三字軍軍団長。
血塗れ。
動かない。
そして。
その下敷きになっている一人の女。
ジシレ。
「……これか」
ノイドが鎧を持ち上げる。
潰された女の身体が見える。
細い。
軽い。
軍団長の重量に押し潰され、呼吸が浅い。
だが。
胸は上下している。
「生きてるぞ」
「魔法使いだな」
「口塞ぐか?」
クライムが言う。
だがメタが首を振る。
「窒息したら面倒だ」
「ならアレ付けるか」
クロルが腰袋から
緑色の数珠状の輪を取り出す。
魔属石。
それを加工した拘束具。
ジシレの細い手首へ
無骨な輪が嵌められる。
そして布で目をふさぎ、手も結ぶ。
「よし」
「運べるな」
「丁重にな」
「ヴォイド様が使うかもしれん」
そう言って二体のオーガ兵が気絶したジシレを持ち上げる。
まるで壊れ物を扱うように。
―――
周囲。
呻き声。
血。
倒れた兵。
まだ生きている者もいる。
「そっち武器外せ」
「縄」
「脚やってるやつは後回し」
「死んでるのまとめろ」
「息あるやつは分けろ」
指示が飛ぶ。
速い。
淀みがない。
オーガ兵たちが慣れた動きで処理していく。
人間兵の剣を外し。
盾を退かし。
生存確認。
拘束。
運搬。
誰も興奮していない。
誰も笑っていない。
ただ、作業のように進む。
それを。
瀕死の兵士が見ていた。
ぼやけた視界。
血に濡れた顔。
その向こう。
オーガが、負傷した仲間へ水を渡している。
焼けた肩へ布を巻く。
矢を抜く。
「痛むか」
「いや、平気だ」
「無理するな」
「後でだれかに診せろ」
その光景に、兵士の目が揺れる。
理解できない。
魔族。
化け物。
野蛮。
そう教えられてきた。
だが。
目の前のそれは。
軍だった。
国家だった。
―――
その時。
遠く。
空気が震える。
五武人が同時に顔を上げる。
「……ヴォイド様か」
「だろうな」
「終わったか?」
「さあな」
ノイドが森を見る。
静かに。
「ただ、終わらせてる最中だ」
空気が止まる。
その言葉だけで、
周囲の兵が背筋を伸ばす。
―――
ガンジーが振り返る。
「外周確認」
「人間側の斥候が残ってる可能性ある」
「見張り出せ」
「あと、逃げたやつが森抜ける前に捕まえろ」
「了解」
数体のオーガ兵が走る。
森へ消える。
続けて。
「オーガ鋼、拾い集めとけ」
「あれ高いんだぞ」
「投げっぱなしにすんな」
「はいよ」
兵たちが、地面へ散らばった黒い球を回収し始める。
血に濡れた鉱石。
潰れた鎧。
砕けた盾。
その中を、オーガたちが静かに歩く。
―――
そして。
クライムがふと呟く。
「……なあ」
「なんだ」
「これ本当に人間側から仕掛けてきた戦争なんだよな?」
少しの沈黙。
誰も笑わない。
クロルがゆっくり答える。
「そうだ」
「だから、終わらせる」
その声は静かだった。
だが。
そこには一切の迷いがなかった。
―――
森の奥。
さらに深く。
ヴォイドが待つ場所へ。
五武人たちは歩き出す。
血と土を踏みながら。
勝者としてではない。
国を守る者として。




